【寄稿】旬刊経理情報 2008年2月1日号 

p58「クローズ・アップ」
取締役 公認会計士  薄井賢治
シニアコンサルタント 野神 陽

週単位のPDCA、迅速な計画策定、先行管理
四半期開示時代の新しい経営管理

―ポイント―
四半期開示の制度化により、今企業は変革の時を迎えている。単なる制度化への対応ではなく、外部環境のスピーディーな変化やビジネスサイクルの短縮化といった経営環境の変化に対して、全社の方向性を決めるための針路となる「経営管理の仕組み」を高度化することが必要なのである。本稿では、重要な要素となる「スピード経営」「実行保証」「モチベーション」を実現するための方法と、四半期開示時代に求められる新たな経営管理の仕組みを模索する。

四半期開示の制度化によって何が変わるのか

平成16年度より始まった四半期情報開示の動きが高まる中、平成20年度4月1日以降開始の事業年度より、いよいよ本格的に四半期開示制度(四半期確定決算及び計画実績管理の実現)が開始され、上場会社では、四半期決算とそれに伴うインフラ整備が急務となった。しかし、四半期開示制度とは、一体企業に何を求めているのであろうか。そもそも、四半期開示が求められている背景は何なのか?
その根底にあるのは、外部環境の目まぐるしい変化とビジネスサイクルの短縮化といった経営環境の変化である。対外的に考えれば、経営環境のスピーディーな変化に伴い、株主が情報を欲するタイミングがより早くなったことを意味する。では、対内的な意味合いは何か?それは、「経営管理」を行うべきタイミングがより早くなったことである。ここでいう「経営管理」とは、計画策定にはじまり、実績管理を行い、意思決定を行うまでの一連のPDCAサイクルを意味する。今回は、四半期開示に対する制度対応について述べるのではなく、四半期開示時代に求められる新たな経営管理の仕組みについて取り上げる。

四半期開示時代の経営管理に求められること

それでは、「四半期開示時代に求められる新たな経営管理の仕組み」とは一体どのようなものなのであろうか?結論からいえば、次の3つの要素を満たす経営管理の仕組みを構築・運用することである。

  1. 週単位でのPDCAサイクル
  2. 信頼性の高い計画のスピーディーな作成
  3. 先行管理による意思決定のスピード化

経営環境がスピーディーに変化する現状を考えると、年初に立てた計画を月次で管理していくこれまでのサイクルでは、明らかにその変化に対応していくことはできない。現状に対する原因分析を行い課題が抽出できても、課題を把握するまでに時間がかかり過ぎるため、有効な施策をタイムリーに行うことができないのである。時々刻々と変わる経営環境に対して、適時状況を把握し対応策を検討していくためには、より短いサイクルでのPDCA管理が必要である。
短いサイクルでのPDCA管理を行うためには、スピーディーな計画の策定が前提となる。計画とは前提となる戦略によって規定されるものであり、経営環境がスピーディーに変化し戦略もそれに合わせて変更を余儀なくされる状況では、戦略と共に計画も変わって然るべきなのである。しかし、計画の策定と一言でいっても、実際の作業は様々な関連部署が複雑に絡み合う大変な作業であり、計画策定期間中は、他の作業が手に付かない企業も多い。PDCAサイクル短縮化のためには、スピーディーに、かつ信頼性の高い計画を策定できるような仕組みが必要となる。
ただし、信頼性の高い計画をスピーディーに作成するだけでは意味がない。何故なら、計画は作ることが目的ではなく、それが有用に活用されてこそ初めて意味を持つものだからである。計画とは、企業が目指すべき目標値であり、計画についての管理を行うことは目標を達成するための意思決定を行うことに他ならない。それ故、計画管理は最新の状況を反映した数値によって行われるべきである。実績をスピーディーに把握することも重要であるが、より高度な経営管理の仕組みを構築するためには、最新の見込値に基づく先行管理を行うことが必要である。

今後求められる新たな経営管理の仕組み

本章では、「四半期開示時代に求められる新たな経営管理の仕組み」について、その概要と必要性を具体的に説明したい。

1.週単位でのPDCAサイクル

週単位でのPDCAサイクルとは、1年間の計画を12ヶ月で管理するサイクルと同様に、四半期を13週(1年53週÷4≒13週)で管理するマネジメントサイクルのことである。四半期決算が義務付けられた現状においては、月単位でのマネジメントでは各四半期3回ずつしか意思決定を行うタイミングがなく、目標達成のための意思決定を行うタイミング、頻度が明らかに遅すぎる。現状、多くの企業では、販売活動、生産活動、購買活動等を週単位で実施しており、週単位でのマネジメントを行うことは、これらのサイクルを全社的なマネジメントにまで拡張することだといえる。週単位でのPDCAサイクルを確立するためには、以下の要素を実現することが必要である。

■日次決算
■週次決算
■週次見込管理

週単位でのPDCAサイクル確立のためには、まず日次での進捗管理を行うことである。週次での計画値に対し、1日1日の進捗状況を把握し、速報値ベースで情報を共有化する。1日の目標を明確に意識し、結果がどうであったか常に管理していくことが目標の達成に繋がる。日次での進捗管理を行った後、週次決算を行い企画に対する実績管理を実施する。週次での計画値に対して、最終的な結果がどうなったかをハイライトする必要があり、計画に対して差異が生じている場合は、要因分析を行う。週次決算を行ったら、週次見込管理を実施する。週次見込管理とは、週次で四半期の計画に対する着地見込を策定し、着地見込と当初計画との差異を把握することである。計画との間に乖離が生じている場合は、その乖離を埋めるためのアクションプランを策定し、その上で全体計画の修正を行う。アクションプランは、方針やイメージではなく、具体的な活動に落とされている必要があり、次週以降そのアクションプランに沿って状況を改善していく。
重要なことは、これらのサイクルを短期的な活動として行うのではなく、継続的に行われるサイクルとして定着化させることである。「定着化」というのは運用面での意味合いもあるが、精神面での意識の定着という意味合いもある。「自らが考え」「自らが責任を持って」「自らが行動すること」が真に重要なことであり、週単位でのPDCAサイクルはそれを継続的に行うための仕組みなのである。

2.信頼性の高い計画のスピーディーな作成

次に、週単位でのPDCAサイクルを実現するために前提となる、信頼性の高い計画をスピーディーに策定するための仕組みについて説明を行う。スピーディーに計画を策定する意義は、PDCAサイクルの短縮化を図るためだけではなく、作業負荷の軽減や計画の精度を高めることである。スピーディーに計画を策定することが、計画の精度を高めることに繋がるのは、計画は鮮度が決め手となるからである。半年前の経営環境を基に立てられた戦略・計画よりも、1ヶ月前の経営環境を基に立てられた戦略・計画の方がより現実的で、精度が高いのは当然のことである。信頼性の高い計画をスピーディーに策定するための仕組みを構築ためには、以下の要素を実現することが必要である。

■計画策定ツールの整備
■活動・資源・成果目標のフルリンケージ
■活動計画に対する前提条件の管理(仮説前提検証型経営の実施)

まず、計画策定ツールの整備であるが、これは必ずしもシステム化を意味するものではなく、計画策定ロジックの視える化を意味している。全社経営計画を策定する場合、複数の部署の様々な費用項目を全て取り込む必要があるため、中身が複雑化し経営者や責任部署に理解されていないことが多い。インプット(前提条件)とアウトプット(結果)の関係性を明確にし、前提条件を変えた時に結果がどのように変わるのかを視える化することが必要である。インプットとアウトプットの関係性は、計画策定担当者にとっては暗黙知となっているものであり、それを今後形式知化することが重要である。また、インプットを策定するスパンは、販売計画や販促計画、生産計画のような市場・競争環境に影響を受けるものと、人件費や経費のようなある程度経営者の意志でコントロールできるものとでは、当然違ってくる。計画策定項目の性質や重要性に応じて、インプットを見直すスパンを決めることも重要である。
次に、計画・資源・成果目標のフルリンケージであるが、これは業務活動計画と資源計画、成果目標が常に連動し、整合して策定される事を意味している。よく見られるのが、数字を作るのに手一杯で、活用計画や資源計画と、本来その結果であるはずの成果目標とが連動していないケースである。そのようなケースは、想いだけが先行し裏付けのない計画となっていることが多い。計画全体の整合性を無視すると、精度が低く実現性のない計画となってしまう。
最後に、活動計画に対する前提条件の管理であるが、これは活動結果としての実績情報を次のアクションに結びつけられるように活用するための仕組みのことである。そもそも、活動計画はいくつかの前提条件(誰が、いつ、何を、どんな状況で、どうするか)の基に立てられるものであり、前提条件が変われば活動計画も当然変わってくる。結果としての計画と実績だけを管理するのではなく、仮説前提が変化した結果として発生する計画と実績の乖離を把握することが重要である。前提の変化と結果の紐付きが明確化されれば、結果に対するアクションプランの検討は遥かに容易になるからである。

3.先行管理による意思決定のスピード化

最後に、先行管理を行うことによる意思決定のスピード化について説明を行う。先行管理を行う意義は、過去の実績だけでなく、将来を見越したマネジメントを行うことである。将来を見越したマネジメントとは、実績データだけではなく、将来の発生取引を予測した見込み・予測情報を基に意思決定を行うことであり、それだけ早い意思決定を可能とする。先行管理による意思決定のスピード化を行うためには、以下の要素を実現することが重要である。

■見込値ベースでの管理を行うための意識改革
■確度に応じた見込の管理

先行管理を行うためには、現状確定値ベースで行っている管理を、見込値ベースで行うよう意識改革を行うことから始まる。ここで理解しておく必要があることは、財務会計上の数値と管理会計上の数値との位置付けの違いである。財務会計上は、開示報告資料として、定められた制度に基づく計上が必要となるが、管理会計は、企業内部の経営管理者に対して、経営に役立つ情報を提供することを目的としており、必ずしも会計基準に沿って作成する必要はない。つまり、意思決定のスピード化を図るために、既に概ね予測・予想されている情報に基づいて先行情報を作成しても問題はないのである。確定値ベースでの管理が常識化されている企業では、見込値ベースでの管理について納得が得られにくい。まずは、見込値ベースでの管理を行う意義とその正当性を説明し、これまでの既定概念を取り払うことから始める必要がある。
見込値ベースでの管理を行う意識付けができたら、その見込値をどのように策定し、管理していくかが重要である。見込は確度に応じて3つに大別されるものであり、確度の高いホワイトボックス、確度がやや低いグレーボックス、確度の低いブラックボックスがある。

  • ホワイトボックス
    継続的に行っている戦略で、活動計画に具体性があり、ある程度結果が見込めるようなものを指す。
  • グレーボックス
    新しく取り組む戦略で、活動計画としては具体性があるが、結果は不確実性の高いものを指す。
  • ブラックボックス
    特に戦略・活動計画が具体化されておらず、数値として積み増されているものを指す。

見込値については、これらの色分けを行った上で、確度に応じた管理を行うことが重要であり、実現性が不明確なグレーボックスとブラックボックスについて対策を講じる必要がある。ブラックボックスについては新しい戦略をできるだけ早く立案し、活動計画を具体化することである。グレーボックスについては、早期にモニタリングを行い、結果を分析・フィードバックすることである。意思決定のスピード化を図るためには、計画の中身を視える化した上で、将来を見越したマネジメントを行うことが重要である。

企業価値向上に向けた目指すべき経営管理とは

以上を総括すると、「四半期開示時代に求められる新たな経営管理の仕組み」にお いて重要な要素は、「スピード経営」「実行保証」「モチベーション」を実現することである。環境の変化に対し、組織全体としてスピーディーに対処することが必要不可欠であり、そのためにはより早いサイクルで計画を策定し、管理を行う必要がある。あまりに変化が激しいので計画を策定しても意味がないという者もいるが、変化が激しい時こそ計画の重要性が高まるのである。計画がなければ、実績の把握がいくら早くできても、企業が良い方向に進んでいるかの判断を行うことができないし、全体最適を実現する意思決定など行えるはずもない。また、せっかく計画をたてても、全体の整合性が取れておらず、実現性のないものでは意思決定を行うための道標とはなりえない。活動計画・資源計画とその結果である成果目標について整合性が確保されており、その時の前提条件が明確になっていることが意思決定を行う上では重要である。また、環境の変化に合わせた前提条件の変更や、既に予測されている情報に基づいて先行管理を行うことで、意思決定のスピード化を図ることが重要である。モチベーションについては、「スピード経営」と「実行保証」によってもたらされるものであり、企業価値向上に繋がる重要な要素である。計画の精度が低く、計画と実績があまりにも乖離するような状況では、モチベーションを維持することは難しい。また、過去の実績について数値面での管理ばかり行っていても、計画と実績が乖離しやすい状況ではモチベーションの向上には繋がりにくく、先を見据えた経営管理を行っていくことがモチベーションを向上させる上では重要なことである。 本稿では、経営計画の策定や経営管理といったビジネス・マネジメント系を中心に取り上げているが、計画に対するコミットメントや結果に対する業績評価といったヒューマン・モチベーション系も含めた一連のサイクルを確立すると、より企業価値向上に繋がることは間違いない。 いずれにしても、経営環境が目まぐるしく変化し、スピーディーな対応と意思決定が求められている今、「四半期開示の制度化」という変化を企業価値向上に結び付けていく必要がある。「スピード経営」「実行保証」「モチベーション」という3つの重要な要素を満たし、「将来の不確実性に備え、経営者の意志を反映した計画を作りこんでいく仕組み」を構築することが今後の企業価値向上のためには必要不可欠なのである。