2019.7.19

デジタルトランスフォーメーションはこわくない
~DXネタの見つけ方~

セミナーレポート

株式会社レイヤーズ・コンサルティング 
DX事業部
統括マネージングディレクター
加藤 道隆

本コンテンツは、2019年7月19日に開催されたJBpress主催「Digital Innovation Forum 2019 <夏> ~デジタル変革によるイノベーションの実現~」での講演内容を採録したものです。

日本発のコンサルティングファームであるレイヤーズ・コンサルティングは、独立系コンサルティング会社として1983年に創業しました。一部上場企業を中心に500社以上の顧客を持ち、戦略構想から計画立案、実行までのコンサルティングを行っています。そこでの経験を踏まえて、DX(デジタルトランスフォーメーション)をどういった心積もりで行えばいいのか、今日はお話しできたらと思います。

この会場にいらっしゃる方はDXを社内でも推進する立場にあるのではないでしょうか。経営者側からの「事業計画とDXを結び付けられないか?」という依頼や、「この仕事をDXでなんとか効率化できないのか?」といった業務部門の方など、社内から「当社・当事業部にもDXを・・・」と言われて、当セミナーに参加している人も少なくないと思います。

一方でDXを実現させるため、SIベンダーやコンサルといった外部からさまざまな売り込みがあり、多くの情報のなか混乱しかかっている担当者もたくさん見受けられます。例えば、「各部門がそれぞれ、とりあえずRPA(Robotic Process Automation)を導入する」「保守切れを迎えるので、現行機能のままERPをバージョンアップする」「ターゲットや訴求ポイントを決めずに、いろいろなPoC(概念実証)を作り、その先に進めない」「仮説もなくIoTのセンサーをつけて相関分析する」「クラウドサービスを導入したはいいが、使い倒すに至らないまま、気づかずに利用料だけが月々徴収されている」など・・・。 
 
このように、現在社内にある困り事を「点」で単純聴取して、「点」の中だけであればシンプルに解決できそうなことを、点と点で結び付け複雑化させた上で、ありもののツールを使って解決しようと試みる動きはナンセンス、本質的でない動きといえます。

「予測と実現の逆転」の発想

私どもがイノベーションを唱えると、「イノベーションの重要性はもうよく分かっています」と仰るお客さまがいらっしゃいます。もちろん、「イノベーション無き企業は滅びる」「イノベーションの起爆剤はデジタル技術である」と誰もが頭では理解されていますが、結果的にイノベーションにはつながっていないのが現状です。

では、まず下の絵をご覧ください。

出典:「武器になる哲学 人生を生き抜くための哲学・思想のキーコンセプト50」
山口 周/KADOKAWA

それでは、皆さんにお聞きします。「イノベーションってなんでしょうか?」この絵に出てくるiPadによく似たものは、パーソナルコンピューターの父と呼ばれるアラン・ケイが、1972年に発表した論文の中に登場する「DynaBook」という未来のパーソナルコンピューターの姿です。

この絵をご覧になってあなたはどう思いますか?「すごい、40年以上も前に未来を予測していたんだ」と思ったとすれば、その解釈は残念ながら間違いです。アラン・ケイは、未来を予測してこれを描いたわけではありません。彼がやったのは「こういうものがあったらいいな」と考えて、そのコンセプトを絵にし、それが実際に生み出されるように粘り強く運動していたことです。
 
これをDXに当てはめてみると、いま世の中ではロボットが流行っているようだから導入してみよう。という「モノに飛びつく」考えではなく、わが社はここが非効率的だから、こうしたら効率化できるのではないかという逆向きの発想が重要なことが見えてきます。結果的に、何かを実現させるための手段が、ロボットであれば導入したらいいし、それがAIであれば活用したらいいのです。
 
ここで言えるのは、「やりたいことのイメージが先で、それを実現させるため模索し、実現させる」という流れが原則であるということです。

DX実現への道

これまで申しましたように、世間でよくある悪い例は、「DXで何をしたいのか?」という具体的なイメージがないまま「モノに飛びつき」、他社事例を調べてうちでも導入できるかもしれないとやみくもにトライしたり、PoCを作ってみたものの、「そもそも何をやりたいのか?」がないので、結局は途中で止まってしまう例です。

そもそも昔から日本人は「カイゼン」が得意とされてきました。私は、DXとはカイゼンするための手段としか捉えていません。しかし、DXが分からないからという理由で、AIやIoTといった「モノ(DX技術)に飛びついて」どんどん進めてしまうというのはこれは間違いです。これを逆転させ、まずは「やりたいこと」を最初に考え、「やりたいこと」が見えてきたら、専門家に相談し、組織活動へと舵を切ることで正しいDXの実現にたどり着けます。

肝心な「カイゼンネタの探し方」についてですが、業務効率化を行うためには、まず業務を棚卸し、整理、可視化する必要があります。「カイゼン」のネタというのは、いわゆる個人業務や部門業務などの業務と業務の境界線に隠れています。しかし、「カイゼン」ネタ以前に、そもそもどういった業務に自動化の可能性があるかを知らなかったり、複数部署にまたがった業務プロセスの全体像を把握している人がいないなど、「カイゼン」ネタ発見のハードルが高い場合も多いです。このような場合には、3つの有効な方法があります。

1つは、人材面でのアプローチです。この手の相談を私はコンサルタントとして十数年受け続けてきました。「カイゼン」ネタを探すためには組織を横断的に見ていく必要がありますが、日本企業は縦割りが多いため、自社のビジネスを全部知っている人材は稀有な存在です。これまでは、こういった業務改善における課題の可視化を外部コンサルタントに依頼することが一般的でしたが、最近は、社内で「広範な業務理解を有する人材」を育成する例も出てきています。これは、「業務横断的な人材」を育成しないと成長が難しいと企業が気付きだした証と言えるかもしれません。一方、業際を探る作業を省力化するやり方も出てきています。「プロセスマイニングツール」を用いて、例外処理や業務上のボトルネックを発見する手法です。これは、業務システムにおけるイベントログを入力データとして、業務プロセスを再構成、可視化し、分析するというものです。レイヤーズ・コンサルティングでは、プロセスマイニングツール「Celonis」(セロニス)を用いたトライアルを行っています。また、DXを用いたイノベーションのパターンをヒントに問題所在を逆サーチできることもあります。

 

3つのアプローチ方法をご説明して参りましたが、DXネタを探す前に、社内データの整理状況を確認しておくべきです。DXは多くの場合、社内データと社外データを掛け合わせることで、何らかのイノベーションを実現します。つまり、基幹システム上の社内データが整理されていないと、DXにはつながりません。データの粒度、整合性、更新タイミング、正確性、網羅性などの要素が整っているか、確認するべきです。

DXを始める際に「何を解決したいか?」を考えずAIなどの解決手段の方にばかり注目したり、他社の事例に気を取られ、「カイゼンプロセスを見ずに結果だけに注目する」のは意味のないことです。自社の「カイゼン」ネタは、広範な業務理解に基づく問題意識があれば見つけられます。そして「カイゼン」ネタを見つけたら、その解決手段について、社外の専門家群を活用されるのがベストではないでしょうか。
 
製造業では、コストや品質に関する「カイゼン」ネタを見つけ、それが製造設備に起因するものであれば、工作機械メーカーやエンジニアリング会社に対し、「こういう現状を、こうカイゼンしたいのだが、アイデアはありませんか」と今でも相談するはずです。

これが、製造設備でなくデジタル/ITであれば、デジタル/ITの専門家に相談する、それでDXは進めやすくなる、そのように考えます。

ITというのは、構築に時間もコストも掛かるものです。現在時点で必要なITを作るのではなく、将来やってくるシステム稼働時点で威力を発揮するIT。これを念頭に置くことが重要です。レイヤーズ・コンサルティングはこれまで新規事業開発やビジネスモデル変革などのコンサルティングサービスを数多く提供してきた経験があり、蓄積したビジネスの知見とデジタルの知見の両面で、これからも優れた成功事例が数多く生まれる支援を行ってまいります。

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