2019/3/14

人事部門IT化の新ステージ ~デジタルトランスフォーメーションを主導せよ 第2回 デジタルトランスフォーメーションを担うのは誰か?

#メディア掲載

※『月刊人事マネジメント2018年7月号』掲載

株式会社 レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 マネージャー 若島  薫

 

旧来型人事がイノベーションを阻害する

企業の継続と成長のために、イノベーションが必須となる時代が到来した。従来の改善・効率化をベースとする企業の成 長は限界を迎え、これまでなかった発想で、非連続的な変化を生み出すようなイノベーションがなければ、企業の将来はない。イノベーション創出に向けて、人事の果たす役割は重大だ。なぜなら、これまでの改善・効率化を目指す企業を支える人材や組織では、イノベーションは起こせないからだ。旧来型の組織・人材をかかえ、旧態依然とした人事の制度・仕組みを維持し続けることは、イノベーションを阻害することに等しい。事態は深刻だ。イノベーションを起こし、生き残ろうとするならば、早急に人事の変革が必要である。この変革が「人事のデジタルトランスフォーメーション(DX)」だ。

イノベーションの鍵は、「1to1人事」への進化

イノベーションを引き起こすには、同質な人材の集団から、異質な人材の集団へのシフトが必要だ。同質的な思考様式・行動様式に支配された人材集団から、既存の枠組みを超える何かを生み出すことはできないのだ。従来の日本企業の人事施策は、「同質の人材集団」をつくるようにデザインされてきた。イノベーションを引き起こすには、「異質の人材からな るプロ集団」を形成する人事施策に変える必要がある。個々人の異質性を際立たせ、個々のやる気のホットポイントを刺激し、能力を最大化させる「1to1人事」への変革が必要なのである。(図表1)

DXが実現する「1to1人事」の実践ポイント

「1to1人事」の実現にはデジタルテクノロジーが不可欠だ。我々は、「1to1人事」を5つの領域(施策)で捉えており、 特にとがった個人を輩出させるためには、(1)(2)の施策が重要と考える。(図表2)

(1)パーソナリティに基づくキャリア開発テクノロジーにより、個人のパーソナリティ(思考・行動特性)が測定可能になった。例えば文章をAIに読ませれば性格分析ができる。個人をとがらせるには、パーソナリティに回帰するのが近道だ。これは育成によって変化させにくいからである。パーソナリティに基づいて、適性の高い仕事や相性のよいチームに配置すれば、個人の能力はこれまでの何倍も発揮できる。

(2)働き方のパーソナライズ「1to1人事」における働き方のパーソナライズの狙いは、多様な働き方のニーズに答えることでも、仕事と家庭のバラン スをとることでもない。仕事のバランスを崩すことだ。個人をとがらせようにも、同質な集団の中で、同質な仕事に取り組む人々を異質化させるのは難しい。それよりも、社外の体験に送りだし、社内では得られない体験と価値観に触れさせそれを持ち帰らせる方が簡単で効果的なのである。

(3)個人ごとに響く報酬での動機づけモチベーションは一様ではない。お金、休暇、チャレンジングな仕事、賞賛等、何がモチベーションの琴線に触れるかは、個人によって異なる。現状の制度は、個人の多様なモチベーションドライバーには応えられない。報酬を個別にカスタマイズ できれば、個人の「やる気」を最大化できる。

(4)個人の能力・生産性の最大化育成プログラムは、個人が必要な内容を必要なときに学ぶ個別カスタマイズが理想だ。テクノロジーは、個人の不足スキルを分析し、必要な学習プログラムを提示することができる。一律の研修はナンセンスだ。個人のパフォーマンスを向上させるには、心身ともに「最高の状態」にしておくことも大事だ。最新のテクノロジーは、身体データを計測し、個人の集中状態、脳内物質、心拍数・体温・血糖値等、モニタリングできる。個人が最もパフォーマンスを出せる仕事の仕方、食事、生活の仕方をテクノロジーがアドバイスしてくれる。

(5)異質・不調和を育む文化の醸成いくらテクノロジーを活用しても、社員の意識や文化が、異質や不調和を拒絶していたら、とがった人材は育たない。異質や不調和を大事にする文化が必要だ。併せて、会社としての価値観(コアバリュー)の浸透も重要である。とがった個人の集団が成果を出すには、向くべき方向性が必要なのだ。

「1to1人事」は「人事DXチーム」が実現する

これまで述べた「1to1人事」への変革は、既存の人事部員には難しい。4種類のメンバーからなる「人事DXチーム」を形成し、このチームを経営者と社員のハブとして、「1to1人事」施策を企画・展開していこう。(図表3・4)

 

次回は、これらを実現・遂行する組織について述べたい。

 

 

若島 薫: 株式会社レイヤーズ・コンサルティング 事業戦略事業部 マネージャー
大学院卒業後、レイヤーズ・コンサルティングに入社。大手消費財メーカー・食品メーカーの営業改革・マーケティング施 策立案等のプロジェクト経験を経て、直近は、大手エネルギー系企業、製薬メーカー、大手メーカー等の人材要件検 討、人事戦略立案、組織風土変革を中心とした人事全体での改革プロジェクトに取り組んでいる。現場に立脚したコン サルティングを実施。
Mail: wakashima.kaoru@layers.co.jp

 

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