ISO 30414改訂を機に考える、
我が社で目指すべき人的資本経営

◆この記事の要約

2025年8月、人的資本マネジメントに関する国際規格「ISO 30414」の改訂版がリリースされました。指標が拡充され、一部指標は要求(Requirement)指標の位置付けになる等、企業には人的資本経営の実効性と透明性がより求められます。そして、人的資本経営は単なる開示対応ではなく、戦略に基づき企業価値を高める“実走”が不可欠です。
そこで本記事では、改訂内容と企業価値向上に資する人的資本経営のポイントを解説します。

  • ISO 30414改訂
    2018年の初版リリース後、初の改訂。指標数は69に拡充され、うち14指標は対外開示が必須の要求(Requirement)指標として設定。
  • ISO 30414の活用意義
    定量化により人財課題の特定や施策の進捗・効果を把握し、人財戦略の実現を後押し。
  • 人的資本経営の再認識
    経営理念や長期ビジョンと連動した人財戦略が、企業価値(経済価値+社会価値)向上の鍵。
  • ナラティブの重要性
    ステークホルダーに腹落ちする我が社らしい人的資本経営のナラティブが、人的資本経営の実走とステークホルダー評価の向上に寄与。
2025年8月、改訂版ISO 30414がリリースされました。初版が発効されてから早7年。指標が拡充され、一部指標は要求(Requirement)指標に位置付けられる等の見直しが行われました。今回の改訂を含め、人的資本開示のさらなる強化が求められていますが、形式的で実走がともなわない「言いっぱなし人的資本経営」も見受けられます。そこで、人的資本経営の本来の目的に立ち返り、企業価値向上に資する人的資本経営について、ISO 30414改訂の概要とともにお伝えします。

ISO 30414の概要

2025年8月26日、ISO 30414:2025がリリースされました。ISO 30414とは、国際標準化機構(ISO)が策定した人的資本マネジメントに関する国際規格であり、企業が人的資本の状況を定量的に把握し、社内外のステークホルダーに透明性のある報告を行うための基準です。
初版(ISO 30414:2018)は2018年にリリースされ、原則として5年に1度実施される規格の見直しを経て、今回の改訂版(ISO 30414:2025)がリリースされました。初版は人的資本報告のガイドライン(Human resource management — Guidelines for internal & external human capital reporting)の位置付けでしたが、改訂版では人的資本のレポートおよび開示の要求事項および推奨事項(Human resource management — Requirements & recommendations for human capital reporting & disclosure)に見直されました。そこでの大きな改訂ポイントは、一部指標が要求(Requirement)指標に位置付けられたことです。

なお、ISO 30414の特長は大きく2つあります。
1つ目は、人的資本に関する指標が網羅的、かつ体系的に取り纏められている点です。改訂版では11領域(労働力やダイバーシティ、コスト、健康・安全・ウェルビーイング、スキルと研修・開発等)における69の指標が取り纏められています。
2つ目は、指標の算出方法やデータの定義が確立されており、人的資本の定量化に有効な点です。こうした特長があることから、近い将来、ISSBやSSBJ、CSRD等のグローバル・国内の開示基準に反映され、企業側の対応が必要になる可能性があるため、今後の動向に注意が必要です。

【図1】ISO 30414を構成する11領域

ISO 30414を活用する意義

次に、ISO 30414の意義をあらためて整理します。上記の特長を踏まえると、ISO 30414は人的資本に対するマネジメントおよび対外開示の観点から活用する意義が大きく、人的資本経営の強化に有用と考えています。マネジメントにおける意義には以下が挙げられます。

  • 人的資本の定量化を通じて人事・人財課題を特定し、人財戦略や施策の立案につなげることが可能。
  • 人財戦略・施策と連動した指標をマネジメントすることで、戦略・施策の達成あるいは進捗状況を把握し、適宜戦略・施策の見直し・強化につなげることが可能。
  • 必要データを明らかにすることで、データ取得プロセスやその信頼性・安全性を確立し、人事データ基盤を強化することが可能。

また、対外開示におけるISO 30414の活用意義は以下のとおりです。

  • 定性面(ナラティブ:後述)と定量面(指標データ)より、人的資本の状態や人事の取り組みを社内外のステークホルダーに訴求することが可能。
    ―対 投資家:持続的・中長期的な成長の可能性を訴求し、投資につなげる
    ―対 社員・求職者:自社の魅力を訴求し、定着や採用強化につなげる  等

今回のISO 30414改訂のポイント

今回の改訂における主な変更点(と背景の考え方)は以下4点です。
1つ目は、要求(Requirement)指標の設定です。69指標のうち14指標は対外開示必須の位置付けとなりました。すなわち、認証取得には14指標の基準充足と対外開示が不可欠です。14指標は日本企業に比較的馴染みがあるものが多く、また、経済価値に直結する生産性やコストの指標が多いのも特徴です。
2つ目は、指標数の増加であり、初版の58指標から69指標に増えています。ISSB(グローバル)やESRS(欧州)等他基準で採用されている指標が追加され、グローバルで人的資本に関する基準の統一を目指す意図が読み取れます。
3つ目は、開示ガイダンスの追加です。単体のみならず連結での開示も推奨されており、グループ全体での人的資本経営の推進が、より一層求められていると推察します。なお、単体ベースで認証取得が可能なことは変わりません。
4つ目は、独自指標の推奨です。ISO 30414で定める69の指標に加え、各社の戦略等に鑑みて設定した独自指標のマネジメント(対外開示)が推奨されています。なお、人的資本経営の実現度合いを諮ることが目的であり、認証への影響は中立的です。

人的資本経営に対する当社スタンス

今回のISO 30414の改訂を含め、人的資本開示のさらなる強化が求められていますが、形式的で実走がともなわない「言いっぱなし人的資本経営」も見受けられます。人的資本経営の本来の目的は、企業価値(経済価値+社会価値)を高めることです。開示は単なる報告手段であり、目的や終着点ではありません。本質的な取り組みとして、「我が社らしい人的資本経営」の“実走”こそ重要であると再確認したいと考えます。

「我が社らしい人的資本経営」をつくるうえで、まずは企業価値とサステナビリティの向上の道筋として、上位概念の実現に資する人的資本経営のマネジメントづくりが必要です。いの一番は、戦略連動性が高い人財戦略・施策の体系化とKGI・KPIの設定(ISO 30414指標の活用含む)です。その体幹には、つくり手と受け手が互いに腹落ちする、企業価値向上に資する「ナラティブ」が必要です。ナラティブの説得力や真摯さは、人的資本経営の実走における明確な羅針盤となります。同時に、株式市場等の社外ステークホルダーからの期待値上昇につながるものにもなります。

そこでレイヤーズは、理念や中期経営計画、経営陣のご発言等の丹念な読解と言語化を大切にして腹落ちいただけるように、お客様と議論を繰り返して「我が社のナラティブ」「我が社のマネジメント体系」づくりをご支援しています。また、マネジメント体系は検証・実用されてこそのもので、指標の定量的な有効性検証も重要です。しかし、人的資本に関するデータの可視化・分析の歴史が浅いこともあり、意義あるデータ活用に至っていないケースも少なくありません。より客観的で説得力ある人的資本経営の推進に向けては、早期に人的資本に関する実データに触れて、読み解くためのナレッジ・習慣の獲得が必要であり、レイヤーズもそのお手伝いをしております。

【図2】人的資本経営の言語化が大事

おわりに

2023年より上場企業の人的資本開示が義務化されています。近年は、採用強化やインナーブランディングを目的に人的資本開示をする会社も見受けられます。引き続き社内外ステークホルダーへの開示は必要ですが、「我が社らしい人的資本経営」の実践あってこそとレイヤーズは考えております。本来の人的資本経営の目的に立ち返り、「我が社のナラティブ」「我が社のマネジメント体系」を検討・見詰め直してみてはいかがでしょうか?

レイヤーズは、ISO 30414の認定資格者を早期から有し、人的資本経営に関する知見と実績を着実に積み上げております。人的資本経営の強化を通じた貴社の企業価値向上に、是非お役に立てればと考えております。この記事で気になる点等ございましたら、お気軽にご連絡をいただけますと大変幸いです。

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