ジョブ型成功の陰に人事の基本思想あり
~人事の基本思想の作り方~

以前、ジョブ型人事制度導入においては、企業のビジョンを元とした形で、現場も腹落ちした人事の基本思想を作り上げ、さらにこれに沿って人事制度も作りあげていくことが理想であるということをご紹介させていただきました。
(参考:「とりあえずジョブ型」になっていませんか?~勝てるジョブ型とは~
 
とはいえ、人事の基本思想を作ると言っても何から手をつけてよいかよく分かりません。
今回は、ジョブ型人事制度のしくじり事例も交えながら、人事の基本思想とは何か、人事の基本思想の作り方についてご紹介いたします。

ジョブ型人事制度の全体像

人事制度は単体で存在しているわけではなく、企業のビジョン・人事の基本思想と密接に関わっています。ここでは、この関係性の一例をご紹介いたします。
企業のビジョンとは、事業を通じてその企業が将来的に成し遂げたいことや成し遂げたい姿、人事の基本思想とは、ビジョンを実現するために、人・組織をどうしたいかを定め、言語化したもの人事制度とは、人事の基本思想をルールの形で具現化したもの、と定義しています。
企業のビジョンを実現するために人・組織の観点から言語化したものが人事の基本思想であり、会社が社員に求めるもの、そしてこれを人財マネジメントの観点で捉えなおした会社が社員に約束することの2点から構成されます。
そしてこの会社が社員に求めるもの、つまり、行動指針、人材要件、OK行動から組織の在り方としての組織規程、OK行動を定義した行動規範、ポスト毎の人材要件を定義したジョブディスクリプションを通して、等級・報酬・評価といった人事制度に落ちていく、という構造になっています。

【図1】ジョブ型人事制度の全体像

ジョブ型人事制度のしくじり事例

A社のジョブ型人事制度の導入における「しくじり事例」についてご紹介させていただきます。
A社では、成果に適切に報いるためにローパフォームな40代後半以降の従業員から頑張っている中堅に原資を振り分けていきたいという意図から、管理職以上にジョブ型人事制度を導入し、ポストにおけるジョブサイズを測り職務等級を見直しを進めていました。
この際、ハレーションを最低限とするために、新しい職務等級と今までの職能等級のハイブリッドを選択しています。
しかし、検討終盤に、等級が下がる管理職およびその上司を中心に反発が発生しました。この方々は、社歴も長く発言権も強い方たちばかりだったため、社長が尻込みする形で、最終的にはジョブ型とは名ばかりのメンバーシップ型へ回帰することとなりました。
A社がしくじってしまったポイントは2つあると考えられます。
一つ目は、企業のビジョンやそこからなる人事の基本思想を策定して進めなかったために、立ち返るものが無く、迷走してしまったことです。
二つ目は、経営陣が将来なりたい姿を目指すという強い意志を持っていなかったため、社内の反発を受け、戸惑ってしまったことです。
経営陣の意思が希薄で、人事だけで一貫性のない人事制度を作ってしまったことがこの失敗を生んでしまいました。

【図2】ジョブ型「しくじり事例」

理想的な人事制度の姿

ご紹介した「しくじり事例」のように、その企業が人事の基本思想を持っていたとしても、経営陣と人事の関係が希薄でビジョンを汲んだ人事の基本思想になっていない、人事で勝手に作った思想になってしまっている。結果、現場がビジョンと共鳴していても、人事思想に腹落ちしていない状態で人事制度が設計されてしまう、ということが往々にしてよくあります。
これに対して、目指すべき姿としては、ビジョンを元とした形で、現場も腹落ちした人事の基本思想を作り上げ、さらにこれに沿って人事制度も作りあげていく。
これが従業員の納得性・効果の高い、理想の状態であると言えます。
単にジョブ型人事制度を導入するだけではなく、企業のビジョン・人事の基本思想・人事制度の繋がりを意識してジョブ型人事制度を導入することが、成功への第一歩と言えるでしょう。
企業のビジョンに根差した人事の基本思想を持つことの重要性についてはご理解いただけたと思いますので、次に、人事の基本思想の作り方について一例をご紹介いたします。

【図3】企業における人事の理想的な状態

人事の基本思想ってどうやって作るの?

人事の基本思想は概念的であり、作るといってもなかなかイメージし辛いと思います。
ここでまず、会社が社員に求めるもの=社員にどうなってほしいか・何をしてほしいかを定義し、包括した概念として人事の基本思想を組み上げるというボトムアップ的な手法で作成を進めます。
「会社が社員に約束すること」、つまり、人材マネジメントポリシーについては、「社員に求めるもの」から副次的に決定するため、まずは「会社が社員に求めるもの」から検討すべきでしょう。
会社が社員に求めるものとしては、行動指針(求めるスタンス)、人材要件(どのような人財を求めるのか)、OK行動(どのような行動を評価するのか)という具体的なものをベースとして検討します。

【図4】人事の基本思想を構成する要素

人事の基本思想検討イメージ

実際に人事思想検討をご支援したB社の事例をご紹介いたします。
人事の基本思想は、企業のビジョンを人・組織の観点から具体化したものであるため、人事に閉じた話ではなく経営マターであることを理解していただくことが重要になります。
そのため、経営陣および事業部長クラスを主参加者として人事の基本思想の検討を進めていきます。

本例では図の通り、行動指針として、5つのキーワードを定め、それぞれを満たす人財要件を議論し、言語化しました。そして、具体的に書き表して行くことでOK行動を定義し、これらをまとめる形で人事の基本思想を作り上げていきました。

単にジョブ型人事制度を導入するだけではなく、企業のビジョン・人事の基本思想・人事制度の繋がりを意識してジョブ型人事制度を導入することが、成功への第一歩と言えます。
人事の基本思想の作成、人事制度導入にあたっての準備など、様々なご相談にお役に立てると思いますので、詳細については、是非お問合せください。よりよい人事を構築するためのお手伝いをさせていただければと思っております。

【図5】人事の基本思想検討イメージ

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この記事の執筆者

  • 木村 圭佑
    木村 圭佑
    HR事業部
    マネージャー
  • 田﨑 文教
    田﨑 文教
    HR事業部
    シニアマネージャー
  • 大島 直樹
    大島 直樹
    HR事業部
    シニアコンサルタント
    ISO 30414 コンサルタント

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