2017/1/30
【連載第2回/2017年1月】東京大学 藤本教授 在外研究エッセイ「ドイツの中小・中堅企業の学ぶべきこと」
東京大学大学院 経済学研究科 教授
東京大学ものづくり経営研究センター センター長
仏国 社会科学高等研究院 在外研究中
藤本 隆宏
昨年11月、「インダストリー4.0」の一中心であるミュンヘン工科大学の独日コンファレンスにて発表してきました。ドイツ側のリーダーは、人工知能の権威、K.マインツァー教授です。
日本でも「4.0」への関心は高いが、「ドイツの工場はネットワーク連結の全自動化に向かっていて日本は周回遅れだ」という幻想が独り歩きしている感もあります。日本ではそんな話になっているよと言ったら、そりゃ傑作だとドイツ人に笑われました。こちらの論議はもっと地道です。ネットワークもAIも始まったところで、道遠しだが頑張るという雰囲気です。
会議でも、AIによる工場全自動化などという米国的な派手な話は出てません。むしろ、地道な自動化・ネットワーク化推進と並んで、ICTやAIによる作業者や作業組織や中小企業の能力強化の話が多かったです。現場リーダーの面倒見・相談・指示などの機能をAI化する話に近いです。「アシスタントシステム」と彼らは呼び、現場から吸い上げてAIで意味付けした情報を作業者に示し、人の現場対応力を強化し、階層組織からチーム組織に変えるというのです。日本で言えばブリヂストンのFoAという、現場で吸い上げた意味あり情報をイントラネットで回す改善支援システム(回転寿司IoT)に発想が近いと思います。
もうひとつ、「4.0」の対象としては中小・中堅企業(Mittelstand)が非常に重視されています。中小企業の参加なくして4.0の成功はないと独政府は意気込みます。しかし、伝統的な技術力や輸出力で自負のある中小企業がなかなか乗ってこない。「うちはただの板金部品屋だ、4.0の話なんか聞きたくないという社長の説得に苦労しているよ」とこぼしていて、そうだろうねえと親近感を持ちました。
総じて、「ドイツの誇る中小企業が、ICTで制空権を握る米国企業の下請けになってしまわないように、我々はインダストリー4.0を頑張ってやるのだ、しかし簡単ではないぞ」というのが彼らの考えのようです。