【連載第4回/2017.04】東京大学 藤本教授 在外研究エッセイ 「フィンランドのイノベーション政策とリーン改善」 

東京大学大学院 経済学研究科 教授 
東京大学ものづくり経営研究センター センター長

仏国 社会科学高等研究院 在外研究中
藤本 隆宏

 フィンランドは人口約500万人、首都ヘルシンキ圏は約100万人で、北海道程度のサイズ感ですが、ICTのイノベーションでは世界有数です。実直で静かな人が多い印象で、日露戦争がきっかけで独立できたとの認識があり概して親日的です。

 木材とパルプの国だったフィンランドは1980年代にICT転換で大成功し、ノキアが携帯電話でGSMなど2G,3Gでグローバル標準をとり、世界最大の携帯端末メーカーとして君臨しました。日本からは世界の業界標準をとるプラットフォームリーダー企業が出現しなかったのとは大違いで、フィンランド経済は大いに発展しました。

 しかしその成功体験が今必要な変化への足かせにもなっています。政府のイノベーション政策もノキアに依存しすぎで、そのノキアがスマートフォンへの転換に失敗したのと世界金融危機がほぼ重なり、フィンランドは一転して経済は不調、失業率も特に地方で上がりました。フィンランドは今もノベーション活性度では世界5位ですが、その割に経済が不振というパラドックスに陥った。ノキア自身は規模は大幅縮小したが、まだ基地局ビジネスで強く、利益は出していて立派ですが、産業としてはノキア頼みだけではもういけません。

 私はデジタルの世界を上空(インターネット、ICT、オープンアーキテクチャ)、低空(ICT-FAインターフェース、サイバーフィジカル)、地上(FA,物理法則の働く現場の世界、クローズドアーキテクチャ)、の3つに分けて考えますが、上空は一握りのアメリカ企業が制空権を握る空中戦の世界。小国出身ながら制空権を持っていたノキアは転落したが5Gで復活を目指す。これに対し、低空を制して独中小企業を米ICT企業の下請化から守ろうというのがインダストリー4.0。日本は地上の現場は強いが制空権は握られ低空も頑張らないと危ない。さてフィンランドはどうする。

 昨年11月に私はフィンランドの技術庁(TEKES)の会議で、同国イノベーション政策にコメントをしました。このTEKESレポートはすでにネットで公開されていますが、政府はノキア頼みでない政策を主導せよ、現場を重視せよ、能力構築とアーキテクチャ戦略のバランスをとれ、オープン・クローズド両アーキテクチャ向けの政策間で予算配分を明確にせよ、各部局と部局横断プロジェクトのリーンなマトリックス組織を導入せよ、伝統的中小企業の能力構築を支援せよ、などといった提言内容です。実は日本のものづくり経営学の影響がかなり強いです。

 私はまた、リーン生産方式に関する産業人フォーラムでも講演を行い、それがきっかけで、日本のインストラクターによる、同国中堅企業のものづくり現場の改善支援も始めました。ノキアが5Gで成功でも失敗でも対応できるプランAとプランBを用意し、どちらでもOKな強い補完財企業をもっと育て、同時に地上でしっかり戦えるリーン企業を増やせ-これが私の同国への提言です。

第5回へつづく