2019.09.24
働き方の成熟度には実はレベルがある
~ビジネス戦略を加速させる働き方の7ドライバー~
セミナーレポート
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部
マネジングディレクター
佐藤 隆太
本コンテンツは、2019年9月24日に開催されたJBpress主催「Workstyle Innovation Forum 2019 生産性を高め、イノベーションを創発する!“経営戦略”としてのワークスタイル変革」での講演内容を採録したものです。
日本企業の働き方改革はまだ本質に到達していない
日本企業は、欧米の企業と比べて生産性が大きく劣後しています。2018年の1人当たりの年間平均労働時間と名目GDPから時間当たり名目GDPを算出し、米国、ドイツと比較してみると、その差は明らかです。日本が23.4$/時間であるのに対し、米国は35.1$/時間、ドイツは35.4$/時間。生産性の高さは、米国、ドイツとも日本の約1.5倍となっています。さらに、2年前から同じデータを比較してみると、日本の平均労働時間は減っているにもかかわらず、時間当たり名目GDPの差は広がっています。生産性の上昇率でも欧米に劣っていることになり、差が広がる一方であるというのが現実です。
そうしたなかでも私は、2018年あたりから日本の働き方改革の潮目が変わりつつあると感じています。多くの企業のトップマネジメントとお話するなかで「生産性2倍」「間接業務50%」など、大胆な目標を掲げる改革案を耳にする機会が増えているのです。改革の内容は、二極化が進んでいます。一方は、デジタルトランスフォーメーションによる生産性向上やビジネスモデル変革、それに伴うワークスタイル変革。もう一方は、無駄の削減や効率化、多様化する働き方に対する環境や制度の見直しといった、今の働き方を前提とした改善です。特に最近は、CEOやCDOがワークスタイル変革を戦略視点で主導する傾向が見られます。
ビジネスを加速させる7つの変革ドライバー
働き方改革は、自社のビジネスの戦略や方向性に基づいて、ワークスタイルや行動、組織・風土を革新させるものであるべきです。つまり最初に、自社がどういう働き方を目指すのかを明確にすることが最も重要になります。例えば、柔軟性・多様性を重視するのか。その逆に、安定性・統一性を重視するのか。あるいは人と組織の関係において、相互依存を重視するのか。独立・自律を重視するのか。働き方改革がうまくいっていない企業においては、そうした最初にあるべき議論が、経営と現場でしっかり行われていないケースが多く見られます。
ワークスタイル変革を実現するには、7つの変革ドライバーがあります。(1)オフィス空間(2)デジタルテクノロジー(3)エンゲージメント(4)社内制度・規範(5)コンディション(健康・生産性)(6)業務プロセス(7)チーム・組織マネジメントという要素に対して統合的にアプローチすることが重要になります。
ワークスタイルをデザインするためのアプローチは、4つのステップで行います。ステップ1でビジネスの戦略・方向性を決定します。ステップ2では課題や成長機会を抽出し、ステップ3で目指したいワークスタイル・行動を検討します。最後のステップ4では、7つのワークスタイル変革ドライバーの中から自社にとって効果的な変革ドライバーを見定め、具体的な施策を検討・プランニングします。
この4つのステップに基づいた、ある業界の大手企業におけるワークスタイルデザインの事例を紹介します。当該企業においては、優秀な人材が集まっている一方、年功序列や手続き重視など、旧来の日本企業的体質や体育会系的な忖度気質が、個人とチーム全体の能力発揮の妨げになっている傾向がありました。
今回は、ワークスタイルデザインのアプローチのうち、特にステップ2の課題抽出について詳しく紹介します。課題抽出の段階では、7つの変革ドライバーをより細かく因数分解した50問程度のアンケート診断などを行い、7つの要素に対応する課題やニーズを調査しています。この過程で見えてきた負の特徴をあげると「なんだか、みんな毎日疲れている」「自席で作業はしているが、集中しているように見えない」「以前から変わらず、紙を使った仕事が多い」「慢性的に会議室が足りない」「組織の縦割りが強く、他部門の人をあまり知らない」という5つが明確になりました。
こうした現状を認識したうえで、目指したいワークスタイル・行動を描くプロセスを行い、「交流と変化が起こるオフィス」「業務スピードの倍増」という方向性を明確にします。
われわれが進むべきワークスタイル進化の方向性
当社では、働き方の成熟度には4つのレベルがあると考えています。業務の効率化を最優先課題とするレベル0、ある程度効率化は進んでいるものの紙や場所に縛られた働き方にとどまっているレベル1、いつでもどこでも働ける仕事環境を実現したレベル2、人や空間、仕事などあらゆるものが企業の壁を超えて融合し、創造的・共創的な働き方を実現したレベル3です。
働き方の成熟度の向上には、デジタル化が密接に関係しています。レベル1では、組織は縦割りの状態にあります。社内のデータは分断・分散されており、社員もヒエラルキーのなかで歯車的に働いているのが実態です。レベル2になると、社内のデータが統合され業務効率化が進みます。RPAやAIの導入が議論される段階です。さらに上を目指す企業は、レベル3の状態に進化します。社内外のデータが動的に融合し、イノベーションを生み出せる可能性がある状態です。
働き方改革を進めるにあたって打つべき施策は、このレベルによって異なるため、自社のレベルを知れば、打つべき施策の領域が明確になります。先ほどお話した7つの変革ドライバーをレベルに応じて進化させていくことで、企業の持続的な成長が実現できるようになります。
当社では、日本企業に、成熟度レベルに応じた施策を提案することで、人や仕事、空間、ビジネスモデルを段階的に進化させ、創造性の高いコネクテッドなワークプレイスを実現していただけるよう、支援していきたいと考えています。