リモート決算を定着させるためにやるべきこと
~命と業務遂行の両立~

“業務実施場所がオフィスから自宅に変わっただけ”にご用心

2020年は新型コロナウィルスの感染拡大により、従来は限定的だった在宅勤務が当たり前のように取り入れられ、働き方の常識が大きく変わった年となりました。
財務経理部門においても例外ではなく、多くの企業では決算の時期であっても本人が希望すれば在宅勤務ができるようになっています。

しかし、単に業務を行う場所を変えただけ、というケースが多いのも事実です。
緊急事態宣言のあった4月7日は、多くの日本企業が年度末となる3月決算の第5営業日。当社の独自調査によれば、2020年3月決算において在宅勤務比率が50%以下だった人は66%に上り、基本的にはオフィス勤務を続けつつも、自宅でできる業務だけを自宅に持ち帰って、出来る範囲で三密を避けたことが伺えます。【図1】

【図1】2020年3月の決算における在宅勤務比率

それから9か月。
ペーパーレス化や電子ワークフロー、業務システムのリモートアクセスといった、リモートワークの阻害要因の排除は徐々に進み、自宅に持ち帰ることのできる仕事は増えてきましたが、決算のような短期集中型で品質の高い業務を行わなければならない場合に、在宅勤務で広がる内部統制リスク・セキュリティリスクをどう低減するかについては取り組みが進んでいないケースも見受けられます。

新型コロナウィルスは依然感染拡大を続けており、抜本的な対策を打たなければ、従業員の命と業務の遂行を秤にかける羽目に陥ります。これを契機に業務効率・品質ともに遜色のないリモートを前提とした業務設計を行っておき、必要な時には速やかに完全リモートに切り替えるべきです。

これからの時代に求められる新業務設計のポイント

在宅勤務が当たり前となったこと自体は大きな変化ですが、業務改革の進め方自体は従来のやり方が有効です。現状業務を可視化し、あるべき姿を検討した上で、現実的な新業務の姿を描き出します。
但し、検討する上で新しい視点を追加する必要があります。

1)在宅勤務で実施する上でのリスク

オフィスから持ち出すことのなかった資料やパソコンを従業員の自宅まで運搬すること、従業員の自宅に一次保管することによるリスクは言うに及ばずですが、場所が変わるだけで同じように業務を実施する上でも大きなリスクがひとつあります。

筆者自身、これまで幾度となく決算業務の業務フローを描く仕事をしてきたが、そこには通常描かれないが重要なコントロールが実は存在しています。部下の力量や性格と業務の難易度を熟知した上司が、部下の顔色、身体の姿勢、そして行動そのものといった、業務報告以外の要素から部下の状況を的確に察知し、必要な対応を行うことで業務の円滑な遂行と品質の担保を支えてきました。【図2】

【図2】リモートで見える部下の状況は氷山の一角!?

在宅勤務になるということは、業務報告以外の要素が希薄になるということであり、リモートコミュニケーションのツールを駆使するとしても、同じ空間を共有し五感で状況を察知することには及びません。コミュニケーションの対策については別の話題になるので本稿では割愛しますが、まずこのコントロールがないことで、今まで顕在化しなかったリスクがあるという認識に立つことが必要です。

2)デジタル化・自動化の強力な推進

「このくらいの頻度なら自動化せずにマニュアルでやろう」 基幹システムや会計システムの再構築プロジェクトで幾度となく聞くこの台詞ですが、これだけデジタルツールが発達し、在宅勤務も視野に入れるとなると、予めやり方の決まっている「作業」を人間がやっていること自体がリスクとも言えます。

決算業務は各種業務システムのデータが最後に集まってくるところなので、フロント側で例外を認めてしまえば尻拭いは経理のマニュアル業務です。会計基準の潮流から今や決算において重要で人がやるべきなのは見積が必要な部分であって、フロントで入力されたデータを正確に処理するのはシステムに任せるべきです。

3)経理業務を魅力的な業務に

以前から、日本企業では経営企画部と経理部が分かれている関係で、経理部は計算部隊になってしまいがちであるという課題がありました。
組織の来歴や人員の志向やスキルの問題で、そこから抜け出すことが難しい場合もあることは承知していますが、無理にでも仕事の魅力を上げることがポストコロナ時代では必要になると考えられます。

リモートワークが可能になった今、企業の採用の条件として「通勤圏に住んでいること」は必須条件ではなくなっています。企業は日本中、あるいは世界中から優秀な人材を雇えるようになりましたが、それは逆に見れば人材採用のライバル企業が全国に広がったことを意味します。
経理業務を従業員にとって魅力的な業務にすることができるか否かが、今後の優秀な経理人財の確保の鍵となると考えます。

事例紹介)若い優秀な従業員が辞めない経理部に

ここでひとつ、経理を魅力的な仕事にしようとしている取り組みを紹介します。
A社は2000年代後半からITシステムの投資を抑制してきました。グローバル化が進む中、外貨建て取引にすら対応していない基幹システムは陳腐化し、エクセルで会計処理を行うという方法で対応してきました。

結果として、経理業務は人海戦術となり、指定された方法でエクセルを更新して会計システムにアップロードするだけの仕事は、配属された若手にやりがいを感じさせることはありませんでした。同社の経理部は若手が多いですが、優秀な人ほど仕事が続かずに辞めてしまうという悩みを抱えていました。

近年A社は、現状のビジネスに合ったシステムの導入とそれによる業務と意思決定のスピード向上を目的として基幹システムの再構築を行いました。その中で経理部は独自の目標として「経理機能の役割強化」を謳い、システムが処理できないが故のエクセル決算の脱却を図りました。

システムは無事稼働を迎え、脱ホストも進んだことで、ペーパーレス化が進み、システムへのリモートアクセスの可能な範囲も広がりました。基幹システムに直接手を入れては投資効率が悪いところはRPA化も進行中であり、徹底的な自動化に向けて邁進中です。

同社が今、もうひとつ注力しているのは経理メンバーのスキルの底上げです。一人ひとりのメンバーが在宅で決算をすることを考慮しても、計算することから計算結果の分析と計数情報の提供に役割がシフトしつつあることからしても、以前よりも経理メンバーに必要なスキルレベルは高く、コロナ禍でいかに教育を強化していくかが重要な課題となっています。

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