2019/3/10

人事部門IT化の新ステージ ~デジタルトランスフォーメーションを主導せよ 第1回 人事部門のデジタルトランスフォーメーションとは

#メディア掲載

※『月刊人事マネジメント2018年6月号』掲載

株式会社 レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 シニアマネージャー 小宮 泰一

 

現状の人事部門におけるデジタルトランスフォーメーション

人事におけるテクノロジー活用の浸透を実感しているか尋ねられ、”YES“と回答する担当者は多いであろう。デジタルトランスフォーメーションの潮流は人事分野にも間違いなく及んでいる。例えば、労務管理では、AI(人工知能)等を駆使した勤怠情報の統計的解析(データマイニング)により、退職者やメンタル不調者の予備軍を洗い出すことができるようになった。社員のパフォーマンス低下への対応や退職の未然防止等の取り組みが始まっている。育成においては、個々の志向に合わせた研修メニューの提供(AIによる提案)も可能になってきている。加えて、RPA(Robotics Process Automation)の活用により、さらなる業務の自動化・効率化も実現し始めている。
ただし、人事におけるこのようなテクノロジーの活用は、一過性のものであり、ビジネスのライフサイクルやスピードに即した取り組みになっていない。テクノロジーを理解し、体系的に取り組まれている会社がどの程度存在するだろうか(図表1)。加えて、戦略的人事の議論がここ数年加熱している状況を鑑みると、会社に必要な人事を今一度考えるべきタイミングに来ているといえるだろう。

 

岐路に立たされている人事 ―会社に必要な人事とは

人事における現在のテクノロジーの活用は、上述の通りパッチワーク的な取り組みである。このままでは、全社的なデジタルトランスフォーメーションに追従できない状況にある。これまでの路線をさらに高度化して人事を追求するのか、新たな人事というものを模索するのか、どちらに重きをおくかを明確にするタイミングに来ているのである。
これまでの路線の高度化とは例えば、現場1人ひとりの社員に対しいっそうの施策を展開するとことである(現場としての人事)。社員1人ひとりの性格・資質・キャリア志向を把握し、仕事に集中させ、個々の活性化=個々のパフォーマンスの最大化を実現することにあると考える。最近は、目に見えない要素(性格・資質)までもがデータ化・定量化できるようになってきている。その情報をもとに、個々の社員にあった施策を展開できるようになった。現場の管理者(上長)と綿密に連係し、各社員のパフォーマンスを組織パフォーマンスへとつなげていくことが、人事としてのValue(存在意義)の1つであるといえる(図表2)。
一方で、“新たな人事の取り組み”には、次のような事例がある。“従来路線の高度化”と根本的に異なっているのは、経営の視点で人材をマスで捉える点である。スキル・専門性・人材タイプ別にどの程度の社員が存在するのかをデータ化し、把握することから始まっている。そのなかで人材として充足している箇所や不足している箇所を、恒常的に理解できている状況を実現している。成長過程のビジネスにどの程度の人材を、どこから捻出し、投入できるのかを判断することさえも可能になっている。さらには、新規ビジネスの創造において、人材面でのリスクを示唆し、経営の意思決定に貢献できる機能を身につけるところまできている。経営の後ろを追従する(言われた通りを実現する)人事でなく、経営をリードする1つの要素として人事が変貌した結果でもある。
いずれにしても、2つの人事を進めていくには新たなテクノロジーの活用(分析・予測)が必須となるが、最終的な判断は人事を担う”ひと”そのものである。AIとはいえ万能ではない。テクノロジー発展とともに、それを活用する”ひと”の成長も決しておろそかにはできない。

 

すべては人事情報のデジタル化

人事におけるデジタルトランスフォーメーションの実践・実現には「人事情報のデジタル化」が必須である。スピード感が求められる経営環境のなかで勝ち抜いていくには、定量的に活用・分析可能な情報を、事業の最前線に開放することが、より求められる。よって、人事情報のデジタル化を実現するには、①人事に関するあらゆる情報の数値化(現在テキスト状態のデータ含む)、②人事情報へのアクセスのオープン化、という2つが不可欠と考えている。
人事情報の数値化は、経営における人的資源の重要性が増大していることの証明である。人事情報は従来、定性情報として多く蓄積されてきた。昨今ではAIの活用により、そのような定性的な情報を基に、一定の傾向を人材情報としてデータ化することも可能になってきている。テクノロジーの進化を通じ、これまでと異なる定量情報を取得可能なだけでなく、定性情報にとどまってきた情報を定量化・可視化して活用することが通常となってきているのである。社員に関する情報の「宝庫」を数値化し、経営への貢献を飛躍的に高めるチャンスが到来している。
一方で、人事情報のオープン化は、事業における意志決定の点で、今後重要性が増大してくる。スピード感をもってビジネスを推進するためには人事情報のオープン化(現場展開)は必須である。“ひと”の観点で、最前線のリーダーが組織・人材にかかる意思決定をタイムリーに行うことがビジネスの鍵である。

 

今回は、デジタルトランスフォーメーションに対する人事の取り組み姿勢について述べてきた。次回は、そのデジタルトランスフォーメーションを実践するうえでの体制や人材要素について述べたいと考えている。

 

小宮 泰一: 株式会社レイヤーズ・コンサルティング 事業戦略事業部 シニアマネージャー
証券会社及び投資顧問会社で企業調査に従事した後、事業会社における人事・経営企画等の管理部門を経て、現職に至る。コンサルティング実績として、基幹人事制度設計(卸売業、ベンチャー企業、学校法人等)、経営幹部候補の育成プログラムの策定・運用(製造業、卸売業)、PMIに伴う事業戦略立案支援(製造業)等を手掛ける。企業調査と企業実務の経験を生かした、大局観と現場主義の両立が身上。
Mail: komiya.yasukazu@layers.co.jp

 

 

 

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