経済安全保障とインテリジェンス(前編)
最近、ニュースや経済誌などで経済安全保障という言葉を目にする機会が増えてきました。重要そうだけれど、実際に何を指すのかが掴みにくい、そんな方も多いのではないでしょうか。
今回は「経済安全保障とインテリジェンス」をテーマに、経済安全保障とは何か、そしてそれが損なわれると企業にどんな脅威が生じるのかを、この分野で多数のプロジェクト実績を持つマネージャーの内村 大地よりご紹介します。
Q1. 経済安全保障とは
A. 国家の安全保障と企業の経済活動が結びつき、経済が国益を守る手段として使われる時代の考え方
内村
企業が行っている「経済活動」と国が行っている「安全保障」は、これまで2つとも分かれた存在として認識されてきましたが、最近は企業の経済活動と国の安全保障の垣根がなくなり、混ざり合うようになってきました。これが経済安全保障です。
特に、国が経済を武器化と言ったりしますが、政策の手段として使うことや、国の安全保障、国益のために経済を利用することが増えてきたため、企業としても安全保障を無視できなくなってきています。
国から企業への働きかけも増えてきており、今後はさらに、変化していく事業のルール、事業環境に企業としても対応していく必要があります。
Q2. 経済安全保障が損なわれるとどうなるのか
A. 企業の事業継続や競争力、従業員の安全が脅かされるなど人と経営の両面で深刻なリスクに直面する
内村
経済安全保障における脅威は様々なものがありますが、例えばサイバー攻撃が挙げられます。昨今、日本の企業でも被害が増えていますが、サイバー攻撃を受けると、システム等が乗っ取られてビジネスが行えなくなることや、サイバー攻撃を行った犯罪者集団から身代金を要求される可能性もあります。また、企業が持っている重要な技術の情報や、営業秘密の情報なども盗まれてしまうこともあります。
次に、経済安全保障の中で特に重要な問題として挙げられるのが、サプライチェーンの問題があります。グローバルに展開している企業は様々なところから原材料や部品を日々運ぶための物流を構築していると思いますが、そのサプライチェーンが寸断されてしまう、あるいは輸出入する際にコストが上がってしまうといったところも経営に大きなインパクトになります。
もう一つ挙げられるのが、技術情報の流出です。企業の競争力の源泉である技術や知的財産権がサイバー攻撃で盗まれることもあれば、退職した人材を通じて外部に流出してしまうこともあります。これによって競合企業の競争力が高まって、競争に不利になることがあります。
最後に、従業員の安全の問題が挙げられます。外国でマーケット調査などの情報収集に取り組んでいる際に、外国の状況によって、安全保障上の懸念から逮捕される場合や拘束される可能性もあるので注意が必要です。
この記事の執筆者
内村 大地
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部
マネージャー
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部
マネージャー
ロンドン大学キングスカレッジ大学院で安全保障を専攻・修了。米パシフィ ックフォーラム笹川平和財団非常駐フェローや在エチオピア日本大使館政務 班勤務を経験した後、グローバル有数の企業調査・リスクコンサルティング ファームを経て現職。コンサルタントとして、これまでに企業の海外事業展 開や拡大にあたってのカントリーリスク評価、台湾拠点における有事を想定 したリスク管理の枠組み及び事態対処計画策定、シナリオ作成を通じた地政 学リスクへの対応、全社的リスク管理(ERM)の高度化、リスクアセスメン トなどのプロジェクトに従事。