「ヒトが足りない」と言うのはやめましょう

今、多くの企業で一番聞かれる言葉は「ヒトが足りない」ではないでしょうか。AIやロボティクスなど効率化を高めるツールなどはどんどん企業に導入されているにもかかわらず、いまだにヒトが足りない状況が続いているのが各社の実態です。
 
今回は生産性を高めるための組織風土改革についてご説明をさせていただきます。

労働生産性の低い日本企業の実態

日本の就業者数は、6,700万人です。日本の就業1時間当たりの労働生産性はOECD加盟国38ヵ国中27位という結果があり、7位のアメリカは85.0ドル、9位のドイツは80.6ドル、27位の日本は49.9ドルという結果でした。日本よりもアメリカやドイツは生産性が40%以上高い結果となっています。
アメリカやドイツと、産業構造の違いはあるにせよ、日本はそこまでの大きな違いはあるのでしょうか。では、日本が、アメリカやドイツ並みの生産性となると、どのようになるのでしょうか。6,700万人の『生産性』を40%アップするわけですので、2,600万人の労働力が生まれることになります。

もう一つ、日本の就業者数の6,700万人のうち、女性はどのくらいでしょうか。実は3,000万人いらっしゃいます。この数値を踏まえて次のお話をしていきますと、2023年の6月に新聞紙上で話題となった2つの記事があります。

1つ目が、『ジェンダーギャップ指数』です。世界経済フォーラム(WEF)が、男女格差の現状を各国のデータをもとに評価し、日本は146か国中、125位で、ギャップ指数は0.647でした。昨年度が0.650でしたので、下がったという結果となります。男性と女性を比較してどのくらい活躍させているかという数値ですが、女性、3,000万人に対して、活躍できる環境をつくれば、1,000万人の労働力がうまれることになります。

WBC決勝の前に、大谷 翔平選手が言いました。「憧れるのをやめましょう!」と。この記事を読んでいただいている皆様も、「ヒトが足りない」というのをやめましょう。生産性を高めれば、2,600万人、女性が活躍できる環境をつくれば、1,000万人の労働力が生まれてきます。

【図1】労働生産性を高め活躍できる環境を作り労働力をうむ

なぜ日本は熱意のある社員が減ってしまったのか

2023年の6月に新聞紙上で話題となった2つ目の記事ですが、米国のギャラップ社の発表です。日本には熱意のある社員が5%で、145カ国の中でイタリアと並び最下位という結果となり、4年連続の横ばいとなっています。しかし、イタリアも最下位ですが、実は幸せそうにしています。彼らは「会社」ではなく、自分の「人生」にエンゲージしております。日本は、「会社」にエンゲージしたいのにできずにいるのが実態です。

なぜ日本は熱意のある社員が減ってしまったのでしょうか。イノベーションには4つの設計が必要で、妄想設計、構想設計、機能設計、詳細設計となります。この4つの設計を実行していくためには、4つの人財、起承転結人財が必要となります。イメージで言えば、0→1人財、1→10人財、10→100人財、100→1000人財であり、それぞれの能力、視点、ネットワークが異なります。

【図2】イノベーションを起こすのに必要な4つの人財

日本の産業の多くは、戦後「起承」人財によって生み出された産業であり、「やること」が見えていました。そこで正解のある時代に、「転結」人財が必死に効率よく回すことで高度成長を達成してきました。日本企業は拡大とともに「転結」人財ばかり育成してきてしまったのかもしれません。
「転結」人財の育成にマッチした日本型雇用システムとして、終身雇用、年功序列、企業別組合、新卒一括採用があります。長くいればいるほど得をするため、長くいるためには異端児にならないほうがいいということで、同調圧力に屈したサラリーマンになってしまったのではないでしょうか。

正解があって、やることが決まっている時代では、標準化、ルール、平等、秩序、管理、横並び、コンセンサス、といったことが相性も良く、そのような時代に変なことを言う人、変なことをやる人は排除され、同調性や協調性が強く求められていました。今も採用基準に「協調性」という項目が重視されているのではないでしょうか。その結果、イノベーションが生まれにくくなり、やりがいも感じられず、熱意のある社員が減っていってしまったのかもしれません。

熱意のある社員であふれる組織になるために

では、どうすれば、熱意のある社員であふれる組織になるのでしょうか。それは「任せる経営」に変革していくことです。ミリミリと管理されてチェックされてやらされる仕事やミスをすれば叱責される仕事よりも、「責任は俺がとるから、好きなようにやれ!お前に任せた!」と言われた仕事のほうが、やりがいを感じます。いまこそ、任せる経営に変革していくことが大事です。

【図3】任せる経営

任せるかどうかの判断は、その人が、実力があって、やる気もあって、自信もあれば、任せればよく、もし自信がなければ、背中をおしてサポートすることが重要です。実力がない場合には、伴走してコーチすることが大切です。もし、実力もやる気も自信もない場合、そのような人に対しては指示して動いてもらうだけとなります。 

任せると社員は失敗することも増えますので、いつでも相談できるように心理的安全性を確保することが重要です。そのために、日常的に1on1を実施していろいろ話を聴くことがポイントとなります。
任せるということは、社員が各現場において自分で判断していくようになりますから、基準が必要になります。そのためにパーパス、ビジョン、ミッション、バリューが必要となります。しっかりと経営者がパーパス、ビジョン、ミッション、バリューを示し、その想いに共鳴する社員で組織が構成されて、火のついた社員が、決まり仕事をするのではく、探索的・流動的な活動を行うことでイノベーションが生まれ、生産性も高まります。

組織風土改革のステップ

任せる経営、任せる組織に変えていくためにも、組織風土改革のステップとしてはいろいろなものが存在します。ジョンコッターの変革の8ステップは有名です。ただし、組織風土改革には公式といった正解がありません。各企業の歴史、目指す姿、取り巻く環境によって、変革ステップは変わってきます。
弊社の変革のステップもその都度変えておりますが、一般的なものとしては下図の7つのステップで進めることが多くあります。やはりポイントはしっかりとトップと握っていくことが大事です。7つのポイントの詳細については是非ともお打ち合わせをさせていただきながらご説明をさせていただきたいと思います。

【図4】Layers組織変革ステップの一例

組織風土改革には、難しさがあります。成功させるためにポイントを少しご紹介していきましょう。

1)組織風土改革に『正解』『公式』はない。

各企業、それぞれが歩んできた歴史や、過去から積み上げてきたものが組織風土・文化となって築かれており、それを変える組織風土改革には1つの正解や公式といったものはありません。しかし、逆に『正解』がないため、組織風土を築き上げれば、大きな差別化要因・強みとなります。

2)組織風土改革は『すぐに』成果はでない(遅効性)。『長期戦』の覚悟を。

組織風土改革は、成果が見えてくるまで時間がかかります。早くて3年、通常5年、遅いと7年程度かかります。遅効性を理解いただき、我慢が必要となります。長期戦がゆえに、作られた優れた組織風土は、そう簡単には真似のできない最強のものとなります。

3)組織風土改革には『トップ層の覚悟』と『強い推進体制づくり』が重要。

組織風土改革は、従業員の「心」「感情」を動かすものでなければ成功しません。トップ層が覚悟をもって言行一致で取り組むことが求められます。本気ではないとわかれば、従業員は一気にしらけてしまいます。そして、組織風土改革の成功には、狂信的ともいえる『情熱のある変革者』の存在と、その変革者を最初にフォローする人財(ファーストフォロワー)が重要となります。TED「社会運動はどうやって起こすか」(3分動画)が非常に参考になりますので、検索してご参照ください。

事例:A社における組織風土改革

A社の概要としては、親会社が販売したものを管理・運用・保守するサービス業であり、8つの事業が存在します。業務としては、決まった作業を“粛々”とこなすという業務がほとんどでした。
しかし、A社の状況が大きく変わってきました。親会社の販売数自体が減少し、グループ会社以外にも委託する方針が打ち出されてしまいました。よってA社自身で新規事業開発、市場開拓をしていく必要があります。そのような状況となり、弊社が支援する形で組織風土改革を実施していきました。
現状の実態調査を実施し、エンゲージメントも低く、社員の中では失望を超えた「諦め」が蔓延していました。若手メンバも交えた選抜者での集中検討会でありたい姿を検討し、『誇り』をもって働く、家族に誇れる仕事にしたい、変化を楽しみたい、顧客至上主義をやめて、できないことは「No」という、といったキーワードがたくさん出され、ありたい姿を明文化していきました。

明文化はできたのですが、結局、人によってイメージが異なることもわかってきました。そこで、ありたい姿を浸透させるべく、様々な取り組みを実施しました。いわゆる『インナーブランディング』です。事務局による全国行脚、社長によるタウンホールミーティング、部会等での役員から説明、また動画を使っての浸透など、何度も何度も繰り返し「ありたい姿」を示していきました。またこのA社の面白いところは、下図の一番右側ですが、「統制」として、ありたい姿の体現を邪魔するもの、例えば、制度や、上司の考え方など、を従業員から事務局にエスカレーションをしてもらい、それ自体も改革をしていきました。

【図5】インナーブランディングによる組織風土改革

しょんぼり職場であったA社も、働きやすさを改善し、良い会社となり、やりがいも持てるようになり、強い会社へと変身し、イキイキ職場となり、イノベーション創出、生産性向上を実現していきました。

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この記事の執筆者

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