2019/5/27

攻めるダイバーシティ戦略~競争力を強化する多様性深化の仕掛け~第3回 ダイバーシティ3.0を実現する人事施策とは

#メディア掲載

※『月刊人事マネジメント2019年2月号』掲載

株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 シニアマネージャー 小宮 泰一

「ダイバーシティ・リーダー」の育成・支援が不可欠

日本企業のダイバーシティへの取り組みは、先進国との比較のみならず、グローバルの観点でも依然遅れている。2018年12月18日(日本時間)に世界経済フォーラムが公表した2018年版男女格差報告書において、日本の男女平等度は149か国中110位、経済分野に限れば同117位と低位にある。「ダイバーシティ3.0」に積極的に取り組み、競争力強化とダイバーシティ推進の並行実施が必要なことは論を待つまい。「ダイバーシティ3.0」とは、戦略的な多様性の活用であり、規制等への対応や現状の受容を超えた概念である。その結果、ゴールとプロセスの順序がダイバーシティ2.0までとは正反対になる(図1)。例えば、これまでは女性管理職比率50%達成が目的で、増加した女性管理職を活用して何を目指すかが曖昧であった。他方、「ダイバーシティ3.0」では戦略上の目的=ゴールが先に存在し、女性管理職比率50%達成はそれに必要な1つの手段=プロセスに位置づけられる。ある消費財メーカーでは、商品開発を強化して売上拡大を図るために、女性の感性が活きるよう商品企画の人材要件を見直し登用した結果、業績向上に成功している。そして、「ダイバーシティ3.0」の実現には、前回指摘の通り戦略の立案・実行・牽引を通じて“土壌”を形成するリーダー人材が欠かせない。以下、リーダー人材活用の観点より「ダイバーシティ3.0」を導き実現するために人事部門に必要な施策を考察したい。「ダイバーシティ3.0」実現のために人事部門が取るべき施策は、2つに大別できる。第一に、「ダイバーシティ・リーダー」育成の実践。第二に、リーダー人材を支えるための、労働条件や人事制度の再整備である(図2)

 

【図1】ダイバーシティの発展段階の整理

 

 

【図2】ダイバーシティ3.0を導くための施策

 

ダイバーシティ・リーダーの選定・育成・登用のあり方

「ダイバーシティ3.0」を推進するには、求められる人材要件(率先垂範・問題提起等)を満たす人材を「ダイバーシティ・リーダー」として選定したうえで、育成・登用することが必要である。人材選定に際しては、下記3つのスタンスが有用と考えている。まず、社風が保守的で推進力を得難い場合には、社外からの人材採用や我々のような社外コンサルタントを起用するのが一案である。また、社内の風土や常識に染まり切っていない中途採用者から「ダイバーシティ・リーダー」を起用することも考えられる。さらに、「ダイバーシティ・リーダー」は役職者である必要は全くなく、素養と意欲がある中堅・若手社員の抜擢も勧めたい。こうした人材選定自体が、正にダイバーシティ推進・強化の取り組みであり、特に2、3番目のスタンスは、社内に埋もれていたダイバーシティの可能性に着目し活用する意味で、「内なるダイバーシティ」ともいえよう。他方、人材の育成・登用のコンセプトは、「外の空気をたっぷり吸う機会を提供する」ことであり、3段階に分けて考えられる。多くの企業が行ってきた社外研修や留学への派遣は、いわば「初級編」。また、「中級編」には、海外子会社や合弁先、M&Aや提携案件等への投入を通じた戦略的なストレッチを位置づける。そして、昨今活発なオープンイノベーションの場に人材を投入することが「上級編」と考える。異文化・異分野との相克と協力による創発や既存事業にないスピードの体感を通じて、ダイバーシティの戦略的な意義・重要性を痛感し、自社のダイバーシティを推進する原体験が得られよう(オープンイノベーションの目的があくまで創発であることは、いうまでもない)。

「ダイバーシティ・リーダー」を支えるための環境整備

他方、人事部門がリーダー人材を支える施策とは、「ダイバーシティ・リーダー」が思い切った推進策を打てる環境を用意することであり、労働条件および評価・報酬制度の再整備が求められる。労働条件に関しては、ダイバーシティの許容・促進を目的とした施策を打つべきで、例えば業務の観点では、副業や社内他部門の支援の積極的な奨励が挙げられる。時間の観点では、フレックスタイム制におけるコアタイムの廃止=フリータイム制への移行等があろう。労働する場所については、テレワーク導入やワークスペース改革が挙げられるが、工夫を凝らした社外のワークスペースの活用も1つの手段に考えられる。また、新たな労働条件を活用した社員が不利にならないよう評価・報酬制度を改めなければ、ダイバーシティは定着しない。業務に着目した施策では、インパクトベース評価やピアボーナス、加点評価等の導入が考えられる。時間や場所に捉われない働き方を担保する施策としては、労働生産性(=時間当たりアウトプット)を評価して処遇に反映する例もある。変革を牽引するリーダー人材不足が嘆かれて長いが、いまだに日本企業はその課題感から脱却できていない。画一的な管理をベースとしたこれまでの常識・前提に捉われることなく、各社員の志向をよく理解することが必要な時代になった。制度を通して各社員を見るのではなく、各社員を見て必要な制度とマネジメントを実現すること(経営側から各社員に寄り添うこと)が望まれている。
戦略的に多様性を活用する「ダイバーシティ3.0」への取り組みは、もはや待ったなしの状況だ。時代の要請、グローバル人材市場における出遅れ、競争力強化における新たな考え方・方法論等の必要性に加え、最新技術によるダイバーシティの加速が目前にあるためだ。次回の最終稿では、デジタルトランスフォーメーションや最新の脳科学がダイバーシティ推進の動きに及ぼす影響について考察したい。

 

小宮 泰一: 株式会社レイヤーズ・コンサルティング 事業戦略事業部 シニアマネージャー

証券会社及び投資顧問会社で企業調査に従事した後、事業会社における人事・経営企画等の管理部門を経て、現職に至る。コンサルティング実績として、基幹人事制度設計(卸売業、ベンチャー企業、学校法人等)、経営幹部候補の育成プログラムの策定・運用(製造業,卸売業)、PMIに伴う事業戦略立案支援(製造業)等を手掛ける。企業調査と企業実務の経験を生かし、大局観と現場主義の両立が身上。 Mail: komiya.yasukazu@layers.co.jp

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