【連載第3回/2017.03】東京大学 藤本教授 在外研究エッセイ 「ドイツの中小・中堅企業の学ぶべきこと -2」 

東京大学大学院 経済学研究科 教授 
東京大学ものづくり経営研究センター センター長

仏国 社会科学高等研究院 在外研究中
藤本 隆宏

 今回は、中小中堅企業について考えてみます。欧州で暮らしていてやはり気がかりなのは、米欧・中東・中近東・東アジアなど世界が不安定化し、格差が広がり、取り残された人々の異議申立、排外主義、右傾化、テロ行為などがさらに不安を助長していることです。

 世紀初めごろに米国発で喧伝されていた21世紀楽観論はほぼ否定され、今はICT楽観論のみが独り歩きする感があります。そうした世界情勢の中で、日本でも、経済社会全体の目標と
して、「成長」もさることながら「安定」の重要性が相対的に高まっていると思います。

 その点、日本は、北欧やドイツとともに、社会や雇用の安定という点では、世界の中では実は「ましな部類」に入っていると考えられます。たとえば金融危機直後の2009年、多くの欧米諸国の失業率が8%~10%以上に跳ね上がる中で、経済は絶不調の日本の失業率は5%台で微増でした。たしかに政府の雇用調整助成や債務保証もありましたが、地域指向の中小中堅企業の踏ん張りが大きかったと思います。そのころ地場の中小製造企業や生産子会社を訪ねると、どこも大赤字だが、多くの会社が少なくとも正規社員は切らず、経営者が仕事を探して走り回っていました。いやいや中小企業は厳しいし格差も大きいぞ、との声も当然ありますが、以上はあくまでも、世界の中で比較しての話です。

 日本は減少傾向とはいえ、依然として中小企業の多い国です。しかし、日本と並んで中小中堅の多いドイツの製造業を見ると、安定感に加えて成長力もあります。2000年ごろにはドイツも日本も5千億ドルでほぼ一緒だった輸出額も、2015年だと6千億ドル対1.3兆ドルと2倍以上の差が付いています。むろんユーロ導入も円高もありますが、隣国や新興国に対する高賃金ハンデを乗り越え、低価格品であれ高価格品であれ世界で売り切るという強い意志を、日本に比べ、中堅企業も大企業も含め官民がより強く共有していたと思います。

 日独の優良中小中堅企業は、家族経営、雇用安定指向、信頼関係重視、帰属意識、技術力、
現場力、精度追求、完璧主義、創意工夫、改善指向など、類似点も多いです。一方、日本に下請系や国内系が多いのに対し、ドイツの中小中堅企業(Mittelstand)は概して独立系で、独自技術を持ち、価格設定力や輸出展開力など、商売の点では概して日本の中小中堅企業より上手です。カスタム品は日独とも得意だが、日本の専用品が顧客の言いなりになる傾向があるのに対し、ドイツ勢は、製品設計の固定部分と可変部分をしっかり切り分け、サービス・ソフト込みで個客対応し、こちらが主導権を持つスマートなテーラーメード化で機械輸出等を増やすのが得意です(ICT対応や商品化速度など課題もありますが)。 

 日本がドイツから学ぶべきは、4.0の前にまず、国内を重視しつつ世界で売り切る、ドイツ企業の意志と知恵ではないかと思います。


第4回へつづく