2019/3/18

人事部門IT化の新ステージ ~デジタルトランスフォーメーションを主導せよ~第4回 デジタルトランスフォーメーション(DX)の先に起きる変化と人事部門の準備

#メディア掲載

※『月刊人事マネジメント2018年9月号』掲載

株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 シニアマネージャー 小宮 泰一
        シニアコンサルタント 今成 深雪

「1to1人事」から始まる好循環

前回までの連載で、イノベーションを起こすには、①人事部門のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)が必要、②「異質な人材からなるプロ集団」を形成するために社員に寄り添う「1to1人事」の実現が必要、③「異質を活かす」組織・風土が不可欠、の3点を述べてきた。最終回の今回は、人事DXのその先に起きる変化と人事部門に必要な準備について、主に前者を重点的に考察する。人事DXの実現により「1to1人事」を目指すこと、そして、その必須条件としての人事情報のデジタル化(数値化・オープン化)を進めることによる大きな変化として、以下のプロセスを通じた2つの好循環が期待できる(図1)。第1のルートとして、「1to1人事」の実現により、人事部門や現場上長がより人と現場に寄り添い、そこで得た「リアルな」情報を反映することで、人事情報がより豊かになる。第2のルートとして、デジタル化された人事情報を用いた経営視点からの分析や立案が可能となり、人事部門の経営に対する接点や貢献が拡大することで、さらに経営視点を取り込んだ人事情報の蓄積が可能となる。そして、これら2つのルートで取得された情報・視点により、経営視点に基づくリアルな人事情報が充実することで、「1to1人事」がいっそう有効となる好循環が期待できる。事業の現場では、より的確な人材の選定や育成を通じた組織能力向上が可能となるだろう。また、人事部門としては、従来にない尖った人材の選定・育成が行いやすくなろう。

 

【図1】人事情報のデジタル化を通じて期待できる2つの好循環

 

人事部門に求められるマインド変化

上記プロセスの実現に際し、人事部門には3つのマインド変化が必要と考える。第1に「人と現場に寄り添うマインド」の強化、第2に「経営の中枢を担うマインドの具備。そして、上記マインドを備えるうえで、HR-Techの積極活用に舵を切ることが、人事部門に求められる第3のマインド変化である。特に近年、テクノロジーを活用した人事業務の効率化事例が急増している。チャットボットを介した社内問い合わせへの自動応答から、人間でなければ困難とされてきたエントリーシートの合否判断へのAI活用に至るまで、HR-Techで大幅に効率化可能となってきた。すなわち、テクノロジー活用による業務効率化が、人と現場に寄り添いつつ、経営の中枢を担うマインドを創出するうえで必要である。

注力すべき領域はサクセッションプラン

我々は、「1to1人事」を進める先にある人事部門が優先的に取り組むべき領域は、サクセッションプラン(後継者育成計画)の立案・運営と考える。経営スピードの加速やコーポレートガバナンス強化が求められる昨今、経営幹部の計画的育成が重要である。一方、多くの日本企業でサクセッションプランへの取り組みはこれからであり、経営の根幹に関わる重要課題として、人事部門が早急に着手する必要がある。サクセッションプランは、次期社長候補等の役員クラスを対象とする限定的人事施策と捉えられることも多く、一部大企業以外の取り組みは積極的ではなかった。しかし、役員より下位の重要ポストが突発的事象により空席になるリスクは、企業規模を問わず普遍である。そして、そのリスクが顕在化した際に、単に異動で欠員を穴埋めするのと準備していた後継者候補から選定するのとでは、その後のパフォーマンスが大きく異なろう。我々は、重要ポストの後継者候補となりうる経営幹部を広く対象としたサクセッションプランの策定・運営が本来的と考える。育成対象者の割合は、1,000人規模の会社であれば50~100人、1万人規模の会社では500人程度であれば理想的であろう。「1to1人事」を通じて蓄積した人事情報を、サクセッションプランの対象者の育成計画や進捗フォローに活用する意義は大きい。対象者に不足する経験や能力とその度合いを洗い出し、必要な配置や研修(OJT/Off-JT双方)を行えば、その有効性は高まろう。また、同様の経験や能力を有する社員との育成進捗の比較、場合によって対象者入れ替えも、より精緻に検討・実施が可能である。そして、人事部門がサクセッションプランに取り組むに際しては、テクノロジー活用で業務を効率化したうえで、経営視点で人物評価や育成計画を行いながら、人と現場に寄り添うマインドを持って対象者をフォローすることが必要である。

人事DX実現に必要な3つの備え

人事DXで目指す「1to1人事」の実現には、「異質・不調和を活かす」ことが重要と前回述べたが、その備えとして既存の人事・組織の仕組みの見直しも必要である。第1の備えは、人材像・人材要件の見直しである。特に現場で「1to1人事」を進めるには、対話能力を重視した人材像・人材要件が必要となろう。それは、変化が速く大きい現在のビジネス環境に対応し、現場のアジリティ(俊敏さ)を高めることにもなる。第2の備えは組織形態である。プロジェクト型組織がイノベーションを要する環境に適することは、前回述べた通りである。第3の備えは、評価・報酬制度である。一部大企業すら、1年または半年に1回の目標管理・業績評価から脱却し始めた。「1to1人事」で社員個々人にリアルタイムで焦点を当てれば当てるほど、評価・報酬制度を見直す必要が高まる。その受け皿が、インパクトベース評価やピアボーナスの導入等、評価・報酬のパーソナライズである。
 
人事部門IT化の新ステージとして、人事部門が主導するデジタルトランスフォーメーションについて計4回お伝えしてきた。「ヒト・モノ・カネ・情報」のなかで、真っ先に挙がる経営資源を司る経営の中枢として、人事部門の主体的なDXへの取り組みを期待したい。また、本連載がその一助となれば幸いである。

 

小宮 泰一:株式会社レイヤーズ・コンサルティング 事業戦略事業部 シニアマネージャー
証券会社及び投資顧問会社で企業調査に従事した後、事業会社における人事・経営企画等の管理部門を経て、現職に至る。コンサルティング実績として、基幹人事制度設計(卸売業、ベンチャー企業、学校法人等)、経営幹部候補の育成プログラムの策定・運用(製造業,卸売業)、PMIに伴う事業戦略立案支援(製造業)等を手掛ける。企業調査と企業実務の経験を生かし、大局観と現場主義の両立が身上。

Mail: komiya.yasukazu@layers.co.jp

 

今成 深雪:株式会社レイヤーズ・コンサルティング シニアコンサルタント
大学院卒業後、大手独立系SIerを経て現職に至る。人事領域では自動車メーカーの人事管理/勤怠管理システムの企画構想・要件定義~導入、給与BPOプロジェクト要件定義のPMOなどを経験。クライアントニーズとシステムを両面で理解し、最適なソリューションを提供。

Mail: imanari.miyuki@layers.co.jp

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