2020.3.11

【Vol.6】LAYERS’ Business Insight 2020年注目のエクスペリエンス・イノベーションとは ~新たなCX(カスタマーエクスペリエンス)、EX(エンプロイーエクスペリエンス)を生み出す価値創出のビジネス手法~

#カスタマーエクスペリエンス #デジタル戦略 #ビジネスモデル変革 #企業価値向上 #セミナー

 レイヤーズ・コンサルティングは、1月29日(水)にシャングリ・ラホテル東京で、「DXによる攻めの変革 エクスペリエンス・イノベーション」と題したセミナーを開催いたしました。基調講演では日本航空様およびクアルトリクス様よりご講演いただきました。
 日本航空様からはDXによるエクスペリエンス・イノベーションへの挑戦をテーマに、全社を挙げて取り組んだ大規模プロジェクト・旅客基幹システムの刷新事例や新たな体験価値向上の取り組みなどについて、クアルトリクス様からはエクスペリエンスギャップを埋める同社のエクスペリエンス管理プラットフォームやエクスペリエンス改善に必要な要素についてお話いただきました。
成熟市場の中、良質なエクスペリエンスを提供し、顧客のエンゲージメントを高めていくことが企業の成長の鍵となってきています。それと同様、企業内で良質なエクスペリエンスを提供することが従業員のモチベーションを高め、それが成長エンジンとなります。
 CX(カスタマーエクスペリエンス)やEX(エンプロイーエクスペリエンス)を高め、「喜び」や「感動」を提供する新たな価値創出のビジネス手法「エクスペリエンス・イノベーション」。2020年注目を集めるメソッドを紹介します。

事例紹介 【JALが目指すDXによるエクスペリエンス・イノベーションへの挑戦】

西畑 智博 氏
日本航空株式会社
常務執行役員 イノベーション推進本部長
1984年東京大学工学部卒業、日本航空株式会社入社。1997年より7年間eビジネス推進チーム・リーダーとして、ITとマーケティングの融合したJALのeビジネスを推進。2001年JAL/NTT共同実験放送を実現しインターネット放送「JAL TV」を開始。2009年より国内営業部長、Web販売部長を経て、2014年より執行役員として、JALの旅客基幹システムを50年ぶりに刷新するSAKURAプロジェクトを担当し2017年にサービスイン。2018年 執行役員 イノベーション推進本部長に就任し「JAL Innovation Lab」や「JAL Innovation Fund」を設立。2019年4月より現職、常務執行役員に就任し、イノベーションと新規事業創造を推進中。

■ イノベーションを起こす7つの“力”
 JALはエクスペリエンス・イノベーションに挑戦し、実現するために今まさに格闘しているところです。ゴールがある話ではなく、5年、10年かけて実現していきたいと考えています。

 JAL3万6000人の社員が同じ方向を向き、エクスペリエンス・イノベーションを進めるためのキーワードは7つあると考えています。一つ目が社内外への『巻き込み力』です。内部をどう巻き込み、外部とどうパートナーシップを組むかは極めて重要です。二つ目は「マインド力」。社長ら経営層だけでも、現場の社員だけでも、ミドルだけでもイノベーションは成功しません。この3階層が同じベクトルを向くことが成功のカギです。ただこれは言うは易しで、実行するのは非常に難しいというのが現実です。三つ目は『スピード力』。今の時代、最初に決めた仕様通りに数年をかけて開発するウォーターフォール型では時間軸の合わない案件が非常に増えています。私の部署では3カ月を1年としてとらえ、3カ月単位で変革させながらゴールを目指していきます。四つ目が『失敗力』。よく「失敗してもいい」と言われることがありますが、それは本心なのかという疑問もあります。それが本当だという姿勢を、経営層を含めて見せないといけません。しかし、ただ失敗してもいい、という甘いものではなく、本当に成功しようと思った人の失敗でなければいけません。失敗から学び本気で実現にこだわり続ければ、成功に辿り着くことができます。次に『プライオリティ力』です。リソースは有限なので、3カ月の中で優先順位を決め、やることだけではなく、やらないことを決めます。そうすることで、リソースを集中できます。六つ目が『発信力』。小さなことでも『見える化』することが大切です。自分の仕事がメディアに出て社外で評価されれば、社内の人間がモチベートされるはずです。最後のキーワードは『チーム力』です。一人の人間ができることは限られています。だから、社内外をどう巻き込んで、私どもが『ワンボード』と呼んでいる一体感のあるチームを作るかに注力しています。

 なぜいまエクスペリエンス・イノベーションなのかと言いますと、3つの視点があります。DXを成し遂げる目的は、CX(カスタマーエクスペリエンス)の最大化、つまりお客さまに最高のサービスを提供することです。そして今後、目を向けなければならないのが社員です。つまりEX(エンプロイーエクスペリエンス)をどう最大化するか。これが両輪でないと、よいサービスは提供できません。EXの中には働き方改革やテクノロジー導入による品質・生産性向上なども含まれます。最後に忘れてはいけないのはSDGsです。17のゴールついて2030年までの実現を目指しているのですが、社会の視点を踏まえた上で、どうエクスペリエンス・イノベーションを成し遂げるかが大事になります。私共はSDGsの17番目の項目であるパートナーシップをオープンに組んで目標を達成していくことをめざしています。そしてこれらは、JALの企業理念『JALグループは全社員の物心両面の幸福を追求し、お客さまに最高のサービスを提供します。企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します』に集約されていると考えています。

■ SAKURAプロジェクトがDXのエンジンに
 現在、JALの国内線航空券販売は自社WEB経由が80%近くを占めています。一方、予約・発券などは基幹システムを使います。その基盤となるシステムは約2年前まで50年使い続けていた古いシステムだったため、いくら外まわりを進化させてもパフォーマンスが上がらず、DXにつなげられない課題に直面していました。DXを推進するために、それを支える基盤のデジタル化が不可欠です。そこで基幹システムの刷新を行うことになったのですが、全社計画として明確に位置付け、会社全体で動かすことが大事でした。

 その大規模プロジェクトを『SAKURAプロジェクト』と名付けました。対象の旅客基幹システムは予約・発券、空港チェックインなど旅客サービスプロセスをサポートするシステムです。2017年まではJALCOMという自営システムで特殊なOSをバージョンアップしながらアセンブラ言語とC言語で動いていたシステムです。それをAmadeusというヨーロッパの会社の世界120社超が利用する旅客基幹システム(Passenger Service System)に置き換えたのがプロジェクトの概要です。2010年ごろから約7年かけて準備し、2017年11月16日の1日で全面刷新しました。夜間13時間の停止時間で国内線、国際線も一気に移行し、プログラムもデータも移管しました。コールセンター、WEB、旅行会社から販売チャンネルまで同時に行うという、極めてリスクの高いプロジェクトでしたが、周到な準備のおかげで成功しました。提携会社は150社にのぼり、一晩で70システム、1300万件のデータを移行しました。

 このプロジェクトの特長は関係者が多く、ユーザーの抵抗が大きかったことです。なぜなら一晩でコールセンター、空港、旅行会社などで利用するすべての画面エントリーが変わるからです。しかし、800億円を投資してでも基幹システムを刷新しなければ、JALに未来がないとも感じていました。そして、開発はウォーターフォール型ではなく、3カ月に1度、開発・検証のドロップを13回繰り返す手法でスピードと品質向上を目指したため、「テスト後は要件を変えない」という日本的な考え方を捨てなければなりませんでした。そしてなにより、ワンボードでJALが責任を取らないと絶対に成し得ないプロジェクトでした。

■ 成功のカギはコミュニケーションとブランディング
 プロジェクトを推進する上で二つの成功のカギがありました。まず一つは「Project Marketing」という考え方です。困難なプロジェクトを完遂するためには、いかに社内外の関係者をワンボードに巻き込むかが重要であり、一蓮托生で成功するか、失敗するかの二択しかありませんでした。コミュニケーションの重要性が高まり、ブランディングの意味で旗印も必要になりました。コミュニケーションでは現場の理解を得ることが最重要でした。システム刷新により、ベテランほどノウハウを失いますし、新人がうまく使いこなすという逆転現象も起こりかねません。逆に未来を考えると、教育しやすくなるメリットがあったのも事実です。空港整備やコールセンターを中心に海外5カ所、国内15カ所を回り、システム刷新の主旨を話し、理解を求めました。ブランディングの旗印として、SAKURAプロジェクトのロゴを作り、ワンボードを合言葉にロゴマークの入ったサンクスカードを作りました。コミュニケーションの中でトラストとアプリシエイトという言葉を多く使ったのを覚えています。カットオーバーの日は全員が同じロゴマーク入りのTシャツを着て迎えました。

 もう一つの「Pro-Active Management」は内部体制の話です。Dropを13回繰り返し、最後に成功するためには、プロジェクトメンバーの意思決定・責任範囲を拡大し、主体的に行動できるチームを作る必要がありました。具体的にはチームリーダーに一つ上の決定権を持たせました。もう一つはスケジュールを変更することなくプロジェクトを進めるため、チェックポイントを設けて達成条件の『見える化』を徹底しました。毎月、取締役会でも報告することで経営陣との信頼関係も構築していくことができ、現場の士気も高まりました。

 プロジェクトの成果は挑戦のスタートラインに立ったことです。システムの刷新でコストを下げ、競争力を高めたことはもちろんですが、この基盤システムがあるからこそDXを推進していけるようになりました。そしてもう一つはEX(エンプロイーエクスペリエンス)としての社員の成長です。各業務のプロフェッショナルに異動してきてもらい、ワンボードになって、ITプロジェクトを成し遂げました。その意味では全員が成長しましたし、最後までやり遂げた自信や実行力がつきました。いまでは関わった社員がさまざまな部署で責任者をしています。

■ 人財×テクノロジー=イノベーション
 次に社内外の巻き込みによるエクスペリエンス・イノベーションについてです。私どもは『人財』×『テクノロジー』のハイブリッドによって新しい世界を構築することにこだわり、地に足のついたイノベーションを標榜しています。それはつまりHuman(現場主義)×Technology(未来思考)でギャップを埋めていくイメージです。どのようにしてリアル中心の業務をデジタル中心の世界へDXしていくのかを常に考えています。カスタマージャーニーをいかに進化させるかも大事でしょう。そして忘れてはならないのがバックヤードのオペレーションプロセスです。航空会社には整備、貨物、空港などさまざまなバックヤードがあります。まだまだ人手でやっていることが多いため、テクノロジーによる業務変革の余地があります。その観点ではオペレーションプロセスを改革することがEX(エンプロイーエクスペリエンス)を高め、ひいてはCX(カスタマーエクスペリエンス)の向上につながり、やがてはエクスペリエンス・イノベーションを実現していくことにつながると考えます。また、エクスペリエンス・イノベーションを実現する手段として注目しているのが、IoT、AI、5G、xR、ロボティクスの5つのキーテクノロジーです。IoTでデータを集め、AIで分析し、それを5Gでつなぎ、そしてxRやロボティックスで現場の生産性向上やお客様へのサービスを提供する世界観をイメージしています。

 イノベーションを起こすには5つの“P”が大切だと考えています。一つ目はPeople。お客様や社員の気付きがイノベーションの起点であり、例えば社員の気付きを集めるため“気zwitter”という社内SNSを作りました。二つ目のPlaceはイノベーションの拠点となる“JAL Innovation Lab”です。三つ目のProcessはデザイン・シンキング、アジャイルのことです。4つ目のPartnershipはどうオープンイノベーションを起こしていくかです。最後のPrototypingではPoC(実証実験)を行い、スピードを上げていくことが大事になります。

 イノベーションの拠点“JAL Innovation Lab”は2018年4月に開設しました。JAL本社から徒歩5分の場所にあり、その距離感を“スープの冷めない距離”と表現しています。そして、この場所を設けて本当によかったと心から感じています。“場”があることでみんなが集まり、いろんなアイデアが生まれます。同じことを本社の会議室でやっても、よいアイデアは生まれないでしょう。ラボ内はカスタマージャーニーを再現した8つのエリアに分かれており、チェックインカウンターやラウンジや搭乗ゲート&モックアップなどを設置しました。クラフトルームには3Dプリンターもあります。ここには、私共の本部の人間や外部の方が集まり、社内から募った“ラボ会員”やラボを持つ会社同士の協力関係である“ラボ・アライアンス”11社、その他多くのパートナーと連携してプロジェクトを推進しています。約1年半で200社を超えるパートナーに訪問していただき、三つ、四つサービスインしたプロジェクトもあります。現在、“ラボ会員”は100人程いて、JALグループ社員なら上長が認めれば誰でも“ラボ会員”になることができます。ただ、JALグループ社員は3万6000人いるので、まだまだ知られていないのも実情です。“ラボ会員”を募ることで誰でもイノベーションに参加することができるということを周知するとともに、全社を盛り上げようとも考えています。また、“JAL Innovation Lab”は機内食のプレス発表の場として使われるなど、2018年度は価値創造につながる73件の活動に利用され、イノベーションを生み出す風土醸成にも貢献しています。

 エクスペリエンス・イノベーションを成し遂げるためには社内と社外を巻き込むための仕組みづくりが重要となります。そして、経営層、ミドル、現場の3階層の中でも特に経営層をいかにその気にさせるかがカギです。イノベーションが5年後、10年後まで進化して定着することで初めてJALがイノベーティブな会社として社会に貢献できると考えています。

差異化・固有化を生み出す
エクスペリエンス・イノベーション

佐藤 隆太
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 マネージングディレクター
消費財、流通、情報・通信、ヘルスケア業界等の上場企業を中心に、事業戦略、ビジネスモデル改革、マーケティング戦略、営業改革、新規事業開発、M&A戦略、組織改革のプロジェクトを責任者・リーダーとして多数手がける。

■ 顧客体験価値はサプライズに近い感覚
 顧客の性質は三つに分けられます。一見客、リピーター、ロイヤル顧客です。一見客は1回の利用で離れる客。リピーターは繰り返し利用してくれるが、価格に敏感に反応する顧客。ロイヤル顧客は製品・サービスに愛着があり、自ら利用するだけでなく、周囲に推奨してくれる顧客を指します。顧客満足(CS)は顧客の不満をなくすことで得られますが、今回のテーマである顧客体験価値(CX)とは「サービスを受けてよかった」と心理的・感情的な満足を訴求するCSの上にある概念です。もう少し具体的に言いますと、何か製品を購入する際、顧客には機能・性能・価格・情報に対してロジカルな事前期待があります。期待通りであれば、満足度100%、期待を満たさなければ不満です。満足度100%の時、人は“合理的に満足している”状態です。そして期待を遥かに上回るサプライズに近い感覚を受ければ、顧客体験価値になります。

 CX(カスタマーエクスペリエンス)は、2020年に競争の主戦場になると言われています。SNSの浸透で情報が購買に与える影響が拡大したり、購買パターンが多様化したり、成熟市場において既存顧客との関係性をいかに深めていくかが求められたり、ツールの進化でエクスペリエンスのデータ取得ができるようになったことなどが背景にあります。そして、期待以上の心理的・感情的満足はロイヤリティを持ち、他の人にも転移するという現象が起こります。

 顧客ロイヤリティには3つの法則があります。「1:5の法則」「5:10の法則」「5:25の法則」です。「1:5の法則」は新規顧客に販売するコストは既存顧客に販売するコストの5倍かかる、「5:10の法則」は満足・感動した顧客は5人に伝え、不満に感じた顧客は10人に伝える、「5:25の法則」は顧客離れが5%改善されれば、利益が25%改善される、と言われるものです。そして、カスタマーエクスペリエンスを改善する指標としてNPS(ネット・プロモーター・スコア)があります。NPSは事業の成長性と非常に関係性が強いと言われており、NPSが12ポイント上がると、企業の成長率が倍増すると言われています。NPSは収益相関が高く、カスタマーエクスペリエンスの向上に取り組むことが事業成長の後押しとなります。

■ 心理的・感情的な満足は差異化・固有化が源泉
 顧客が感じる二つの価値は主観的な心理的・感情的な満足(顧客体験価値)と客観的な合理的な満足(機能価値)があります。そして、主観的な心理的・感情的な満足こそ差異化・固有化が源泉になっています。実際に感情的な満足がどのような価値につながるのかというと、アメリカの研究者の調査結果では一定の満足はあるけれども感情的なつながりはあまり感じなかった状態を基準値としたときに、感情的なつながりを感じた場合の満足度は、各業界平均して52%上がりました。あるホテルチェーンの事例ですが、顧客接点改革を行うなかで、顧客と感情的なつながりができる取り組みを従業員が地道に積み上げた結果、顧客満足度評価が6ポイント上がり、最終的には客室単価も上がるという成果がでました。顧客と感情的な関係性を築いてリピーターになっていただくと、喜んでお金をつかっていただける状況が現実となると考えています。

 財布のひもを緩める価値を深堀りすると、顧客が感じる価値要素は複雑で多岐にわたります。良い・悪いで判断される機能価値がベースになり、その上に感情的価値があります。さらに変化や自己実現への欲求や社会へインパクトを与えたいなどの上位の価値もあり、そういった上位の価値が含まれれば、含まれるほど、人が使うお金は格段に増えていきます。

 カスタマーエクスペリエンスをビジネスに取り込むには、デザインシンキングにより顧客体験プロセスを設計します。カスタマージャーニーを設計するということですが、ここで重要なのはタッチポイントでの価値要素を想定し、そこで顧客の感情を捉え、ぐっと深堀りして設計することです。BtoBの意思決定では価値要素が異なり、ビジネス貢献、個人的ニーズ、ありたい姿などが顧客体験価値を高める要素となります。

■ XaaS成功のカギはカスタマーサクセス
 昨今ビジネスモデルシフトが起きており、狩猟型の売り切りモデルは終焉し、農耕型の継続利用モデル(XaaS)へシフトしつつあります。売り切りモデルは市場・需要の成長が前提ですが、成熟市場の現在は既存顧客の維持が前提で、購買者側に主導権があり、サブスクリプションなどの継続利用モデルがどんどん生まれてきています。利用継続モデルは、さまざま業界の垣根を越えて広がり、体験や感情のデータを取ることがビジネス改革につながるでしょう。ただ、提供者サイドの視点では、XaaSは弱点があります。気軽に始められるが気軽に辞められます。そして、優れたものが登場すると、すぐにスイッチされます。

 そこで注目を集めているのがカスタマーサクセスです。顧客の成功を実現させるため、自社の提供サービスの価値を最大限に引き出させるために、プロアクティブに働きかけるチームのことを指します。カスタマーサクセスは、▷最高の体験(CX)と成果(CO)の向上▷解約率の抑制▷既存顧客の契約金額アップ(アップセル・クロスセル)の3つの機能を持ちます。XaaSではカスタマーサクセスとして、コンサルティングやトレーニング、社内プロモーションなどにより、現場サポートをして継続利用やアップ&クロスを高めていくことで評判が伝わり、新規顧客を獲得するモデルになります。この成熟市場の中での勝ち方の方程式として、カスタマーサクセスは重要なキーワードです。顧客の成功体験をいかにコミットし、長期的関係を構築していくかが今後のビジネス飛躍的に成長させるカギとなるでしょう。

クアルトリクス エクスペリエンス マネージメント プラットフォーム

熊代 悟 氏
クアルトリクス合同会社
カントリーマネージャー
ウェスティンホテル東京の開業メンバーとして入社しビジネスのキャリアをスタート。実世界でのカスタマーエクスペリエンスを提供。
その後、金融機関向けIT人材サービスの米国・英国本社の日本支社立ち上げに携わる米国ドキュメンタム(現オープンテキスト)、2005年に米インターウォーブンの日本法人に入社し、Webコンテンツ管理(CMS)でのカスタマーエクスペリエンスソリューションを日本市場に販売。2007年日本法人代表に就任。その後英オートノミー(2009)、米HP(2012)、加オープンテキスト(2016)にインターウォーブン事業が買収されるも、移籍し、継続してインターウォーブン事業を統括。2016年からは、カスタマーエクスペリエンスマネージメント事業部のアジア・パシフィック&ジャパンの統括。一貫してカスタマーエクスペリエンス事業に取り組む。2018年に現クアルトリクスの日本事業の立ち上げで入社、継続してカスタマーエクスペリエンスを市場に提供。日本アドバタイザーズ協会、Web広告研究会幹事。

■ CX(カスタマーエクスペリエンス)低下で米タクシー業界崩壊
 アメリカでは自社で最高のエクスペリエンスを提供していると回答した経営者の割合は80%に上るのに対し、最高のエクスペリエンスを受けたと回答した消費者は8%しかいませんでした。これをエクスペリエンスギャップと呼び、クアルトリクスは、このエクスペリエンスギャップを埋めるための支援をするプラットフォームです。我々は企業人の立場としては顧客にエクスペリエンスを提供する側ですが、プライベートではエクスペリエンスを受ける側になります。EXの観点では経営陣と従業員のエクスペリエンスギャップがあります。そこを埋めない限りは最高のエクスペリエンスを提供できません。

 アメリカではサブスクリプションビジネスの台頭などもあり、エクスペリエンスに関して、お客様の離反により発生する年間コストは1.6兆ドル、従業員のエンゲージメントの不足で損失している従業員の年間生産性は550億ドル、市場を知るために費やされている調査費は400億ドルなどのデータがあります。このようなところに我々の市場があると考えています。

 エクスペリエンスの低下が業種を変えてしまった例がアメリカのタクシー業界です。6、7年前は地上の交通手段の37%のシェアを誇っていましたが、現在は6%まで落ちこみました。それに替わり台頭したライドシェアのUberが71%のシェアを占めています。日本のタクシーはサービスが良いのであまり嫌な体験はしないと思いますが、それでも「ベストなタクシーの経験は?」と尋ねられるても、あまり思い浮かばないかもしれません。ところが、「最低なタクシーの経験は?」と尋ねられればすぐに思い浮かぶのではないでしょうか。それほど、嫌な経験は尾を引きます。アメリカのタクシーの場合は愛想が悪く、乗る際の交渉が必要で、さらに着けばチップを要求されます。Uberなら、呼べば迎えの到着時間を知らせてくれ、利用後はレーティングができます。Uberが便利で使いやすいというエクスペリエンスを提供したことで市場が変わってしまいました。そのほかの業界でもエクスペリエンスこそが差別化要因になってきています。

■ 顧客と従業員のエクスペリエンスに親和性
 エクスペリエンス向上に重要なのは消費者や従業員の声を収集し、分析を行い、その後の改善アクションを継続して実行することです。分析にとどまるのではなく、全員が改善アクションを日々実行することで、消費者や従業員のエクスペリエンスが改善していきます。そして弊社ではデータを大きく二つに分類しています。1つは販売・売上、顧客情報、生産・製品情報などの業務データをO(Operational)データと呼んでいます。もう1つは顧客満足度、購入意向、従業員エンゲージメントなどのエクスペリエンスデータをX(Experience)データと呼んでいます。OデータとXデータを絡めることで、さらに深いインサイトを見ることができます。例えば、ある店舗の売り上げが下がった場合、お客様の声はどうだったのかというデータを合わせることで詳細なインサイトを見つけることができます。

 ビジネスでは4つの重要なエクスペリエンスがあります。それは顧客(カスタマー)、従業員(エンプロイー)、プロダクト、ブランドで、クアルトリクスではこれらのデータを1つのプラットフォームで 管理できます。クアルトリクスでは、カスタマーのモジュールはNPS(ネット・プロモーター・スコア)の運用やWEBやアプリによるフィードバックで提供しています。従業員のモジュールはHRのシステムと従業員データを連動し、個人が特定されないように工夫しています。プロダクトのモジュールは市場にサービスをリリースする際に、価格帯などを分析するコンジョイント分析を搭載しています。ブランドのモジュールでは競合との違いについて、調査会社に依頼しなくともブランドの認知度や競合の分析ができる仕様になっています。収集+対話に始まり、分析+策定、改善+アクションの流れを1つのプラットフォームで提供しています。分析機能は4つあります。「Text iQ」は人工知能と自然言語処 理を利用し、リアルタイムに解析、絞り込みを行います。(インサイトの抽出) 「Driver iQ」は行動のきっかけや要因の特定を支援し、セグメントごとのデータを分析し、共有を容易にします。(データ・ドリブン エクスペリエンス) 「Stats iQ」は回帰分析などでデータをより深く分析し、予測しやすくします。(迅速な統計 分析) 「Predict iQ」はフィードバックのパターンやディープラーニングの機能、アルゴリズムを活用して離反の可能性などを検知し、解約に至る前にアクションを可能にする予測エンジンになります。(Xデータより予測)

■ XMジャーニー加速へコンピテンシーは必須
 エクスペリエンス管理(XM)はツールを導入すれば解決するわけではありません。むしろ導入からがXMジャーニーの始まりです。CX(カスタマーエクスペリエンス)とEX(エンプロイーエクスペリエンス)は非常に親和性が高いのですが、EX担当部署とCX担当部署が連携をしている企業はまだ少ないです。XデータとOデータの両方を活用し、顧客(カスタマー)、従業員(エンプロイー)、プロダクト、ブランドの体験測定や改善活動を組織全体で定着運用させることが XMの到達点と考えております。

 顧客から見れば、どこの部署も同じブランドです。「私の担当ではありません」と言ってしまうと、エクスペリエンスは下がってしまいます。CX(カスタマーエクスペリエンス)とEX(エンプロイーエクスペリエンス)は別々に取り組まれている企業が多い現状ですが、CXとEXを統合すればシナジーが生まれます。簡単に言えば、従業員がハッピーでなければ、お客さまをハッピーにはできないということです。ただ、言うのは易し、実現は難しいのが現実です。

まずは取り組みを始めることが重要です。XMジャーニーを加速するためには、まずは1つのエクスペリエンス領域でコンピテンシーを身に付けましょう。デジタル戦略や働き方改革を組織に展開することも重要です。そして、戦力となるXM製品を採用し、信頼できるパートナーに協力してもらいながらエクスペリエンスを高めていくことがポイントです。

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