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2020年3月30日

【Vol.8】LAYERS’ Business Insight 成熟企業における新規事業創出の視座とは

デジタル戦略 ビジネスモデル変革 新規事業開発

 日本発の独立系コンサルティングファームであるレイヤーズ・コンサルティングが、企業が直面する経営課題に対し、第三者として客観的に分析するとともに、これまでの知見と今後の潮流をふまえ考察する本連載。
 今回のテーマは「新規事業開発・ビジネスモデル変革」です。JFEエンジニアリング株式会社 事業企画部長の三村広希氏に、昨年10月に買収した水質判定AIのスタートアップ企業などを例に事業投資選定で重視するポイントや、ご自身が創設に尽力した社内ベンチャー制度でこだわった要諦について語っていただきました。
●聞き手 | 草加好弘(レイヤーズ・コンサルティング)

新規事業の狙いは“出島”と“その先”

レイヤーズ・コンサルティング 草加 好弘(以下、草加)
 いまの新規事業は必ずデジタルがセットになります。そして、デジタルを活用して本業を変革していくのが自然な流れです。AI、IoT、5Gを活かしたデジタル時代のビジネスチャンスをどう捉えられていて、どのような形でチャレンジされているのでしょうか。

JFEエンジニアリング株式会社 三村 広希氏(以下、三村氏)
 私は昨年4月から現在の事業企画部にきましたが、それまでJFEエンジニアリングにおける新規事業は「既存事業をベースにイノベーションする」という考え方でした。ここ数年はよく大企業で取り組むバリューチェーンの内製化や、『環境×エネルギー』のようなクロスファンクション(商品複合化)をやろうとしていたと聞いていました。しかし、歴史もあり、組織も大きい企業が新しいことに取り組むのは難しいだろうと経験的に直観しました。当社に限らず一般論として、組織というものは、新しいことを受け入れにくいですし、排他性や組織の自己増殖という特性からも“外部”を素直に受け入れられる柔軟な組織はそこまで多くないからです。

三村 広希(みむら・ひろき)氏
JFEエンジニアリング株式会社
事業企画部長
1988年 日本鋼管株式会社(現JFEエンジニアリング(株))入社。
初任は企画管理部(現経理部)、2000年前後から、製鉄エンジニアリング業、造船業の分社化、川崎製鉄株式会社統合後のJFEエンジニアリング社内基幹システム開発、同グループ再編に従事し、2009年1月 経営企画部事業戦略室。
M&A、ベンチャー投資に取り組み、農産物の生産履歴や流通の情報化を目指して株式会社アグリコンパスを三井物産株式会社と共同で設立し、2010年に3年間出向。
2013年からは、廃棄物燃料を利用した蒸気供給事業、バイオマス発電プラント事業、がん診断薬製造事業の立ち上げ、損益管理等に従事し、2019年4月より現職。

草加 では、どのようなイノベーションの形を模索しているのでしょうか。

三村氏 まず外部とのアライアンスについてですが、当社の事業領域に近い分野で始めると、社内にオーソリティーがいることもあり、スムーズに進まない傾向があります。昨年6月頃に流動体に関するAIの動画ソリューションを手掛ける会社を買収しませんかという話をいただいたのですが、当社では静止画でのモニタリングはやっていましたが、動画AIは使っていない技術でした。まだ当社で使っていないのであれば、寧ろ「将来性」に賭けてみたくなり、「やるか!」となりました。いまは画像センサーでも一般的には静止画を使っていますが、将来的にはデジタル動画で、しかもAIでという技術が必要になるのではと感じています。そうであれば、そこへの投資は面白いし、同じ規模の同業他社もまだやれていなかったので、投資を提案しました。もしかすると、将来思ってもみなかったことができるかもしれません。誰もやっていなさそうだからやろうと、決断しました。

草加 なるほど。現時点では本業とは交わらない“出島”という切り口で投資をしたのですね。誰もやっていないことをやり、新規事業を進めていく上で重要なことはなんでしょうか。

三村氏 当社にもエネルギーや環境など様々なソリューションがありますが、AI、IoT、5Gなどの新しい技術はソリューションのベースとなるテクノロジーが進化するという話です。AIも5Gも便利だと気づけばいいのですが、例えばガラケーの人がスマートフォンを使わない感覚と同じで、使おうとしないところがイノベーションを起こしにくいという問題の本質だと感じています。使えといっても使わない。しかし自分で使いたいと思えば使い始めるので、「使いたいな」と思わせる技術にすることが大事です。
 一方で余計な手間とリスクをかけて先々に投資するという話よりも、いま儲かる話に集中せざるを得ない状況もあります。だから新しい技術による現状の革新はやめて、いまは誰も使えそうにないけど、もしかしたら将来便利だと気づくかもしれない技術に投資することに決めました。

短期的に“稼がない”を前提に投資

草加 話が少し戻りますが、ベンチャー企業を買収する資金はどう捻出したのでしょうか。

三村氏 実は2019年度に外部への投資と社内ベンチャー育成に20億円の予算がつきました。そのうち10億円をVCに投資しようと考えています。この予算については、“稼ぐ”という視点を外して、使わせてほしいと取締役会に掛け合いました。新しい技術やソリューションを発掘することを一番の目的とし、経営陣には将来必ず成果が上がるという前提でお金を使うわけではないということを理解してもらい、予算をいただきました。

草加 トップを含め経営陣はなかなかそういったお金の使い方に納得されないものですが、20億円という大きな金額をよく納得していただけましたね。

草加 好弘(くさか・よしひろ)
株式会社 レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 統括マネージングディレクター
自動車、精密機械、食品メーカーなどの製造業、情報通信、不動産、商社、リース等のサービス業を中心とした上場企業に対し、ビジネスモデル変革、事業戦略、業務改革、営業強化プロジェクトの責任者として数多く参画。直近ではドローン事業自体の経営やPoCも主体的に実施。講演・執筆も多数。

三村氏 それはタイミングがよかったということもあります。現社長が以前、VCへの投資を止めさせられた経験があったそうで、社長以下多くの経営幹部が私の提案を後押ししてくれました。昨年11月にプレスリリースもだしていますが、東京センチュリー株式会社と組み、共同投資ビークル「一般社団法人J&TC Frontier」を設立し、今後2~3年で100億円程度を目途に投資活動を行うことを目指しています。

草加 リース企業と一緒になって投資先を考えるのは面白い手法だと思います。

三村氏 技術の目利きは私共で行うことができますが、ファイナンスに目をつぶると説得力に欠けてしまいます。東京センチュリーさんとは太陽光発電など様々なビジネスをリースやファイナンスの視点でサポートしてもらっていましたので、声を掛けさせていただきました。

大企業内にも挑戦者はいる

草加 外部とのアライアンス以外では新規事業創出に向けてどのように取り組まれているのでしょうか。

三村氏 公募制による社内ベンチャー制度を創設しました。事業企画部では以前から新規事業の立ち上げを行っていましたが、なかなか成果が出ていませんでした。大企業では新規事業にチャレンジしたいと考える人財が多くないとはいえ、グループの社員1万人のうち1000人は無理でも、100人くらいの一定割合はいるはずです。ゼロということはないでしょうから、さしあたり10人見つけ出して、そこにアプローチすれば、上手くいくかもしれないと感じ、社内で新しいことを始めたい人たちをサポートする制度を作りました。

草加 具体的にはどのような制度なのでしょう。

三村氏 私自身も新規ベンチャーに出向した経験がありますが、その際本社のレギュレーションの壁にぶつかりました。3年以内に利益を出す、3年以内の売り上げは10億円、などの条件があるのですが、その達成は新規事業では難しいのが実情です。それらの条件を付けてしまうと、そもそも何もできなくなってしまいます。そこをなんとかしたいと考えました。文字にすると乱暴になるので文書化はしていませんが、5年間の猶予を与えるとともに、3年間での黒字化などの短期利益は求めていません。

 そしてなによりの肝は“やりたい人が責任をもって最後までやる”という制度にしたということです。想いがある人とない人ではスタートアップの結果は大きく変わってきます。これまでは、たとえ儲かる可能性のあるアイデアがあっても、発案者とは別の「新規事業を推進する組織」が実際に実行することで、失敗してしまうケースがほとんどでした。ただ、今回の制度も無条件でなんでもやらせる訳ではありません。途中でチェックはいれながらも失敗しても悪い評価をせず、事業コンセプトに納得できれば続けられるという制度にしています。また、当事者が出資することも可能にしました。そして、うまくいけばMBOしてもいいルールにもしていますし、必ずしもJFEが51%出資して、将来JFEの事業として成立させることを条件としていないのも特長です。

草加 制度設計に三村さんのご経験を元にした想いを感じますが、手を挙げる人財はいたのでしょうか。

三村氏 まだ今年の2月から募集をかけているところなのですが、ネットワークが共有できている3700人にアンケートを取りました。通常社内アンケートの回答率が4、5割のところ、“やらせ”無しで79%の回答があり、その回答では新規事業をやりたいと思ったことがある人が3割いて、さらにその2割つまり200人余りは自分でやりたいと回答していました。

草加 エース級の人財が応募してきたら、所属部署から反発がでそうですね。

三村氏 それを説得するのが私の仕事です。現状の中心メンバーが抜けると困るというのも理解できますが、例えば、大病で戦線離脱したら周りがサポートするはずです。“事業創出という熱病”に取りつかれた有能人材を、病が癒えるまで“隔離”し、みんなで抜けた穴をカバーすると思えばいいんです。

真の狙いは化学反応による活性化

草加 これまでは0から1を生み出す段階のお話でしたが、1を100にしていく成長段階においてはどのようなお考えですか。

三村氏 社外とのアライアンスや社内ベンチャーが新しい技術を探し出したり、新しいソリューションを思いついても、現在の4つの本部と同等の第5の本部には、易々とはならないと考えています。生み出した新しいソリューションを第5の柱としたいというよりは既存の4つの柱が活性化し、1000億円を1100億円にする方がはるかに簡単なはずですので、そこを目指しましょうというメッセージを込めています。ベンチャーに触れたり取り組んだりした人財は、新たな発想を取り入れるというリスクを冒すことでワクワクする気持ちを実感するでしょうし、既存事業に戻ってそのような発想から既存の枠組みを超えることで、売り上げに転化できないかとも考えるはずです。活性化による化学反応を期待しつつ、その空気感を醸し出すきっかけとなるのが社内ベンチャー制度であり、社外ベンチャー投資だと考えています。

草加 御社は完全B to Bの業種でしっかりとした本業がある中、これまでも農業や太陽光発電の分野など先進的なチャレンジをされていますね。

三村氏 私も30年ほどこの会社に在籍していますが、昔は「としまえん」のウォータースライダーを手がけたり、砕氷船の氷塊試験をヒントに“南極のロックアイス”を創って売ったりと、いい意味でもっと遊びがありました。以前はそもそも本業があまり儲かっていなかったので色々できた側面があるのですが、いまは本業が儲かり始め守りに入っているように感じています。守りは衰退につながります。
 新規事業は真面目に考えると難しいので、誤解を恐れずに言えばもっと不真面目に考えろと。不真面目とは、予断を持たないとか、着地点を持たずにトライするということ。
 そうすればもしかしたら情熱が成果に結びつくことがあるのではないか、という発想です。
 そもそも、弊社の柱である環境ビジネスも元々は新規事業でした。約30年前、東京の清掃工場に焼却炉を作った時は大赤字でした。製鉄所の高炉の燃焼管理の技術を他で使えないのかという発想から焼却炉に辿りついたのですが、それが今や事業の柱になっています。当時取り組まれていた先輩方は手書きの図面を何度も作って、熱意を持って取り組まれていたのを覚えています。

草加 いま企業にはESGやSDGsが求められていますが、社会課題にチャレンジしつつ、新規事業に取り組むというようなお考えはありますか。

三村氏 それは勿論意識しています。今年、社長が年頭挨拶で、SDGsの2030年の目標に対してはあと10年、“くらしの礎を創り、くらしの礎を担う”ということを掲げてきた会社なので、SDGsの達成を世界レベルでけん引できる存在になれると考えていると述べていました。私もそれには同感です。ただ儲ければいいとは思ってはいませんし、ビジネスが人々の暮らしを支えることに繋がればいいと思っています。10年後、20年後は人々の暮らしそのものが変わっているでしょう。その新しい暮らしを“創る”ということを、事業企画を通じてチャレンジしていきたいですね。ライフスタイルや暮らしが新しくなることで、また新しいソリューションやビジネスが生まれます。それこそが真の新規事業だと考えています。

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