2012/11/12

第15号:海外拠点に対する利益管理システムのロールアウト

#トピックス

③海外拠点に対する利益管理システムのロールアウト

第9号から7話に渡って掲載してきました「グローバルサプライチェーンで実現する利益の極大化」については、本稿が最終話となります。
サプライチェーンにおいてグローバル全体で利益を極大化するためには、以下の3点が重要と考えます。
①最適地生産・メーカーレイアウトのシミュレーション
②コストダウン活動とコストマネジメントとの完全連動化
③海外拠点に対する利益管理システムのロールアウト
今回は、③海外拠点に対する利益管理システムのロールアウトのポイントについて、議論させていただきます。

これまで日系メーカーの多くが、グローバルでのコスト優位性を築くために、中国・アジアを中心とした新興国へ製造拠点をシフトしてきました。しかし、近年ではこれらの新興国においても人件費の高騰が急速に進んでおり、これまでの現場管理、品質管理だけでなく、利益・業績を管理するしくみの構築が急務となってきています。
今回は、こうした背景を踏まえ、海外拠点において利益・業績を管理するしくみを如何にしてロールアウト (導入・展開)していくかお話させていただきます。

これまでの弊社支援経験から、「海外へロールアウトするにあたってのポイント」は以下の3つと考えます。
(1)会社へのロイヤルティを向上する
(2)現地との適切な距離感を保ちながら拠点の性格に応じた導入を図る
(3)利益意識を全社員へ浸透させる

「(1)会社へのロイヤルティを向上する」ことが必要な背景には、現地の優秀な人材をいかに囲い込み、育てていくか、という課題があります。昨今、新興国に進出している企業では、優秀な人材や将来有望な若手が他社に引き抜かれてしまい、仕組みが根付かないという悩みを度々伺います。
それを防ぐための有効な手立てが、会社へのロイヤルティ向上です。国の違いはあれど、人は単に給料のために働いているわけではなく、仲間との関係性、会社に対する愛着、あるいは自らの仕事への誇りを持って仕事をしています。そのような意識を高めることにより、会社へのロイヤルティは向上し、人材の流出を未然に防ぐことができます。
我々は、ロイヤルティを高めるために「理念からの落とし込みによる業務改革」が必要と考えます。
単に企業理念だけをお題目のように唱えてもロイヤリティは高くなりません。企業理念と具体的な日々の行動が連動した形での新業務設計が重要と考えます。

「(2)現地との適切な距離感を保ちながら拠点の性格に応じた導入を図る」ことが必要な背景には、各国の歴史的背景や文化の違いがあります。
日本の価値観を一方的に押し付けても、現地には受け入れられず、仕組みを定着化することはできません。重要なことは、拠点の性格を踏まえて導入の仕方・手段を柔軟に変え、進めていくことです。例えば、温暖で食物が豊富な地域では、計画性のない人が多い傾向があります。そのような地域の人に対して、PDCAサイクルを実施するよう促しても、サポート無しには難しいことでしょう。
また、旧植民地下の地域では、自己保身が強い人が多い傾向にあり、口頭で約束しても、後から無かったことにされてしまうことが多々あります。そのような地域では、出来る限り文面で約束を取り付けることが必要です。
このように、拠点による性格の違いを見極め、拠点との関わり方を柔軟に変えながら、仕組みの導入・定着化を図っていくことが成功に繋がります。 

「(3)利益意識を全社員へ浸透させる」ことが必要な背景には、海外における利益意識の低さがあります。新興国ではこれまでコスト低減に向けた緻密な管理をしなくても、高い利益を確保できていた拠点が殆どでした。そのため、社員1人1人の利益意識は低く、自発的なコスト低減活動はなされていませんでした。
そのような中、利益意識を浸透させるためには、モチベーション向上に繋がる制度・仕組みの構築が必要です。
ただ漠然と必要性を説いただけでは、社員の行動には繋がりません。人は、行動への対価に納得できた時に、はじめて自発的に行動するようになります。具体的には、利益管理の制度導入に合わせて、評価制度を見直す方法があげられます。その際には、国や拠点の特性・風土を考慮することが重要になります。例えば、全体主義の国では、チームの成果との連動を重視した仕組みを構築します。期間労働者が多い拠点では、事情を考慮した制度を設計します。
このように、モチベーション向上に繋がる制度・仕組みを合わせて構築することが重要となります。 

海外へ製造拠点をシフトしている企業の方から、「共通のシステムを導入したが、現地の実態を示す情報が得られない」「親会社で制度を規定しているが、各社への浸透のさせ方が分からない」といった悩みをよく耳にします。
そのような状況は、導入方法や定着化に向けた施策が打たれていないことに起因していると考えられます。海外へのロールアウトは、上記ポイントを考慮し、推進していくことが重要だと考えます。

(SCM事業部 マネージャー 野神 陽)

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