ITの超スピード導入

ITの超スピード導入とは

内部・外部の著しい環境変化、更にはDXによるITの進化、革新的利用が進む中、従来型の高機能・大規模システムを長期間かけて導入することよりも、短期間に所定の成果を出し、事業、更には経営に貢献する対応がIT部門、CIO、CDOに求められています。このような背景を踏まえ、ITの超スピード導入への期待値は、多くのお客様の中で大きくなっていると言えます。

ITの超スピード導入の歴史

  • 1990年代後半 4GL等の高生産性開発言語の登場とEUC(*)による短期開発
    (*)EUC:End User Computing(エンドユーザー自身による部門特化システムの開発、導入)
     
    システム基盤がメインフレームからクラサバ、PC等の分散型システムに変化するに合わせ、IT部門集中型の開発からエンドユーザー部門での小規模開発を促進する4GLが登場し、システムのあり方が大きく変化しました。
     
    コンピューターのダウンサイジング(UNIXサーバーやPCサーバーの登場)により、メインフレームに対してシステム導入コストが大幅に低化し、更に日本語化、OAツールの普及が追い風となりITの利用分野、用途が急速に拡大しました。
     
    その結果、エンドユーザー部門からの多様化する要求に情報システム部門が対応できず、バックログとして滞留する常態を解消するべく、エンドユーザー部門でも独自に予算化し、部門に特化する簡易な業務アプリケーションを構築する取り組みが一気にトレンド化しました。その便利さと短期間で要求が実現できたことから、エンドユーザーのITリテラシー向上にも寄与し、EUCが急速に拡大しました。
     
    EUCでは、ユーザー自身が主体的に開発に参画し、正味の目的達成に注力するため、上流の要件定義や後工程のテスト作業などが大幅に効率化でき、短期間での導入を支える一因となっていました。一方で、EUCにより導入したシステムは、エンドユーザー部門だけでは保守・維持管理ができず、結果的に短命なシステムが大量に発生したことに起因し、原点回帰となる情報システム部門の体制強化の取り組みと、パッケージ製品への注目度の向上という大きな転換点になったことは言うまでもありません。
      
     
  • 2000年代 RADなどのアジャイル開発ツールによる短期開発

    エンドユーザー(利用者)を含む少人数で仕様分析、設計、開発を進め、繰り返し試作品を作成し、評価・改良することで完成品に近づけます。開発期間を短縮するRADによる開発では、スパイラルアプローチを採用しています。
     
    スパイラルアプローチとは、「プロトタイプ」と呼ばれる試作プログラムの仕様をエンドユーザーが確認し、設計・開発・テストを繰り返し、完成品に近づける方法です。
     
    あらかじめ定めた「タイムボックス」が経過したら次の工程に強制的に移り、段階的に業務とシステムをフィットさせるため、早期に利用が可能となり開発期間を大幅に短縮することができます。 
     
     

  • 2010年代前半 ERPパッケージの進化に伴うFit to standardでのシステム導入

    ERP等パッケージ機能の高機能化かつ業種業態に合わせた汎用性の進化(業種業態特化テンプレートの普及)に伴い、基幹業務であってもパッケージに業務を合わせる導入スタイルに注目されるようになってきました。特に、バックオフィス業務(共通業務)は極力業務を標準化し、パッケージに合わせ開発を極小化し、短期間でのシステム導入を目指す取り組みが増えてきています。  
     
     

  • 2010年代後半 ローコード開発(マイクロサービス型開発)の進展による短期化

    様々な業務・機能部品をマイクロサービスとして組み合わせ、極力作らないシステム導入を追求する手法です。前述のパッケージによる業務の標準化がそぐわない領域や、企業が戦略的に競合他社との差異化を狙い独自性を打ち出すSoE(System of Engagement)志向の業務領域等において、特にこうした手法に注目が集まっています。クラウドサービス事業者が提供するマイクロサービスはスパイラル型の超短期システム導入を志向する取り組みに適していると考えられます。

システムの短期導入で考慮すべきポイント

前述の歴史を踏まえ、短期開発に特徴的な論点として3つのポイントが挙げられます。

 

  • エンドユーザの主体的参画
  • 共通業務領域や基幹系業務での業務標準化
  • 変化が著しい業務領域や新規事業でのスパイラル型段階導入

 

最近のシステム導入で考えてみましょう。
 
先ず、基幹系業務のバックオフィス機能や共通業務では、パッケージの採用が欠かせない取り組みになってきています。パッケージが定義する業務、機能を正しく理解し、パッケージの考え方にできる限り業務を合わせる、ということです。パッケージに精通するコンサルとの上流での要件定義にエンドユーザーが主体的に参画し、稼働後の業務を予め決定することが重要であることは言うまでもありません。各社独自の業務に合わせ、パッケージを大きくカスタマイズした場合、スクラッチ開発以上に導入期間やコストを要したり、パッケージが提供する新機能や法制度対応への追随ができなかったりして、パッケージを導入したメリットを台無しにしてしまう懸念もあります。ERP登場初期に膨大にアドオンして自社に合わせて導入したシステムを、稼働後数年でERPの特性を正しく理解したお客様がERPの機能をフル活用し、短期間かつ低コストで作り直し、少量のアドオンで当初に較べ業務成果も大きく向上した事例は数え切れません。
 
次に、SoEのように外部環境の変化に合わせ、迅速に対応が必要なシステム、更にはDX戦略などの施策として、新規事業の立ち上げ期にあって成長とともにビジネスモデルも変容する可能性があるシステムでは、ウォーターフォールでの開発よりもエンドユーザー(若しくは新規事業の中核メンバー)が主体的に参画し、超短期間での成果獲得、段階的な充実化が求められるケースが多いと考えられます。こうしたケースでは、スパイラル開発が適していると言えます。ここでもRADなどでの開発だけでなく、マイクロサービスをフル活用し、作らないアプローチが有効です。また、比較的安価で機能面でもスリムなパッケージから導入し、成長に合わせ段階的にパッケージを入れ替えていく発想もあると思います。
 
共通して言えることは、何れの取り組みであってもシステムの様々な制約条件を内外の関係者と短期間で調整、合意するには現場だけでなく経営が明確に方針を示し、サポートすることが欠かせません。企業はIT投資の成果を少しでも早く享受し、当初目標を短期間で達成したい時代であることは言うまでもありません。

ITの超スピード導入のまとめ

昨今の著しく環境が変化する状況においては、システムを長期間かけて導入することが従来にも増して難しくなってきており、短期間に所定の成果を出すことをステークホルダーも強く求めています。そのためには、標準化できる業務は極力パッケージに合わせること、そして経営陣もシステム導入に参画し、関係者のコンフリクト調整や問題への意思決定を迅速に行うことが、超スピード導入だけでなく、当初の導入目的を確実に達成するための有効な手段であると言えます。
 
勿論、大規模で長期的に行うシステム導入が悪い・駄目ということではなく、環境要因や戦略面から短期・長期を切り分け、短期を求めるのであれば前述の取り組みを徹底することで、より早くビジネス効果を獲得する道筋を進むことになるのです。

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