2019/5/28

攻めるダイバーシティ戦略~競争力を強化する多様性深化の仕掛け~第4回 DXと脳科学で加速するダイバーシティ4.0の世界

#メディア掲載

※『月刊人事マネジメント2019年3月号』掲載

株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 マネージャー 若島 薫

 

ダイバーシティには段階がある。規制等への対応を主とする「ダイバーシティ1.0」、多様性を受容し始める「ダイバーシティ2.0」、そして、経営戦略の実現のために戦略的に多様な人材を活用する「ダイバーシティ3.0」である。これまで我々は、「ダイバーシティ3.0」が「攻めのダイバーシティ」であり、早くこの段階にシフトするべきだと主張してきた。しかし実は、この先に「ダイバーシティ4.0」というべき世界がある。それは、究極の多様性が実現した世界であり、もはや多様性というイシューを超越した世界なのだ(図1)

 

【図1】ダイバーシティの4段階

 

「ダイバーシティ4.0」の究極世界とは

「ダイバーシティ4.0」は、ダイバーシティの究極であり、イノベーション創出のベースになる。それは一体どんな世界なのか。

①多様性というコンセプトが成立しなくなる

「ダイバーシティ3.0」までの世界では、人材は性別、出身、国籍、年齢等の属性で語られ、属性の多様化や活用が図られてきた。それは同質的な集団を前提としているからである。他方「ダイバーシティ4.0」の世界では、個人個人が異なることが当たり前になる。結果、人材一人ひとりが属性ではなく「個人」として名指しされ、個々に異なる人格や能力を発揮し、相互に影響を与え合いながら成果を出していくようになる。

②社外と社内の境界がなくなる

「ダイバーシティ4.0」は、社内にとどまらない。今日のビジネス環境では、社外の人材とのコラボレーションは不可欠である。同質性の高い文化を築いてきた従来的な日本企業のメンバーにとって、社外の人材は文化と価値観や常識が大きく異なる。コラボレーションのなかで、新しい価値を生み、成果を出そうとするならば、異文化と非常識を許容するマインドが要求される。

③ロボットやAIが仕事仲間になる

これから我々の仕事のパートナーは、人間だけではない。ロボットやAIは、人間の手となり足となり、我々の能力をサイボーグのごとく増強させるだけでなく、判断の根拠を与え、相談に乗り、助言や励ましの言葉すら投げかけてくるようになる。以上のように、「ダイバーシティ4.0」は、社内と社外の壁、人とテクノロジー(AI・ロボット)の壁を乗り越え、彼らと手をとりながら、従来を超越しえなかったパフォーマンスが実現される。この世界の実現には、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」と「脳科学」が欠かせない(図2)

 

【図2】ダイバーシティ3.0 & 4.0の施策マップ

 

デジタルテクノロジーを味方につける

「ダイバーシティ4.0」の実現には、デジタルトランスフォーメーション(DX)活用が不可欠だ。以下の3つがデジタルテクノロジーのキーワードになる。

①ピープルアナリティクス

人に関わるあらゆる情報(データ)を分析し、統計的なアプローチにより、人材の育成・配置等のタレントマネジメントを個別に最適化していくこと。

②デジタルレイバー

AIやロボットは、我々の道具であるばかりでなく、同僚となる。彼らの特性(得手不得手)を理解し、リスペクトを持って接すること。

③デジタルワークプレイス

仕事をする環境として、リアルな環境(執務スペースや会議室)と同じくらい、あるいはそれ以上にデジタル環境(コラボレーションツール等のデジタルツール)の整備をしていくこと。

「脳科学」により、ポテンシャルを最大化

ロボットやAIが我々をサイボーグ化させる一方、人間自身のパフォーマンスをさらに引き出す可能性が脳科学に期待できる。脳科学の進歩により、脳のクセや特徴が分かってきた。ここに、人間のパフォーマンスをより引き出すヒントがある。3つのヒントを紹介したい。

①超集中状態(フロー状態)

脳は超集中状態であるフロー状態(ゾーンとも呼ばれる)に入ると、生産性は4倍、学習スピードは2倍になるともいわれている。従って、フロー状態に入りやすい環境や仕掛けをデザインし、人材をフロー状態に没入させ続けることができれば、生産性は高まる。

②パフォーマンスマネジメント

脳内物質が人間の気分や心理状況に影響することが分かってきた。「ドーパミン」は意欲と自信を持たせ、「ノルアドレナリン」は集中力・注意力を高め、「オキシトシン」「セロトニン」は心理的安全性を感じさせる。これらの特性を利用したパフォーマンスマネジメントができれば、やる気・集中力・チームパフォーマンスは最大化されるだろう。

③アンコンシャスバイアス

脳は90%以上、無意識下で判断していることが知られている。このため、脳は様々なバイアスを持ち、判断をショートカットしていく。ステレオタイプな判断やハロー効果はその一例である。ダイバーシティを実現するためには、不可避の無意識下の判断を自覚し、克服していくことが必要である。
 
「ダイバーシティ4.0」の世界は、多様性を超越し、個が個として語られ、個とチームのパフォーマンスは最大化される。パフォーマンスの最大化やイノベーションを希求する企業ならば、一刻も早い到達が望まれるだろう。

 

若島 薫: 株式会社レイヤーズ・コンサルティング 事業戦略事業部 マネージャー

大学院卒業後、レイヤーズ・コンサルティングに入社。大手消費財メーカー・食品メーカーの営業改革・マーケティング施策立案等のプロジェクト経験を経て、直近は、大手エネルギー系企業、製薬メーカー、大手メーカー等の人材要件検討、人事戦略立案、組織風土変革を中心とした人事全体での改革プロジェクトに取り組んでいる。 Mail: wakashima.kaoru@layers.co.jp

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