2019/9/3

パフォーマンスを最高度に引き出す 働き方改革 ~ストラテジック・ワークスタイル・デザインのすすめ~第1回  真の働き方改革とは?~本来働き方はビジネスに従う~

#メディア掲載

※『月刊人事マネジメント2019年5月号』掲載

株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 マネジングディレクター  佐藤 隆太

 

2016年に政府による『働き方改革』が提唱され,いよいよ今年4月から「働き方改革関連法案」が順次施行されていく状況にあって,「働き方改革に取り組んでいない」という企業はほぼ聞かなくなった。一方で「働き方改革がうまくいっている」という声もほぼ聞かない。日本企業は,欧米に比べて大きく生産性が劣っている。OECDデータベースをもとに日米独の時間当たり名目GDP額を算出・比較すると,アメリカは日本の1.42倍,ドイツは1.35倍の生産性を上げていることが分かる。日本企業は,少なくとも,今より1.5倍以上の生産性向上を図らなければ,欧米と肩を並べる競争力とはなりえないのである。      

日本は『真の働き方改革』 議論に到達していない

そもそも,働き方改革が本来目指すものとは,一体何だろうか?時間外労働を規制したり,有給休暇取得を徹底することが目的ではないはずである。筆者が多くの企業での働き方改革の取り組みをお伺いしていると,大きく3つのレベルがあると感じている。
レベル1:“働かせ方”改革 長時間労働の是正を目下の目標としている企業である。いわゆる「ブラック企業扱い」されることを避けるために,ノー残業デーの徹底,オフィス電気の強制消灯,PCの利用制限,超過労働に対する管理職ペナルティなど,社内規制強化を働き方改革施策としている。超過労働時間は減少するものの,現実には,仕事が終わっていないのに帰ったり,仕事を翌日に持ち越して業務全体のリードタイムが伸びてしまうなど,逆に生産性が下がっているかのような現象も起こってしまっている。
レベル2: “作業の効率性”改革 (インプット改革) デジタル化の潮流に沿って,新たなテクノロジーを導入し,徹底的に作業効率化を図ることを目指している企業である。“デジタル乗り遅れ”を回避すべく,人手で処理していた業務領域に対し,RPA による自動化,AI導入によるスピード化などのデジタル施策を懸命に実施している。付加価値を生まない作業を徹底的に効率化することは重要ではあるが,「デジタル戦略=RPAやAIの導入」に留まっている企業も少なくない。
レベル3: “仕事の質”改革 (パフォーマンス改革) 自社が行う「仕事の付加価値」とは何かを常に自問自答し,価値創造力の強化に取り組む企業である。競争力の源泉となる「優秀な人材」を惹き寄せるためのユニークな施策を講じたり,個人パフォーマンス最大化を図るための独自の施策を実施したり,顧客価値を継続的に向上させる仕掛けを構築することを重点的に行っている。 限られた労働時間を着実に付加価値創出につなげ,競争力を高め続けることを目指している状態である。このレベルの改革を行うことこそが,「真の働き方改革」であると考える。

本来,“働き方改革”は ビジネスに従うべき

働き方改革を企業のパフォーマンス改革,競争力の強化と位置づけると,そもそも企業が行うビジネスの戦略や方向性から考える必要がある。その方向性に基づき, 目指すべきワークスタイルや行動が規定され,その実現に向けた幅広い打ち手が設計されるべきである(図表1)。働き方改革は,ビジネス戦略や方向性に基づき,目指す行動・組織・風土を加速させるものでなくてはならない。ゆえに,本質的には「働き方改革」ではなく「働き方デザイン」というべきである。

図表1 働き方改革はビジネスに従う

模倣の延長に競争優位につながる働き方改革なし

しかし現実的には,先行事例や成功事例を求めて,他社の模倣をしているケースが多く散見される。成長企業の華々しいオフィス改革事例や,海外スタートアップのユニーク施策を自社に取り入れようとする動きも多い。重要なのは,なぜその企業はそのような空間デザインや施策を導入したかという背景や文脈を理解することである。表面的な部分を模倣しても,自社のビジネスや組織にとって,競争力を加速させることになるとは限らない。盲目的なフリーアドレス導入が,その企業の生産性や効率性を著しく低下させるケースも多く発生している。

組織として目指したい “らしさ”の追求が重要

働き方改革を成功させるにあたって,最も重要な工程は「組織として目指したい“らしさ”」に対する意思統一である。現状において,自社はどのような働き方スタイルをとっていて,今後どのような方向性に変革をしていきたいのかを,「働き方デザインの羅針盤モデル」 (図表2)などを使って, 経営層・ミドル層・若手層がしっかりと議論を行い,意識を合わせていくことが重要である。このベクトルが大きくずれていると,オフィス空間設計や業務設計,デジタルツール設計,制度設計など, 施策レベルに落とし込んでいった際に,大きなズレや揺り戻しを発生させてしまい,改革が失敗に終わってしまうのである。

図表2 働き方デザインの羅針盤モデル

働き方改革は,企業の競争力向上と位置づけ,全社を挙げて取り組んでいったとき,はじめて抜本的な生産性向上を生み出す取り組みとなる。間違っても,人事部や総務部だけで粛々と行う“やっただけ働き方改革”に陥ってほしくない。真の働き方改革の実現こそが,日本企業の大きな飛躍につながるものと考えている。

 

佐藤 隆太 : 株式会社レイヤーズ・コンサルティング 事業戦略事業部 マネジングディレクター

消費財,流通,情報・通信,ヘルスケア業界等の上場企業を中心に,事業戦略策定,マーケティング戦略立案,営業改革,M&A戦略,組織改革のプロジェクトを責任者として多数手がける。直近では,業務変革・デジタル変革・働き方変革を統合的に行う全社改革プロジェクトの推進に取り組んでいる。

Mail:r.sato@layers.co.jp

「第2回 ストラテジック・ワークスタイル・デザイン ~働き方の7つのドライバー~」

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