同時代性の罠(わな)
同時代性の罠とは
かつて、「タイムマシン経営」という考え方がありました。タイムマシン経営とは、他の国・地域等で成功した技術や経営手法を取り込んで(真似して)優位性を獲得しようとする経営方法です。一方、「逆・タイムマシン経営論」(一橋ビジネススクール教授 楠木建氏が提唱)はその逆です。タイムマシン経営のように未来にフォーカスするのではなく、過去にフォーカスします。過去の新聞や雑誌の記事を振り返り、いつの時代も不変なマネジメントの本質をあぶり出し、応用させます。
タイムマシン経営のような現代~未来の事例は、なぜその出来事が起こったのかという背景、当時の状況、対応等が事実としてなく(これから作り上げていく)、その時代の人間は勝手にバイアスをかけて物事を判断してしまいます。このような構造を「同時代性の罠」と言います。
同世代性の罠の事例として、「400万台クラブ」が代表としてあります。400万台クラブというワードは1990年代末の自動車業界を中心に流行し、年間400万台生産する規模を持たない自動車メーカーは、いずれ淘汰されてしまう(400万台生産可能な体制が整っていない自動車企業はこの流行に乗れず、潰れてしまう)という考え方を表した言葉です。これによって多くの自動車企業が急速にM&A等を行うようになりました。しかし各社その後、合併解消や売却、倒産等の結果に陥っています。そもそも400万台という数字には何の論理的な根拠がなかったにも関わらず、言葉だけが先行してしまい多くの自動車企業が失敗に終わりました。
また、逆・タイムマシン経営に基づいて、この事例を考えると2つの間違いが発見されます。1つ目は基本的な経営の考え(生産台数が増加したからといって、収益が増加するというわけではない)を皆忘却してしまっていたことです。2つ目は、因果関係を取り違えてしまっていたことです。競争力のある製品(今回だと車)を開発、製造、販売したことによって台数が伸びるという規模の経済を、とりあえず大量に製造すれば、販売できて台数が伸びるという逆の順序で捉えてしまいました。
どうして「罠」に陥るのか
罠に陥るパターンは以下の3パターンになります。
- 飛び道具トラップ
旬・流行の技術や経営手法を取り入れさえすればすぐに問題が解決すると思い込んでいる - 激動期トラップ
周囲・自分の信念に騙され「今こそ激動期」という言説を信じ、その高揚感、危機感から行動を起こしてしまう - 遠近歪曲トラップ
「遠いものほど良く見え、近いものほど粗が目立つ(空間的にも時間的にも)」という認識のバイアスにとらわれてしまう
以下では、各パターンについて詳細に説明しています。
- 飛び道具トラップ
DX、オープンイノベーション、プラットフォーマー、サブスプリクションモデル等、いつの時代も「次に来る(流行る)のは、これだ」という新しい技術や経営手法が生まれます。このような状況はいつの時代も起こり、繰り返し、成功され、成功事例として記録に残ります。この状況に感化され、なぜ成功したのかという背景や固有の問題をないがしろにし、「とりあえずこれを取り込めば成功する」と思いこみ、誤った経営意思決定をしてしまう企業は多いです。 - 激動期トラップ
時代の変化を過剰に捉え、「今こそ激動期だ」と思い込みます。ポストコロナで働き方は一変するという話や将来的に人間の行う仕事がなくなるという話等は、今後激動期トラップの1つになるかもしれません。 - 遠近歪曲トラップ
近いものは粗が目立つが、遠いものは良く見えるというバイアスです。時間的にも空間的にも、遠くあるものを良く見て(過大評価して)しまいます。例えば、「20年かけてこの技術を開発しました」と言われると中身を確認せずとも、なんとなくすごく素晴らしい技術を開発したんだなと思いこんでしまいます。
「罠」に陥らないためにはどうすればよいのか
同時代性の罠(飛び道具トラップ、激動期トラップ、遠近歪曲トラップ)を回避するために、まず、メカニズムを理解することが先決です。なぜ、同世代性の罠が生まれ、人々はそのトラップに引っかかってしまうのか、例えば、タイムマシン経営のように、その時代の人間が勝手にバイアスをかけて物事を判断した(論理的に物事を考えずに行動した)結果を考えます。その考えを逆手に取って、どうすれば「同時代性の罠」から逃れることができるのか、例えば、論理的に何の根拠もない流行に乗らず、なぜそれが良いのか(流行する程売れている・採用されているのか)を考えることが重要です。