2019/3/15

人事部門IT化の新ステージ~デジタルトランスフォーメーションを主導せよ~第3回 デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する組織の姿とは

#メディア掲載

※『月刊人事マネジメント2018年8月号』掲載

株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 マネージャー 尾上 浩介

イノベーション創出のための人事の役割

前回の連載では、イノベーションを引き起こすために、同質な人材の集団から異質な人材の集団へのシフト、すなわち「異質の人材からなるプロ集団」を形成する人事施策が必要であるとしたうえで、人事としては、個々人の異質性を際立たせ、個々のやる気のホットポイントを刺激し、能力を最大化させる「1to1人事」に変わっていく必要があると述べた。ここでいう「1to1人事」とは、デジタルテクノロジーの活用を通じて人事が本来実現すべき機能に立ち戻ることであり、具体的には、(1)パーソナリティに基づくキャリア開発、(2)働き方のパーソナライズ、(3)個人ごとに響く報酬での動機づけ、(4)個々の能力・生産性の最大化、(5)異質・不調和を育む文化の醸成、の5つを実現することであると述べた(図1/前号再掲)。こうした「1to1人事」の本質(目的)は“異質を活かす”ことである。それには、固定のイベント(年度評価のように時期や実施内容が固定)をベースとした対応ではなく、「都度」「非定型」といった柔軟かつ瞬発的(アジャイル型)な対応こそがであると考える。本編では、柔軟かつ瞬発的な対応(マネジメント)をベースとした“プロジェクト組織”を通し、改めて「1to1人事」について語っていきたい。

 

【図1】「1to1人事」の実践ポイント

 

プロジェクト組織が異質を活かす

「1to1人事」を実現するための組織では個々人のパーソナリティに着目しつつ、「異質を活かす」ことが求められる。その点、これまでの階層型の組織では、異質な人材は効率化を阻む存在であり、排除すべき存在であった。このため、「異質を活かす」には、フラット型で、かつメンバー間のコミュニケーションが柔軟に行える組織、具体的には「プロジェクト組織」の形態をとる必要がある。
「プロジェクト組織」は特定の目的のもと作られた組織である。その構造は、プロジェクトリーダーの強力な権限のもと目的に応じたメンバーが集められているというものであり、メンバー間では役割の差こそあれ上下はなくフラットな組織になっている。このため、役割の差として異質な人材は異質な人材のまま働くことができ、異質な人材同士を同じ目的のもとで組み合わせ、イノベーションの創出を図る組織となる(図2)。

 

【図2】プロジェクト型組織

 

「プロジェクト組織」での「1to1人事」実現ポイント

しかし、単純に「プロジェクト組織」にすれば、実現できるわけではない。実現するには個々人別の対応を求めているプロジェクトリーダーに対して一定の権限を付与する必要がある。具体的には、個々人のパーソナリティに関する情報へのアクセス権を付与することになる。個々人のパーソナリティに関する情報はこれまでの人事評価や所属歴・勤務歴などの情報に限られない。例えば本人の適性に関する情報や業務に対する精神状態に関する情報も将来的には含まれるだろう。具体的にはスキルマッチ度やアセスメント結果に関する情報、ストレス度合いや従業員満足度に関する情報などがこれにあたる。上記のような情報取得はこれまでは上司の見識や能力により左右されていた部分であり、デジタル技術の導入により、数値化しやすくなってきているものである。こうした情報をリアルタイムで確認することにより「1to1人事」を効果的に実現できる。また、こうした情報の数値化はメンバー育成に対して現場の上司にコミットさせるためにも有用である。上記の数値の向上を人事KPIとして管理することにより、すべての責任を上司に押し付けず、限定することが重要である。

「異質・不調和を育む組織風土」が不可欠

これまで述べた「1to1人事」への変革は、既存の人事部員には難しい。4種類のメンバーからなる「人事DXチーム」を形成し、このチームを経営者と社員のハブとして、「1to1人事」施策を企画・展開していこう。(図3・4)以上のことを満たしても、「異質・不調和を育む文化」がない場合、「1to1人事」は機能しない。「異質・不調和を育む」には同一の目的のもと、明確なアウトプット・スケジュールがあり、その目的の実現のなかでフラットにコミュニケーションが取れる必要がある。「1to1人事」の実現のためにはこうした風土へと革することが不可欠である。組織風土を変革するにあたって、組織風土の要素(①共通の価値観、②人間関係)が重要である。こうした要素を表す定量項目を挙げ、数値化していくことが最初のアプローチになる(図3)。例えば、「②人間関係」の数値化でいうと、仕事における人間関係を「メールやチャットの頻度」「同じ空間で過ごした時間」「位置関係(距離)」「会話(通話)のやり取り」などの定量項目に分解する。次にこうした情報と各プロジェクトのパフォーマンスの相関関係を分析し、個々の数値とパフォーマンスとの関係性を明らかにする。その後は、各数値を上げるための施策を検討し、変革を進めていくことになる。

 

【図3】組織風土の変革アプローチ

 

 

次回は、デジタルトランスフォーメーションのその先に起きる変化と人事部門の準備すべきことを示すことで本シリーズの結びとしたい。

 

尾上 浩介:株式会社レイヤーズ・コンサルティング 事業戦略事業部 マネージャー
国内電機メーカー人事部門、コンサルティングファーム人事コンサル部門を経て、現職に至る。中期経営計画における人事戦略策定、要員計画策定支援、人事制度構築支援、組織再編(会社統合・分割)に伴う人事・労務領域対応支援、採用・育成施策立案等、人事・組織領域全般のプロジェクトを担当。人事実務経験を踏まえた制度の現場展開に強みを持つ。

Mail: onoe.kosuke@layers.co.jp

お仕事のご相談や、ご不明な点など、お気軽にお問い合わせください。
セミナー開催予定など最新ニュースをご希望の方はメルマガ登録をお願いいたします。