人権ガイドライン、公表
~人権DD実施に向けて~

2022年9月13日に「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」が公表されました(日本政府「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」より)。日本政府として初めて公表した人権デューデリジェンス(DD)に関する指針であり、「日本で事業活動を行うすべての企業」に最大限の実施を求める位置付けとなっています、すなわち、日本企業にとって人権DDへの取組みは待ったなしの状況となりつつあると言えるでしょう。
8月5日に公表されたガイドライン案との比較では、①末尾に「海外法制の概要」追加(計7ヶ国7ヶ国;重点は米国)、②昨今の国際政治情勢を反映した文言追加の2点が主な変更点ですが、ガイドラインの内容自体は概ね前回案通りです。
本日は、このガイドラインを踏まえながら、人権DDへの取り組みのスタンスと初動について、当社の考え方をご説明いたします。

人権DDへの取り組みスタンスの再整理

人権ガイドラインは法的拘束力を伴いませんが、ESGやSDGsを重視する大きな流れを考慮すると、人権DDへの取り組みは不可避と考えます。そして、各企業の取り組みに際しては、人権侵害を減らす国際社会としての大目的への対応は当然として、自社の経営リスクを明確化して企業価値を守る視点を併せ持つことが有用と考えます。なお、このガイドラインには計131の個人・団体から700件を超えるパブリックコメントが寄せられており、世の中の関心が強いと推察されます。
例えば、自社の人権侵害リスクを放置した状態で、同リスクが高いビジネスを排除する顧客が増えれば、売上高にネガティブに影響する可能性が高まります。この傾向はアパレル等のB to C領域で既に見られますが、その加速やB to B領域への拡がりが今後予想されます。また、調達先や外注先の人権状況に関する情報をP-BOM(購買BOM;Bill of Materials)やBOP(Bill of Process)に追加して定期的に更新することも、事業ならびに企業価値を守る意味で念頭に置く必要があるでしょう。
なお、ガイドラインは「人権DDは、ステークホルダーとの対話を重ねながら、人権への負の影響を防止・軽減するための継続的なプロセス」と述べています。人権DDの進捗に応じて段階的に開示範囲を広げながらステークホルダーと対話を重ねることを、企業に求めるスタンスとも言えるでしょう。これは、人的資本経営において企業に求められるスタンスと同じでもあります。

【図1】ガイドラインにおける人権DDのポイント
出典:「ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議」等よりレイヤーズ作成

人権DDの初動の進め方

経済産業省と外務省による2021年のアンケート調査によれば、上場企業の52%が人権DDを実施済みですが、間接仕入先や海外の直接仕入先をDD実施対象とする企業はその半分に満たない結果となっています。この結果からは、進め方や重点を明確化し切れないまま、調査しやすい相手先から先行して人権DDに着手しているとも読み取れます(人権DDに関する各社のお困りごとの例は下図の通り)。他方、今回のガイドラインが求めているのは、人権侵害の懸念が大きい事業の重点的な調査です。
今回のガイドラインを踏まえると、企業における初動として人権侵害リスクの大小の再整理が必要になると考えます(人権DD着手済だがガイドラインと合致していない場合も含めて)。例えば、人権侵害リスクの深刻度と発生可能性の2軸より、調達先や外注先との取引を分類することが有用でしょう。その上で、上記の分類結果のマッピングより、人権DDの実施対象と時期をロードマップとして落し込み、順次DDに着手して人権侵害リスクの有無を具体的に精査することが望ましいと考えています。

【図2】人権DDに対する悩みごと例

人権DDに関する取り組みや方向性を検討或いは模索している等、上記内容にご関心をお持ちいただきましたら、是非当社までご一報下さい。

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