2019.12.24

【Vol.5】LAYERS’ Business Insight「2025年の崖」克服へ 共通会計システム導入のヒント

#会計システム #デジタル戦略 #セミナー

 レイヤーズ・コンサルティングは、11月15日(金)に東京コンベンションホールで、「グループ経営管理強化の要である共通会計システム刷新の重要性~ガバナンス強化と、『2025年の崖』の克服~」と題したセミナーを開催いたしました。
 基調講演では、東急株式会社様・伊藤忠商事株式会社様より自社事例をご紹介いただきました。
東急株式会社様からは、共通会計システム導入のメリットやプロジェクト成功のための秘訣を、伊藤忠商事株式会社様からは、S/4HANA化と全社データ統合基盤プロジェクトを成功に導くポイントに加え、全社データ統合基盤の構築法とデータ活用についてご講演いただきました。
 いま多くの企業で会計システムが足枷となり、「事業の入替え」「製品の統廃合」「生産拠点の変更」などの重要な意思決定がでず、経営の硬直化に陥っている現状があり、さらに『2025年の崖』に直面する旧システムは限界を迎えています。
 経営を前進させるエンジンとなる共通会計システム導入に向け、そのメソッドをお届けします。

事例紹介

【東急株式会社様】

多業種100社を束ねるための共通会計システム導入
~連結経理体制を取り巻く課題の突破法~

財務戦略室長
戸田 匡介 氏
東京急行電鉄株式会社入社後、主計部門、鉄道部門(投資計画・原価管理)、子会社のバス会社(路線計画・原価管理)、鉄道車両製造会社(事業管理)を経験し、特に、鉄道運賃制度に深く関与したほか、多くのグループ内の事業再編・構造改革に携わる。直近では、鉄道事業の分社化を主導。

 

 

財務戦略室
経理マネジメントグループ 課長
島田 龍之 氏
東京急行電鉄株式会社入社以後、経理部門にて単体決算業務から、新会計基準の連結対応業務の構築、IFRS影響度調査などに携わる。保険代理店子会社の業務システム構想を経て、グループ共通会計システムの構想から開発、導入のプロジェクトマネージャーの傍ら、連結経理体制を仕組み面からサポートする改革の立ち上げも担う。

■ 複雑化する会計制度 共通化の流れは必然
 共通会計システム導入のポイントは4つあります。まず「連結経理のガバナンス強化」では戦略人材・参謀機能に向けた人を作る仕組みづくりが大事になります。次に「システム導入の体制構築・導入目的」では、ユーザーが主導する、ブレない目的を持ち、その問いを徹底しなければなりません。そして「システムを共通化」する上で必要なコミュニケーションは、全方位・丁寧に・繰り返しを地道に行うことが重要です。最後は「システム開発」。カスタマイズvs共通化がテーマとなり、最も大変ですが、なるべくカスタマイズを避け、共通化の徹底が重要です。

 東急(株)グループは交通事業、不動産事業、デパートやスーパーの生活サービス事業の3つのコア事業を計136社(2019年6月30日現在) で構成するグループ企業です。連結経営時代の経理部門が抱える課題として、企業経理への要請は複雑化し、ガバナンス強化が課題になっています。2000年から効率化やコスト削減を目的に、東急ファイナンスアンドアカウンティングが経理シェアードサービスを提供していますが、複雑化した会計制度への専門的な対応やガバナンスの強化という側面からシェアードサービスの役割も変化し、経理の受託から経理以外の業務を含む総合的な人財供給という形に変化してきました。各社独自の会計システムには課題が多く、システム変更を伴う会計システムの共通化の流れは必然でした。

■ 「みんなが使うもの」 広報徹底し納得感醸成
 東急(株)グループにおける共通会計システム導入のプロセスについてご紹介します。最初に企画・立案の段階において、経理としてどのように会社に貢献し、コミットするかが重要だと考えました。経営のイシューに応えるために、部門のプロジェクトではなく、錦の御旗を掲げる進め方を選択しました。肝はプロジェクトの目的をしっかりと定めて、ブレない軸を作ることです。シェアードサービス提供会社を中心に人財の適正配置に手を付けて、人の共通化が進展してきたことから、システムを共通化し、そこから使い方に着手していくプロセスでプロジェクトを進めることを決定し、その上で①業務品質の向上②ガバナンスの強化③コストの最適化-という3つの基本方針を定めました。

 次の構想・策定の段階では、私どものような多種多様なグループ各社に本当に同じシステムを使ってもらうことがいいのか大変悩みました。「会社規模ごとの共通化」や「親会社以外の共通化」というパターンも想定しましたが、一部で共通化済みである現状を踏まえ、3つの基本方針を充足させる「全社共通化」を目指しました。そして、各社でバラバラの業務を行っているため、フロントオフィスは異なるシステムにせざるを得ず、経理のバックオフィスだけに同じシステムを導入する「水平統合型」に決定しました。導入ステップは各社ごとの保守期限を基に共通会計システムに切り替えていきました。その中でも最初のパイロット導入が最も重要と考え、導入しやすい会社ではなく、導入の難易度が高い東急百貨店をターゲットにしました。過去に、基本パッケージに多くのカスタマイズを入れ、バージョンアップのたびに多大なコストが発生した経験がありますので、極力ノンカスタマイズを目指しました。別システムですが、全く使わない画面を通らないと確定できない構成にしたときも、「使いにくい」という声は出ましたが、3カ月もすればなくなりました。この経験も踏まえ、いかに踏ん張り、「共通会計システムはみんなが使うもの」ということをコミットさせるかが大切です。

 一方で各会社に新システム導入をアナウンスするとまずネガティブな声が出るので、プロジェクトの推進には工夫が必要です。1つ目のポイントは体制の構築。パイロットを開発するにあたり、主要な会社にはあらかじめメンバーに入ってもらいます。運用の中心を担うシェアードサービス提供会社をはじめ、錦の御旗を立てられる経営企画部や情報システム部にも参画してもらい、外部のリソースも積極的に活用しました。そして、全方位のコミュニケーションもポイントになります。各社の経営層に書簡を送ったり、説明会を行ったほか、経理担当者には年1回必ず説明会を行いました。社内報も活用し、取り組みをグループ全体に紹介してもらいました。丁寧に繰り返して説得していくことでネガティブな声はなくなっていったので、このような“広報活動”は非常に重要だと感じています。

■ 「安ければよし」は悪手 コスト最適化の視点を
 ここまでで転がす仕組みはできましたので、次にどう着地したかです。パッケージ選定では、基本方針をベースに機能の網羅性や実績のほか、パッケージをベースに標準化するスキルやノウハウなどベンダーの能力を加味しました。安いものを選んでしまうと、安いなりの制約が出てきます。「安ければよし」ではなく、基本方針の一つである「コストの最適化」も重要な視点です。RFPの提案書の中身は何を作ってくれるかというよりは、どう展開できるかにフォーカスしました。実現するシステムのイメージとして、共通会計システムを中心とした複数ソリューションをクラウドに構築し、各社の仕訳明細や資産台帳など連結串刺しデータを管理するグループの統合DBを取り組み対象にしたのが特徴です。
 要件定義では共通化の徹底を図りました。「本当にカスタマイズが必要?」「運用回避できないのか?」などと喧々諤々、議論し、納得感の醸成を追求した上で、ベンダーや会計コンサルの力も借りながら業務フローと勘定科目を統一しました。システム構築していく際には、ベンダーマネジメントが重要になります。ユーザー部門が最前線に立ち、ベンダーだけでなく製造元ともコミュニケーションを取り、寄り添ってもらいながら標準化を目指しました。運用はシェアードサービス提供会社に窓口を一元化し、経理課題とシステム課題をしっかり切り分けて課題を解決していく体制を組みました。

■ 「経理はハズレじゃない」 高度で魅力ある職場に
 システム部門が中心になると、システムをどう構築するかが焦点になりがちですが、ユーザーがコミットし、どう使うかにフォーカスしてプロジェクトを進めたのが特徴です。業務をあらためて見つめ直す良いきっかけになりましたし、子会社の横のつながりが出て、それぞれの経理事情に理解が進み、風土改革が副次効果としてありました。

 現在、業務フローの見直しも検討しています。請求書のPDFをフォルダに置くと、伝票化され、「予算に合っているか」や「毎月支払われているか」などの要件を基に、ヒトによるポイントを絞った確認→承認処理自動化となる仕組みを検討しています。自動化されれば、経理は事後に傾向値や異常値で不正検知分析を行えばいい形になります。このような取り組みをまさに進めようとしており、BPOに投げる仕事も減ると期待しています。機械に置き換わると評されるなど、 いまの経理部門はハズレ職場と思われるきらいがありますが、“ハズレじゃない世界”を作り、高度な業務を実践できる“魅力ある経理”の実現を目指しています。

事例紹介

【伊藤忠商事株式会社様】

次世代商人を支える次世代基幹システム構築プロジェクト
~S/4 HANA化と全社データ統合基盤~

IT企画部 全社システム室
室長
浦上 善一郎 氏
1991年伊藤忠商事に入社以来IT部門に従事。1997年よりニューヨーク駐在SAP領域含めインフラ構築・維持に従事、2000年より繊維部門情報化担当、2002年よりアジア・欧州域の全海外現地法人向けグローバルSAP導入プロジェクト責任者、2006年より全社業務改革プロジェクト推進、2011年よりシンガポール駐在、アジア・大洋州域IT統轄組織立ち上げの責任者を経て、2016年より伊藤忠テクノソリューションズ出向、伊藤忠商事の次世代基幹システム構築S/4 HANAプロジェクト責任者を経て、2018年7月より現職。

■ 『2025年の崖』は次世代への経営リスク
 経産省が昨年度発行した「DXレポート」では、約7割の企業がレガシーシステムの課題がDX実現の足枷だと感じています。さらに、システムの複雑化やブラックボックス化した企業のITシステムがデジタル変革を失敗させ、2025年から毎年12兆円の経済損失をもたらすと提言しています。そして、意外に『2025年の崖』の存在自体、経営者に知られていない実態があります。IT部門としては『2025年の崖』を乗り越えるために基幹システムの再構築を経営に起案したいと考えるのですが、“足枷解消”によりシステムの価値こそ向上するものの、現状の業務が大きく変わるわけではありません。そのため経営者には価値が見えにくく、価値を伝え切れないのがIT部門の悩みです。これらを踏まえ、弊社として①どのように経営マネジメント側に起案したのか②S/4 HANA導入方式は新規導入with業務改革方式(Greenfield)または、マイグレーション方式(Brownfield)のどちらを選択したのか③プロジェクト成功のポイント-の3点について紹介します。

 「いざ、次世代商人へ」というのが、弊社の中期経営計画2020ステートメントです。昨年度に創業160年を迎えた歴史の中、「第二の創業」という局面を迎えています。異業種が既存のビジネスに参入してくる時代に危機感があります。AIやIoTの新しい技術を活用し、既存のビジネスを新たな形にしていくのが必要だと考え、「次世代商人」というキーワードを掲げました。プロジェクト立ち上げのきっかけは、「新ビジネスの創出にあたり、基幹システムはこのままでいいのか」と、社内から問題提起があったことです。1970年代からシステムコンセプトは大きく変わっておりませんでした。その中での課題として、夜間一括更新のため、リアルタイムでの損益把握が困難でした。また営業からの新要件に対しても実装困難であったり、コスト増の問題もありました。システムを理解している社員が高齢化し、保守の属人化・ブラックボックス化も起きておりました。そして、『2025年の崖』と言われる製品保守期限(EOSL)に伴い、継続性の懸念があり、これらの課題が次世代に向けての経営リスクになるという認識となりました。

■ 次世代基幹システム導入に欠かせない経営視点
 システム化方針は、「利便性としてリアルタイムでの損益把握の実現」、「要求対応として多様なワークスタイル実現を意識した現場視点の最適化」、「品質面として中長期的視野でのIT人財育成」、そして、「従来の5年や10年でのバージョンアップを繰り返すという発想を変え、拡張性・柔軟性を備えた長期安定利用」の4つを打ち出しました。その上で、過去に行った業務改革の経験を活かして、現有資産を有効活用することを前提とし、大きなBPRを伴わない「マイグレーション方式」を採用しました。

 ただ、システム化方針だけでは経営側は首を縦に振れません。システム化の狙いとして、「弊社の商売の基本である「か(稼ぐ)、け(削る)、ふ(防ぐ)」の徹底」、「働き方改革の推進」、「連結経営の深化を見据えた機能拡充」という経営者視点を加え、経営会議にはIT企画部と経理部共同でプロジェクト案を上程しました。基幹システムは決算・経営を担う重要なシステムであり、業務とシステムの両輪のプロジェクトを強調したことで、システム刷新が承認されました。

 プロジェクト概要について、3つのレイヤでご説明します。まずシステム基盤レイヤはオンプレからパブリッククラウドへ移行です。アプリケーション基盤のレイヤは、S/4 HANAへのバージョンアップ、加えて仕訳作成処理機能のソースコードを移植、そして周辺部門システムからのデータ連携を担うデータ連携基盤の構築です。そして、全社社員向けのデータ分析基盤として、全社統合データ基盤(Data Lake)を構築したことも大きな目玉です。また、ユーザーの業務要件レイヤでは、システム化の狙いの一つでもある「連結経営の深化を見据えた機能拡充」として、連結経営を深化する機能を構築、そして単体の入金・出金や与信は機能を改善し、リアルタイム更新の実現です。これらがプロジェクトの全体像となります。

 スケジュールですが、S/4 HANAを中心としたシステム基盤とアプリケーション基盤刷新プロジェクトは2016年6月にキックオフし、2018年5月にリリースしました。また、全社員が使えるように、全社統合データ基盤も同時にリリースし、データ活用や分析促進を行っています。業務要件プロジェクトでは新事業管理や外貨資金調達多様化対応など、凡そ半期ごとに新しい機能をリリースすることで進めています。

 プロジェクトの体制としては、IT企画部長と経理部長をプロジェクトオーナーに、基盤刷新と業務要件に分類した上で更にサブプロジェクト化し、加えてプロジェクト横断によって全体の整合性を確保しました。PMOを含めて弊社とCTCを中心としたマルチベンダー体制を組みました。レイヤーズ・コンサルティングにはユーザー側のPMO支援や連結与信を中心にユーザー側のサポートに入っていただいたことに加え、プロジェクトの初期構想段階から参画していただきました。

■ 諸勘定元帳の出力 123時間→27分に
 次にS/4HANA化後に実現できたことを紹介します。S/4 HANA化により高速処理が可能となり、例えば諸勘定元帳の出力は従来、123時間かかっていましたが、27分に短縮された例もあります。また、今回採用したCTC社提供のパブリッククラウドCUVICmc2は従量課金制のため、リソースの最適化も実現できております。

 データ集約のハブ機能を持つ全社データ連携基盤は、部門システム(営業系25、財務系11、その他管理系23)からのデータを全社統合データ基盤にデータを集約させる機能をもち、リアルタイム化の要となります。次世代ビジネスにはデータ活用・分析が鍵を握ります。全社統合データ基盤から、必要なときに必要な形でデータを抽出できる全社統合データベース分析システムを構築し、“HANABI”と命名しました。また、データ分析プロ集団であるBICC(Business Intelligence Competency Center)をIT企画部内に設置し、IT人財育成も視野を入れながら、全社員にデータ活用の働き掛けをしています。例えば、アルミビジネスの損益月次分析では手作業でのデータ入力が必要でしたが、ボタン一つで必要なレポートを抽出できるようになり、従来5~6時間かかっていたレポート作成時間が5分に短縮されました。現場視点では40回超の説明会を行ったことで「HANABI」のユーザーが2000人を超え、社員の半数以上が活用しています。

 経営の観点からは連結経営の深化として、各社の取引先コードを特定できるグループ共通取引先コード導入により、グループにおける取引先の債権の合計額が分かるようになり、連結与信管理の高度化にも寄与してきております。弊社の商売の基本でもある「か(稼ぐ)、け(削る)、ふ(防ぐ)」の「け」と「ふ」には成果が出ており、今後は「か」への貢献も促進していきたいと考えております。

■ DX時代は現場データの活用・分析が必須
 現時点でプロジェクトを振り返り、円滑にプロジェクトを推進できた要素としては、まずは、業務・システムの両輪体制が重要な要素だったと考えます。また、ベンダーとユーザーも含めて「ONE TEAM」となるように工夫し、実行性のある計画を練り、要件確定については、後戻りしないスキームを事前に確立することが出来た点も良かったと考えております。品質面では、私どもは過去2年分のデータを使い、現行と新システムを比較しながらの統合テストやパフォーマンステストを行った点も良かったと考えております。本番移行にあたっては昨年のGWの平日を休みにし、9日間の移行期間を確保し、約160人体制の24時間3交代で行いました。連続9日間の移行期間を確保するのは難しいため、本番移行に際しては、3度のリハーサルを行いました。念には念をいれた移行リハーサルも良かったと考えております。S/4 HANAという新しい技術を採用したこともあり、想定外の不具合も多々ありましたが、クラウド環境を柔軟に払い出してもらうことで、不具合の原因究明のために時間をかけずに環境を準備し、課題解決の早期化ができたことも良かったと考えております。

 最後に弊社の場合は事業ごとに形態が異なり、会計システム(ERP)のグループ共通化は現実的ではありません。一方で会計システムは経営の心臓部であり、長期的、安定的に提供することは極めて重要です。DX時代に向かうためには会計データのみならず、現場で発生するオペレーショナルデータの蓄積が整備されてこそ、データ活用・分析の基礎となると考えております。

共通会計システムの構成と構築ポイント

株式会社レイヤーズ・コンサルティング
経営管理事業部 公認会計士
プリンシパルディレクター
薄井 賢治

■ 人の時間は有限 RPAのフル活用を
 共通会計システムのパターンは一様ではありません。ガバナンスが効く「グループシングルインスタンス」は理想形ですが、お金と時間がかかります。2層ERPを用いたクラウドを活用する「主要ERP+2層ERP(クラウド)」や「ERP+共通パッケージ(オンプレミス)」などパターンは複数あるので、その企業のビジネス環境や予算を含めて判断するべきだと考えます。

 共通会計システムはERPをすべて統一した中で会計機能を格納される形と、フロント業務とバックオフィスである会計機能を切り分けて統一する考え方があります。こちらも一長一短があり、どちらがいいというわけではありません。基幹システムと会計システムの密結合も可能ですが、今後、ビジネス環境が大きく変化していくことを踏まえると、基幹システムに拡張性・可変性を持たせながらも会計情報はルールに基づいて巻き取れるシステムが良いという考え方もあります。

 会計システム構築のポイントは3つです。まずは業務のシンプル化です。例えば、本支店会計、付替処理、支払締めなど各種機能が本当に必要なのかと再度見直し、システムを構築していくことをお勧めします。さらに単一のERPに加え、固定資産管理、経費精算、ワークフロー、BIツールなどのユーザーの要求に合ったソフトウェアを柔軟に組み合わせることも重要です。要件定義時にRPAを最大限活用することを重視してください。人は1日8時間しか働けませんが、システム1日24時間働けます。システムができることはシステムに任せ、システムができないことを人が行う世界を実現していくことが重要です。

 また会計システムは、取引情報を会計情報に変換して活用するものです。従って、如何にグループ・グルーバルで“共通”の会計情報を生成できるかが重要になります。そのためには、データガバナンス(勘定科目、会計規程・処理・コード体系等)及び仕訳変換DBの整備が求められます。

 単純に共通会計システムを入れ替えるというだけでは経営トップマネジメントの納得は得られません。何をして、どのようなメリットを享受できるのかを自分たちが納得し、それを実現しようと構築していく能動的なスタンスで取り組んでください。

共通会計システム導入時に重要なこと

株式会社レイヤーズ・コンサルティング
DX事業部 副統括 マネージングディレクター
伊藤 雄一

■ 導入目的は効率化とガバナンスの強化
 昨今、政府からは『2025年の崖』と半ば脅迫めいたニュアンスも発信されていますが、共通化はかなり難しいテーマだと感じています。そもそも共通会計システムはどのような目的で導入するのでしょうか。共通会計システム導入が「本当に必要なのか」という問いにおいて、大きな目的は「効率化」と「ガバナンス強化」に収斂されると考えます。

 まず効率化ですが、例えば、グループ100社が決算や会計処理をしなければならない中、それぞれに会計システムを導入し、それぞれにメンテナンスをするのは非効率です。昨今の消費税対応の場合、各社の会計システムがリソースを割いて消費税対応をするのは非効率になるのは想像に難くありません。

 もう一つの目的であるガバナンス強化は、同じシステムを使うことで統制を図るということです。例えば、もし、仮払処理をやめさせたい意向があれば、共通会計システムにその機能を搭載しない形で全体の業務をコントロールしていくことができます。共通会計システムには支払いや入金の処理機能がありますが、取引先を登録する機能を制御することで、不正な取引先の登録・支払、入金を防ぐことができます。昨今、システム開発や業界改革のプロジェクトを検討する際、必ず内部統制の要素が出てきますので、自由にさせないという意味での共通会計システムの意義もあるのだと思います。

■ 業務の標準化のコツは 共通化領域の見極めが重要
 ただ、共通化つまり業務の標準化は簡単ではありません。業務を標準化するためには、業務フローを作るのですが、業務フローを作ったからといって業務は揃わないのが実態です。業務フローでは仕事の流れを一つ一つボックス化し、フローチャートで表現しますが、標準化のミソはボックスの中のやりくりです。ボックスの中身は各社、各人で異なるため、フローを書いて終わるのではなく、もう一歩突っ込んで、フォームの標準化や情報の連携・共有方法の見直し、情報入力や処理サイクルの統一を行ったり、営業組織と経理組織における仕事の役割を横串で整備するなども業務を揃えるためには重要です。

 ガバナンスの本丸は業務の標準化です。共通会計システムの導入を契機に実現できることが一番望ましい形ですが、共通会計システムがカバーする領域は会社によって意外にマチマチです。実際に搭載される機能は売上・債権管理、仕入・債務管理、在庫管理・原価計算、固定資産管理、経費管理・振替伝票、決算・財務諸表、連結決算用データがありますが、どこまで揃えるかがテーマになります。もし、会社で全体的にガバナンスを効かせるのであれば、すべての機能を標準化するのが一つの考え方ですが、現実的には難易度が高いといえます。一方で、固定資産管理、経費管理・振替伝票、決算・財務諸表、連結決算用データという口座部分は共通化に取り組めると考えます。売上・債権管理、仕入・債務管理、在庫管理・原価計算については標準化の難易度が高いと考えます。

 始めからあまりにも広く網をかけにいきすぎると、事業会社に展開した時に合わない部分が出てきて、ある部分が業務に合わないから導入できないという話になってしまいます。ある意味、共通会計システムと言いつつも、柔軟性や幅をもたせることが共通会計システムを導入するコツです。揃える機能、揃えない機能のメリハリが大切です。

 あらためて、共通会計システムの導入では、「狙い」を定めることが重要です。構築の際、一体何を狙って作るべきかを深堀りするべきでしょう。共通システムの導入の苦労は、ひとえに企業の風土や文化に関係してきます。推進のやり方として、初期段階から主要な事業会社にメンバーとして加わってもらうなど、自社の風土や文化をベースとした推進体制を構築することもポイントです。

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