2018/7/13

【連載第10回/2018年7月】東京大学 藤本教授エッセイ「IoTというよりはIfT」

#トピックス

東京大学大学院 経済学研究科 教授
東京大学ものづくり経営研究センター センター長

藤本 隆宏
 
*株式会社レイヤーズ・コンサルティング「ものづくり賢人倶楽部」ファシリテーター
 
私は自動車産業やFA機器を含むものづくり現場の経営学が専門なので、その観点から、最近聞くことの多い「IoT」(Internet of Things)ということについて考えてみましょう。
 
IoTの話は、広義、狭義、いろいろあるようですが、(1)地上で(飛行機も地上と見なす)モノからセンサーでデータを取る、(2)それを発信する、(3)インターネットでデータを伝送、(4)上空のクラウドコンピューティングでAI(人工知能)なども活用してデータ処理、(5)結果を地上のモノか人にフィードバック、というのが、よく言われる定義のフルメニューと思います。もっとも、日本での用法など見ていると、(1)(2)だけ満たせばIoTと呼んでいることが多いように思います。
 
しかし、私に言わせれば、それはIoTではなくIfT、つまりInformation from Things、ではないですか、というのが私の、これに対するいわば「いちゃもん」です。
 
最近は、地上に近いところ、あるいは低空でデータを捕まえて処理するフォッグコンピューティングやエッジコンピューティングの議論も盛んです。要するに、上記のような、(1)(2)(3)(4)(5)のフルメニューでないものでも、(1)(2)があればIoTと呼んでいるようです。しかし、そうだとすると、インターネットにまで到達しないものも十把一からげで「Internet of Things」と呼ぶのは個人的には素朴な違和感があります。ものから取ったデータの行き先が「インターネットも」なら当然よくわかるのですが、「インターネットだけ」というニュアンスが付いてくると、それは違うでしょう、と言いたくなるわけです。
 
広義に言えば、「IoTデバイス」つまり発信機付きのセンサー機器でモノから情報を取るからIoT、ということかもしれません。しかしそれなら、まさにIfT(Information from Things)でよいのではないかな、と私は考えます。欧米でも、私は自動車の将来やコネクテッドカーの国際会議でこのIfTの話をしましたが、自動車企業やFA企業の現場に近いところの人たちは何人か「その考えには賛成だね」と言ってくれました。
 
たとえば、愛読する『日経ものづくり』によれば、トヨタが今プレスショップでIoTと呼んでいる取り組みの一つは、鋼板や設備にセンサーをつけて、前のプレスでの形状不良が出たら、すぐフィードフォワードで次プレスが停止、というようなものです。1秒単位のこうしたオペレーションそのものに、インターネットは直接的には介在せず、使われるのは、通常の工場内ネットワークでしょう。つまり上記の(1)(2)だけで済みます。つまり、厳密にいえば「インターネット・オブ」と言う用語は正確ではないことになります。
 
むろん、そうした不具合データをネットを通じてクラウドコンピューティングに上げ、AIなどで分析してもらって、結果を現場のコントロールシステムに反映させるというのは、大いにありで、トヨタでも近いうちにやるかもしれません。つまり、(1)(2)(3)(4)(5)のフルメニューも併用する可能性は大いにある。しかし、トヨタ的フィロソフィーでいえば、その場合も、現場の人間に知識が蓄積しない形での丸投げはまずしないでしょう。
 
このように、IT系のビジネスの人たちは、IoTは上記の(1)(2)(3)(4)(5)のフルメニューで完結すると解釈する向きがあると思いますが、逆に、ものづくり系の現場では(1)(2)のみでIoTと呼ぶことが多いように思います。後者では、「IoTデバイス等を使うからIoT」という略語かもしれません。しかし、繰り返すなら、これならIfTと呼ぶのが自然です。個人的には、(1)(2)部分のみが動いている場合、それをIoTと呼ぶべきではないと思います。つまり、IoTの定義には揺らぎがあると言わざるを得ません。
 
むろん、「IoT」はすでに流行っている言葉なので、私も「言わば」の言葉として使っていますが、そのニュアンスは「ものからデータをとって、そのビッグデータを、インターネットを含む様々なネットワーク(専用線、産業イーサネット、イントラネット等々を含む)につなぎ、適材適所でビッグデータを使い込む、ということだと思います。企業や現場が競争力強化のために取り組む「デジタルものづくりIT」にとって特に重要なのは、IfTの部分だと思います。たとえばブリヂストンさんが以前から取り組んでいるFoA(Flow-oriented Approach)は、いわばIfTをイントラネットにつなげる、現場参加型の回転ずし型ITであり、これこそが日本における「IfT-IoT」の元祖的存在であると私は考えます。

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