2011/12/15
第4号:M&A後における【放ったらかし経営】を回避し、真の統合経営を実現する方法
前号までに企業・事業統合にみる失敗の本質!というテーマにもとづき、その回避方法として、【①受け身買い】【②高値掴みの回避方法】について説明しました。
今回は、【M&A後の真の統合経営を実現する方法】について議論させていただきたいと思います。
受け身買いにならないように周到に準備を行い、しっかりとビジネスデューデリジェンスを行ったとしても、今まで別の会社だった経営者や従業員が、従前の歴史やプライドを心にしまいつつ、新しい同じ方向性のもと融合していくには想定以上の時間を要します。
大々的にM&Aを行ったものの、M&A後を「放ったらかし」た結果、統合日(Day1)以降の経営統合・事業統合が当初想定したとおり進まず、「統合」効果を得ることができない事例が多く見られるのは周知のとおりです。
M&Aを成立させる事が目的ではなく、成功させる事が目的である
我々は、M&Aの成功の可否を決めるため、【放ったらかし経営】は“絶対にしてはいけない”と確信しております。真の統合経営を実現する3つの重要ポイントについて説明します。
ポイント① シナジー統合までやりきる
統合委員会を設置し、10~20名(企業規模による)の統合専任メンバーが、枠組統合 → 経営基盤統合 → シナジー統合の3ステップごとに明確なゴール(KPI)を設定したうえで、統合実務を強く推進することが重要です。
ステップ1:『枠組統合』= 顧客に迷惑がかからないように業務継続を主眼に会社の枠組みを一つにする
ステップ2:『経営基盤統合』= 開発や生産、販売などの主要機能の再構築を行う
ステップ3:『シナジー統合』= 開発・生産拠点を統合、情報システムを刷新、共同で新製品・ブランド開発など統合効果の創出を行う
ステップ2は統合後半年から1年程度、ステップ3は統合後2年程度で実施することが理想です。
強い意志を有した統合委員会委員長(経営層)が最後まで統合プロジェクトを推進すると同時に、統合委員会による厳格な統合プロジェクトの作業進捗管理も必要です。
ポイント② 「良いとこ取り」を積極的に行う
被買収企業にも優れた業務プロセスや情報システムが存在します。デューデリジェンスをしっかり行い、自社と比較して、明らかに良い「経営資産」を取り込む英断こそが経営基盤統合の近道にもなります。
我々が統合を支援した企業では、同一製品を製造し、同じ顧客へ販売していましたが、開発や生産、営業のやり方がまったく異なっていました。本社での中央コントロールを行う企業と、現場での判断を重視する企業でしたが、リードタイムや在庫水準、コストおよび利益などの観点で、詳細に両者を比較して、それぞれのプロセスで良いとこ取りを行い、シナジー統合に取り組み、成功を収めております。
ポイント③ 人事制度は期限を決めて“必ず”統合する
被買収企業の従業員にとっては、給与や役職、これからのキャリアパスなどの人事制度への関心・不安が高まることは間違いありません。まずは枠組統合として、不利益変更が極力少なくなるように被買収企業の人事制度を取り入れた「複線型人事制度」を検討することが重要です。せっかくM&Aを実施したのに優秀な人材が待遇の問題で競合他社へ転職したのでは意味がありません。
しかしながら、同一企業内に2つの制度が存在する複線型人事制度は長続きしません。市場価値(同一業務同一賃金)を考えてシナジー統合と並行し、1~2年という期限を決めて人事制度の統合は「必ず」行う必要があります。我々が統合支援した大手メーカーの場合、買収企業・被買収企業の区別なく、公正に評価を行っております。シナジー統合の現段階では、被買収企業側のトップだった方が、買収後の事業トップを務めています。
以上、M&A後の【放ったらかし経営】を回避し、真の統合経営を実現する方法について説明しました。
我々は日本企業の復興・再生のためのM&Aは、積極的に行うべきだと考えております。技術力やブランドの取得、顧客の獲得、海外を含む市場の拡大など。企業や事業の拡大のために、M&Aを活用することが近道であるのは事実ではありますが、既存の事業の問題点の全てをM&Aでカバーすることはできません。
我々の統合支援は、『真の統合経営』実現に向けて、シナジー統合までの道程を、企業様へ常駐し、統合委員会を支援する形で実施しております。
何かありましたら遠慮なく、質問やご意見を伺えればと思います。
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 バイスマネージングディレクター 箕野 博之
バイスマネージングディレクター 草加 好弘
マネージャー 佐藤 隆太