2019.10.14

【Vol.1・後編】LAYERS’ Business Insight「階層はもう不要、グローバルで勝てる働き方改革とは」

#セミナー #働き方改革 #人事・人財戦略

「働き方改革」をテーマに、戦略人事の第一人者でありダイバーシティ推進にも取り組むpeople firstの八木洋介氏と、長年の海外駐在経験をもとにCIOとしてグローバルにIT人材活用に取り組まれているコニカミノルタの仲川幾夫氏に意見を交換し合ってもらう特別対談。前編「その働き方改革は本質的な働き方を追求しているか」に続き、後編ではグローバルで勝てる働き方改革についてお二人の議論をお届けします。

●聞き手|佐藤隆太(レイヤーズ・コンサルティング)

不要な階層が
働き方改革を停滞させる

佐藤隆太(以下、佐藤) 海外生活が長かった仲川さんのご経験から、日本企業の働き方について、海外企業との相違を感じることはありますか?

仲川幾夫氏(以下、仲川) 一般論でいうと、「会議が多い」のと「報告が多い」ということでしょうか。「報告」にもの凄いエネルギーを使うというのが一番の違いですね。

仲川幾夫(なかがわ・いくお)
コニカミノルタ株式会社常務執行役。デジタルワークプレイス事業部・IT企画部(CIO)・DXブランド推進部を管掌。ミノルタ株式会社に入社後、海外営業に携わり、香港、米国の販売会社駐在を経て、2003年にはコニカミノルタUSA上級副社長として、コニカミノルタUSA販社の経営統合を推進。米国で買収した米国上場企業の会長職を経て、2009年にコニカミノルタホールディングスUSA社長、2011年にコニカミノルタ中国社長、2014年にコニカミノルタ欧州社長兼本社執行役を歴任。2018年4月より現職。

 ヨーロッパの社長でも中国の社長でもそうなのですが、海外の社長は、かなり任されていると思います。社長は自分で決めなければならない。本社にお窺い立ててやっていたら全然ダメです。もちろん報告はしますが、自分で決めることがいっぱいある。もちろん部下に任せますが、任せても最終的には責任は自分が取るので、かなり入り込んで理解したうえで任せて進めます。

 そういうやり方をしていたのですが、日本では階層が多い。たとえば5人が「うん」と言わないと進まないということがありますね。

八木洋介氏(以下、八木) そもそも要らない階層は廃止すべきだし、それぞれの階層の意思決定者には相応しい人材を配置すべきです。

 人材の配置は人事部だけに任せてはいけません。「誰が一番適任か」という議論の時に人事部に任せると、「あいつ、何年入社なんだ?」みたいな話になる。徹底した適材適所というより、バランスを重視した調整のような人事異動をしてしまいがちです。人材の配置の肝は「会社にとって、どれが一番大事なのか」なのだから、関係者が議論して決めればいいのです。一つのポジションが空いた時に、会社中を探して「誰が一番いいんだ」という議論をすればいいだけです。メリハリのない調整のようなことをやっていてはグローバルでは勝てないですね。

仲川 弊社の場合は、かなり変わりました。かつて、ホールディングスがあって事業会社があった時は屋上屋みたいになっていましたが、それが一つになって無くなりましたので、かなり階層が少なくなりましたね。

働き方改革を推進する経営者は
強さと良さの両方を持つ

仲川 日本の体制で大変だなと思うのは、トップの指示に対して「イエス」と言いながら、やらない人が結構いると感じます。その「やらない」にも2つあって、1つは「できない、実力がない、実行力がない」、もう1つは「やりたくない、面倒くさいことはしたくない」。この2つだと思うのですが、「やります、やります」と言って、もう時間ばっかり経って、結局できないということになる。欧米だとそういう人は、すぐに解雇されます。みんな自分で勝負しているので、そこがやっぱり大きな違いです。

八木 結果に責任を負うCEOが議論を尽くした後に「会社としてこれをやろう」と決めた時に、なぜ、一緒にやろうとしない人を外さないのか。私はこれが不思議でなりません。それを言うと、「日本は特殊で、クビにできない」と言います。日本は特殊だからといって、本当にそのままでいいのでしょうか。外にいっぱい競争相手がいるのに、チーム一丸になる体制を作らずにグローバルで勝てるわけがない。

 別に1,000人のうち200人を解雇せよと言っているわけではないのです。一番チーム一丸を阻害している人にお引き取りいただくか、少なくともポジションを外せば、メッセージは伝わるものです。

佐藤 日本企業の経営トップには、グローバルで勝つための強さや覚悟が欠けているということでしょうか。

仲川 そうですね。日本で成功している会社っていっぱいありますが、そういう会社を見ていたら、経営者がすごく強いリーダーシップを持っていて、それが下まで浸透しているというのがあると思いますね。

八木 私は、経営には強さと良さの両方が必要だと思っています。良い経営だけで勝てるほど甘くない。だけど、強いだけで勝てるかというと、それも違う。インターネットの時代には企業や経営者の活動は簡単には期日の下に晒される。良さをもっていないと人は受け入れてくれないし、強さがないとグローバルレベルの激しい競争を勝ち抜けない。そんな時代が、もうここに来ているのです。

仲川 改革の推進には「人間力」が必要だと思います。それがないと人はついてこない。強さと人間力の両方がないと人を引っ張っていけないのかな、というのは思います。

八木 強さと良さの両方を持つ経営と言いましたが、変革は、トップ1人でやらなくていいのです。「何のために人事部を置いているのですか?」。人事部は、もちろん採用もしないといけないし、社員の意識づけも、評価もしなければなりません。しかし、チームを作り、チームを一丸にするのに力を発揮するのも人事だし、チームワークを乱す人たちに対してアクションを取るのも人事です。それが私は人事のプロフェッショナルだと思います。そういうことができるプロフェッショナルをトップの右腕、左腕としてちゃんと育てなくてはなりません。

八木洋介(やぎ・ようすけ)
株式会社people first代表取締役。1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。National Steelに出向し、CEOを補佐。1999年にGEに入社し、複数のビジネスで人事責任者などを歴任。2012年に株式会社LIXILグループ 執行役副社長に就任。Grohe, American Standard, Permasteelisaの取締役を歴任。17年より現職。経済同友会幹事。現在、東証一部上場企業などのアドバイザーを務めている。著書に「戦略人事のビジョン」。活発に講演活動を行い、雑誌などに記事多数。

「これで勝てるのか」を
常に自問自答する

佐藤 グローバルに勝つ強い組織をつくるために、いま経営トップに求められていることはなんでしょうか。

八木 みなさんよく「日本的経営」という言葉を使いますよね。日本的という大それた言葉を使うから変えられないかと思うのでしょうが、経営とは企業単位にやっていることで、変えようと思ったらいくらでも変えられます。

「日本的経営」は、ボストン・コンサルティング・グループの日本支社を設立したアメリカのジェイムズ・アベグレンが『日本の経営』(1958年、ダイヤモンド社)で著した言葉です。日本人が言ったわけでもない。経営環境にパラダイムシフトがあったのに、「三種の神器」と言われて、60年も変えてこなかったことが、日本企業の多くが競争力を失った理由の一つだと思います。「日本的経営」ではなく、自分たちらしい経営をやるべきなのです。合理性と大局観と、自分たちがやりたいという思いを取り入れて経営するのです。

仲川 当社では、ITやIoTなどのデジタル人材は、キャリアでかなり採用しているのですが、もう当社の経営スケールに合わないために、すべて個別対応で採用しています。他には、人事はえらいなと思うのですが、インドやベトナムの工科大学に行き、新卒でそこから採用しています。

 日本語を喋れない人たちをインドやベトナムから連れてきて、ITやIoTを開発する部門に配属しています。

 だんだん日本語を覚えてきていますが、別に日本語ができなくても英語で仕事はできますから、不自由なく、すごく活躍していますね。

八木 グローバルで戦っている会社とは、そういう会社ですね。まず、やってみればいいのです。

 1番のポイントは、先ほども言いましたが「面従腹背」を取り除けていないことだと私は思っています。

「グローバルで勝ち続けるためにやるべきことは、わかっているよ」と、たいていの人は言うでしょう。「じゃあ、なぜできないのですか?」と聞くと、「部下がやるべきことをやってくれないから」と言う。だったらやらない人は外して、意欲のある人を抜擢したり、外から優秀な人を採用してくればいいじゃないですか。別に日本人でなくても構わないのですよ。やれる人は世界中にいくらでもいるわけです。人材の確保をグローバルの視点で見直す。その行動をなかなか起こせないのが問題だと思っています。

 わかっているのに、それを実行に移さず、抵抗があるかもしれないと避けて通ろうとする。

 結果を出すことよりも関係性の方を重視していたのでは勝てません。子どものころからずっと「みんなと仲良くしなさい」とか「思いやりを持って」などと言われて育ってきたことも一因でしょうが、タフなアクションを取ることに躊躇がある。変革には多くの人が反対するものです。それを押し切ってでも実行する覚悟、胆力が求められています。

 何か目的を達成することを考えたときには、ただひたすら仲良くするだけではダメなのです。「和を以って貴しとなす」と言いますが、「目的を達成するための和」です。決めるまでのけんけんがくがくの議論は必要ですが、決めた目的に向かって一緒にやらない人に経営を担う居場所はないのです。

「これで勝てるのか?」と、自問自答しながら本質を突く経営をやっていかなければ、グローバルで勝ち残れません。

(前編)「その働き方改革は本質的な働き方を追求しているか」

 <傍白>
働き方改革の本質は、自社が提供する「仕事の付加価値」とは何か?を徹底的に考え抜くことにあると考えます。働き方改革は、ビジネス戦略や方向性に基づき、目指す行動・組織・風土を加速させるものでなくてはならなりません。
 ゆえに、本質的には「働き方改革」ではなく「働き方デザイン」というべきです。
働き方改革を「企業の競争力向上」と位置づけ、全社を挙げて取り組んでいった時、はじめて抜本的な生産性向上を生み出す取り組みとなっていきます。
 間違っても、人事部や総務部だけで粛々と行う“やっただけ働き方改革”に陥って欲しくないと思っています。真の働き方改革の実現こそが、日本企業の大きな飛躍につながるものと考えています。

佐藤隆太(さとう・りゅうた)
株式会社レイヤーズ・コンサルティング 事業戦略事業部 マネージングディレクター。消費財、流通、情報・通信、ヘルスケア業界等の上場企業を中心に、事業戦略、マーケティング戦略、営業改革、新規事業開発、M&A戦略、組織改革のプロジェクトを責任者・リーダーとして多数手がける。

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