本質的タレントマネジメントに不可欠な人事思想・人財戦略
※ここでは、「タレントマネジメント」と「タレントマネジメントシステム」を使い分けて、ご説明していきます。それぞれの定義は、ここでは以下のようにいたします。
タレントマネジメント:従業員が持つ才能・能力を最大限に引き出して、最適に活用する自社内の仕組み、制度
タレントマネジメントシステム:タレントマネジメントをサポートするツール、クラウドサービス
「潜在力」を活かすタレントマネジメント
日本の人事部の『人事白書』に「事業戦略を実現するために必要な人財を、人事部門が採用、配置、育成できているか?」という調査結果があります。全体では66%が実践できていないという結果ですが、面白いのは、業績が市況よりも良い企業と悪い企業に分類して見てみると、市況よりも業績が良い企業は42%が実践できており、市況よりも業績が悪い企業は21%しか実践できていない、という2倍の差がありました。業績の良し悪しは様々な要因の結果のため、一概にタレントマネジメントだけを理由にはできませんが、やはり業績を良くするためには「人財の活性化」が非常に重要な要因であることは間違いありません。
現在の経済有事や環境変化が激しい時代では、タレントマネジメントとともに、ヒトの「潜在力」を引き出し、ヒトの潜在力を活かす「人財戦略・人的資本経営」が非常に重要となります。従来の顕在化された能力・経験頼りになっており、ヒトをコストとみなす考え方、そして曖昧で差がない人事制度では、このVUCA時代、勝ち残れません。目に見えていない個人の「潜在力」を最大限引き出し、活かすことが重要となります。そのためにも個人の潜在力を活かす人財戦略、人的資本経営をしっかりと構築していくことが求められます。
重要なポイントは、「求める」、「任せる」、「気づかせる」です。
【図1】人財の潜在力を活かすタレントマネジメント
求めて、任せて、気づかせる経営
人財の潜在力を活かすタレントマネジメントを実現していくうえで重要なポイントが、「求める」、「任せる」、「気づかせる」です。
① 求める
ヒトは適度なプレッシャーの中で、自身が持つ能力を磨き、発揮します。期待されて、緊張することに挑戦することでヒトは能力を最大限発揮します。Jリーグのチェアマンだった村井氏も「本気の時しか緊張しない、だから緊張することだけを選ぶ」といったことをお話しされています。ただし、過度なプレッシャーは禁物です。求めすぎないことが大事で、求めすぎると、ヒトは諦めるか、逃げるかのどちらかになってしまいます。
② 任せる
期待を込めて求めた後は、任せることが大事です。ヒトは信じて頼られることにより尽力するようになります。風土や文化、ビジネスモデルにも影響される部分はあるかと思いますが、マイクロマネジメントで管理されてしまうと、ヒトはやる気を削がれてしまいます。大切なのは「何かあったら私が責任を取るから、好きにやってくれ!」という一言です。
③ 気づかせる
期待を込めて求めて、そして任せた後、ヒトはそれぞれ素晴らしい能力を持っていますので、ヒトの察知能力を刺激し、より優れた力を発揮させるように促していきます。ヒトは気づけばどんどん学び、成長していきます。厳しい指摘をしながらも高い期待を伝えることが重要となります。心を揺すり、悔しさを煽って、思い込みを覆すようなフィードバックを実施していくことが大切です。
【図2】求めて、任せて、気づかせる経営
タレントマネジメントを支える人事思想・戦略のあるべき姿
それでは今回の本題として、タレントマネジメントの成功を支える人事思想・人財戦略のあるべき姿について説明をしていきます。
そもそも人事思想とはどのようなものなのか、我々は「差別化された自社独自の人事に対する考え方」と定義しております。全ての人事の源であり、根本的な土台となるものです。例えば「Global全体で人と組織が最高のパフォーマンスを出す」といったものです。場合によっては、サブ的な位置づけとして、思想を補完する一言をつけることで、理解しやすく、浸透しやすいものになります。例えば「Global No.1の人財力で業界トップシェアを取る」といったものです。
言葉にしてしまうと、人事思想は、非常にシンプルなものですが、思想の背景には、
- 実力を重んじる
- 経営に必要な最高の人財を採用、発掘、育成、活用する
- 適所適材、必要な場所に最も適した人財を配置する
- 実力を評価し、やる気をかきたて、自信を与える
などといった「思い」に裏打ちされていることが非常に大切です。
これまでの人事の場合には、どうしても画一的、伝統的、閉鎖的な人事になっていなかったでしょうか。それではやはり勝ち残ることができません。独自の『人事思想』を定めていくことが重要です。もし人事思想を作ることが最初は難しいということであれば、今の人事で不要なこと、合致していないことをやめていくことからスタートしてみてはいかがでしょうか。進めていく中で自社の独自の人事思想が見えてくることもあります。
今までの一つひとつの仕組みや慣行を改めて見つめ直してみると、「本当にこれでいいのか」「何の為にやっているのか」等、疑問が出てくると思います。例えば、「職能資格」。長らく多くの企業で採用されてきましたが、能力を本当に測れているのでしょうか。事業とズレは生じていないでしょうか。また、「年功序列」。一方で成果を求めるのに、本当に年齢は関係あるのでしょうか。このように一つひとつの仕組みや慣行を見直すことからスタートすることで、独自の人事思想が見えてきます。勝つための最適な人事に変革していくことが重要です。
【図3】これまでの人事の見直し
人財戦略と事業戦略の一体化
『人材版伊藤レポート』において、「経営戦略と人材戦略の連動」が重要な要素として掲げられておりますが、我々は連動(経営戦略があって、それに人財戦略が連動する)ではなく、一体化(経営戦略と人財戦略を同時に検討、立案していく。経営戦略から人財戦略、人財戦略から経営戦略への両方向からの検討)と思っています。いずれにせよ、経営戦略と人財戦略の連動、一体化が実現できていない企業が多いです。人的資本経営を推進するのであれば、人事や人財は事業戦略と一体化されるべきです。
一体化に向け、事業戦略起点で、事業成長シナリオを具体化し、次に人財配置案と現状のGAPを抽出し、最適化に向けた人事施策を講じなければなりません。具体的には、Step1で事業成長シナリオを描き、業界やエリアを設定し、商品開発をします。また、実現に向けた組織能力や組織体制を構築し、必要なミッションを定義します。次にStep2では、Step1のありたい配置に現状を照らし合わせ、GAPを抽出します。そして最後のStep3では、社外からの人財獲得や、社内人財の育成、組織やグループ内横断の人財配置を行います。もしミスマッチ人財が発生している場合には、解消施策を講じる必要もあります。
事業戦略起点の人財戦略を構想するとともに、逆方向での検討も実施します。人財戦略起点での検討です。まずは、Step1として人財の見える化です。現人財のスキル・経験といった目に見えるものはもちろん、潜在力の見える化、価値観などの見える化も実現していき、組織横断で人財の見える化をしていきます。次にStep2として戦略ポジション人財の開発及び発掘です。サクセッションプランを見据えた取り組みとなりますが、戦略ポジションを明確化し、ビジョンを策定していく中、最終的に候補者を選抜して、ビジョンを宣言してもらいます。最後にStep3として候補者の中から戦略ポジションへ登用・配置して、事業戦略の具体化をしていきます。
これら2つの起点から、事業戦略と人財戦略の一体化を実現していきます。
こちらの内容は是非ともお打ち合わせなどをさせていただき、詳細をお伝えさせていただければと思います。
【図4】人財戦略と事業戦略の一体化のため2つの視点
人財戦略と事業戦略の一体化のポイント
人財戦略と事業戦略の一体化を成す為に重要なポイントは何でしょうか。それは「現場視点」が非常に重要となります。経営企画部門が現場や人事の状況を捉えずに、事業戦略を構築しても、一体となりません。また、人事部門が事業の現場や経営の状況を捉えずに、人財戦略を構築しても同様です。必要なミッションを遂行するうえで、最適な人財はどこにいる誰なのか。そもそもいるのか。また現場で起きている課題は何が不足しているから生じているのか、どのくらいの不足が生じているのか。そして、それはなぜすぐには補えないのか。このような課題を抽出するために現場視点が非常に重要となります。
現場で事業戦略と人財戦略をつなぐ存在が必要となります。それが「HRBP(Human Resource Business Partner:経営者や事業部門のパートナーとして、人や組織の成長を促す「戦略人事のプロ」)」です。
このHRBPが現場と事業戦略・人財戦略をつなぐ役割を果たすことが、一体化に効果的となります。HRBPは、① 事業の内容・状況を知っている、② 事業を推進している人財の状況を把握している、③ 今後の事業発展に必要な人財の要点を知っている、といった人財が担う必要があります。強い責任感、リーダーとして強く引っ張っていく、一定の洞察力、といった要件も必要になってきます。HRBP人財を選定いただき、事業と人財の架け橋になるように取り組んでいくことが、一体化の成功のカギとなります。
経営戦略と人事戦略を一体化させてイノベーション創出や生産性向上を狙い、経営要請に適応した採用、配置、育成、評価といった人事サイクルの高度化及びヒトの潜在力を発揮するために、本質的タレントマネジメントを実現していきましょう。
【図5】人財戦略と事業戦略の一体化のポイント「現場視点」
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この記事の執筆者
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田﨑 文教HR事業部
シニアマネージャー -
石井 哲司経営管理事業部
マネージングディレクター
税理士 -
矢崎 冬馬HR事業部
マネージャー -
木村 圭佑HR事業部
マネージャー
職種別ソリューション