2019/5/22

攻めるダイバーシティ戦略~競争力を強化する多様性深化の仕掛け~第1回 ダイバーシティが注目される理由/ダイバーシティ3.0の時代へ

#メディア掲載

※『月刊人事マネジメント2018年12月号』掲載

株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 シニアマネージャー 小川 嘉一

迷走するダイバーシティ1.0または2.0

ダイバーシティという言葉が言われて久しい。しかし、経営の側面からどのような目的・狙いで、どのような効果があるかを明確に答えられるだろうか。実態としては昨今の「働き方改革」の流れから、法令や行政の指導でやむなく雇用しているか、企業イメージの向上を目的に行っている「受動型(受け身)」のダイバーシティに留まっていることが多いのではないだろうか。ダイバーシティに先進的といわれる企業でさえ、「女性の管理職比率が何割になった」とか、「障がい者雇用率を何パーセント達成した」とか、手段が目的に成り代わっていることも多く、結局のところ、暗黙のうちにダイバーシティを経営の制約条件、あるいはコスト要因と位置づけてしまっている。日本のような成熟した少子高齢化社会においての課題は競争力の維持・強化であり、その土壌を作るためには、今までのように人財の「量」でカバーすることが不可能である。今後は「様々な人財」を確保し、知恵と知恵の化学反応の発生率を高めることが最重要の経営課題となる。単純に女性や外国人の活用といった手段に突き進むだけでは、自社にとってどのような多様性が必要であるかが分からないばかりか、ロイヤリティが低下し組織パフォーマンスに対してマイナスの影響を与えることにもなりかねない。本質的には、属性(性別・年齢・国籍)の多様性ではなく、経験・バックグラウンドの多様性を充実させる観点から、ダイバーシティを事業戦略と連動させ紐付けて捉えることが重要である。確かに、属性が多様化すると経験・バックグラウンドの多様化も進むと期待されるが、重要なのは自社の経営戦略の視点から必要な経験・バックグラウンドを捉えることである。ダイバーシティを手段と捉えず、各社の業態・個性に応じてどのような多様性を目指すべきか各社毎に考え抜いたうえで、中長期的に取り組むべきだろう。

ダイバーシティ3.0への変貌 経営戦略に必要な多様性を探る

今後のダイバーシティは、単なる「受動型(受け身)」の施策ではなく、経営戦略の実践といった側面で捉えることが重要である。具体的には、競争力の源である組織パフォーマンスの観点から重要なものと位置づけるべきと考える。つまりは、何を目的・狙いとし、どのような効果を期待するかを明確化し、より積極的に人財の活性化を図る戦略的なダイバーシティを推進しなければ、グローバルを含めた競合他社との競争のなかで生き残っていけないことを意味している。お互いの違いを受け入れ、尊重することをベースとして、従業員それぞれが、①自分らしい働き方を促進し、②個々の活性化(いきいき)を図り、③エンゲージメントを向上させ、④組織パフォーマンスを高めることにより、一人ひとりが生み出す付加価値を最大化していくことが命題となる。そのためのPDCAを回す仕組みを確立させることも必要不可欠である。

ダイバーシティ3.0成功の鍵 望まれる会社と社員の関係性

ただし、このような一連の流れを確立するためには、いち早く取り組むべき重要な論点が存在している。会社と社員の関係性である。特に、日系の企業において顕著な傾向がある「会社>社員」となっている関係性(統一的な仕組み・ルールに社員個々をはめて管理すること)を、どうやって「会社≦社員」の関係性(社員自らが働きやすい条件を選択できるような仕組み)に変えていけるかがポイントである(図1)。日系企業の大半は、社員との関係性が「会社>社員」となっているため、いわゆる「御恩と奉公」をベースとした、競争力の強化を目指してきた。社員はチームの一員として会社に貢献(奉公)し、会社はそれに応じた対価(御恩)を支払うといった関係である。この関係性をベースとした各種取り組みにより会社・社員双方の成功につながるというスキームである。現在の人事施策は、社員に対して貢献(奉公)の仕方を定め、それに従う社員に対して対価(御恩)を払うという仕組みでルール化されている。確かに、こうしたスキームは、安定性を重視した経営下では威力を発揮する。しかし、現在のように変化が激しい環境では勝ちパターンはあっという間に陳腐化されるため、1つのパターンに固執した施策は企業にとってはリスクでしかない。安定性に依拠した「統一的な仕組み・ルールに社員個々をはめて管理すること」を止める必要があるのだ。換言すればこれまでの「会社>社員」との関係から「会社≦社員」の関係へとシフトし、社員自らが働きやすい条件を選択できるような仕組みを構築しなければならない。上記について実務面で端的に表れるのは労働契約の締結であろう。今後は社員自らが働きやすい条件を選択できるような柔軟な契約形態とする必要がある。具体的には最低限の枠組みだけを用意し、報酬形態、福利厚生(サービス範囲・質)等、社員個々の考えに合わせて調整できるようにするのが1つの解決策である(図2)。こうした形態は運用が複雑かつ負荷が膨大になるリスクも含むが、DX活用などで十分対応可能になってきている。大げさにいえば、社員の数だけ満足度(指標)が存在するため、その多様性に応えることがこれからの企業体としての使命だということになる。「会社≦社員」の関係とは社員個々がそれぞれ何を考え(重視し)、会社や仕事に向き合っているのかを理解し、個々の満足度を上げていくことであり、これこそがダイバーシティ3.0の成功の鍵なのである。

 

【図1】個々の活性化による組織力強化の仕組み

 

 

【図2】ダイバーシティ3.0の成功の鍵は「柔軟性」と「それに伴う選択」

 

 

 

小川 嘉一: 株式会社レイヤーズ・コンサルティング 事業戦略事業部 シニアマネージャー

官公庁にて政策企画(産業組織政策等)を経て、現職。全社コスト構造改革などの事業構造改革・M&A・組織再編、およびHRを中心としたPMI支援、グループシェアードサービス事業(HR)再構築などの戦略・事業計画立案から実行にかかる業務設計も含めた事業構造改革・組織再編に関するプロジェクト経験多数。

Mail: y.ogawa@layers.co.jp

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