2019.10.7

【Vol.2・後編】LAYERS’ Business Insight 「SDGsの実行へ、押さえるべきポイントとは」

#企業価値向上 #SDGs #セミナー

 レイヤーズ・コンサルティングは、9月13日(金)に東京會舘で、「『社会価値創出』に繋がる 『次世代企業価値向上経営』のあり方」と題したセミナーを開催いたしました。トークセッションではサントリーホールディングス代表取締役社長 新浪剛史氏をお迎えし、弊社代表取締役COOの中防保と、「これからの持続的な社会と企業価値向上経営のあり方とは?」というテーマでディスカッションを行いました。
 グローバル経営において、SDGsに対する取り組みは目を背けられない喫緊の課題となっております。新浪氏には2030年までに石油由来素材のペットボトルをゼロにする計画を掲げている自社の取り組みや、社会課題解決とどう向き合い、どうビジネスチャンスにつなげていくべきなのかというご自身の経営観を語っていただきました。
 持続的な社会の構築と企業価値向上をどう両立していくか。そのメソッドや新しい日本の経営の在り方について、トークセッションの内容を前後編でお届けします。

SDGsの実行は現場
ミドルマネジメントがカギ

レイヤーズ・コンサルティング 中防 保(以下、中防)
 SDGsを経営戦略のど真ん中に置きましょう、ということですが、SDGsの精神を取り込み、成長エンジンにするのも結局、個人です。サントリーホールディングスでは風土改革を含めて社員のマインドチェンジに対し、どのように取り組まれているのでしょうか。

サントリーホールディングス 新浪 剛史氏(以下、新浪氏)
 理念が強い会社ですので、鳥井信治郎が創業して以来、根っこの部分はしっかりしています。ただ、グローバルに理念を普及させていくことが大変苦手です。その意味で社員がもう一度理念を共有しようと、コーポレートユニバーシティーとして、「サントリー大学」を作り、海外の幹部社員も集めて「自分たちは何をしなければいけないか」という議論をこの5年間してきました。2030年までの実現を目標とする「プラスチック基本方針」に関しては経営陣が決めましたが、SDGsを実現していくのは現場です。現場に腹落ちさせるためには、中間管理職に当事者意識を持ってもらうことが非常に重要でした。ですので、「Who are we?」、つまり、「自分たちは何者なんだ?」という問いを一生懸命、投げかけてきました。そして、大変な借金をして、ビームサントリーを1兆6300億円で買収した中で、もう一度、鳥井信治郎の考え方を学びなおしているのです。企業理念を落とし込まないと、SDGsは実行できないのです。

新浪 剛史 氏(にいなみ・たけし)
サントリーホールディングス株式会社 代表取締役社長。
1981年三菱商事株式会社入社。
株式会社ローソン代表取締役社長、会長を経て、2014年10月より現職。
2014年より、安倍内閣の経済財政諮問会議 議員。2018年5月 日本経済団体連合会 審議員会副議長就任。
また、世界経済フォーラム International Business Council、米国外交問題評議会Global Board of Advisors、The Business Councilメンバー。91年米ハーバード大の経営学修士号(MBA)を取得。

中防 具体的に「サントリー大学」とはどのようなことをするのでしょうか。

新浪氏 中心となるのは2つの考え方です。一つは企業理念の理解です。例えば、海外の幹部も一緒に天然水の森に赴いて、自ら体験します。もう一つは創業家に創業精神を話してもらいます。英語ではRe-visitといって、「再度訪れる」という意味なのですが、社員にとって空気のような存在となってしまっている創業精神を思い出してもらう。そうすることでSDGsに入りやすくなります。

 一方で日本企業の「三方よし」はいいのですが、利益を出す部分がすごく弱いです。それはリーダーシップが弱いことにも通じます。しがらみを解く力を身に付けるために、リーダー育成にも力を入れていて、中間層からリーダーを生むために、これまでに約1000人の中間層がプログラムを受けています。研修の最後には、私が1時間半リーダーシップについて話します。リーダーシップは社長が直接話さなければいけません。「リーダーシップとは何か」と問い、答えのある研修ではなく、考えさせる研修です。リーダーは結論がない中で意思決定を行うので、その時に必要な要素を考えます。SDGsもやりつつ稼がないといけませんので、利益相反しそうな2つの目的はトレードオンだと考えさせる人材育成なのです。そしてこの人材育成こそSDGsとなります。

 全員がリーダーにはなれませんが、チャンスを提供し、考える機会を与えることが目的です。欧米やアジアからも集まり、グローバルで取り組んでいます。色々な考え方があることを知ることで、同じ理念でも達成するために色々な方法論があると理解できるようになります。SDGsを実現するにはイノベーションがすごく重要で、日本ではこう、ベトナムではこう、という様々なケースがあるので、多様なマネージャーを育成しています。

難題は人的問題
イノベーティブな発想で受け皿を

中防 経営トップは社員や様々なステークホルダーから信頼を得るため、戦略やビジネスモデル、ガバナンスや価値観、目標における進捗の数値をしっかりと語らなければなりません。しかし、日本企業は価値があるにも関わらず、うまく伝わっていない側面も感じます。トップはどのようにコミュニケーションしていけば良いのでしょうか。

中防 保(なかぼう・たもつ)
株式会社レイヤーズ・コンサルティング 代表取締役COO。
太田昭和監査法人(現:EY新日本有限責任監査法人)を経て、1983年株式会社レイヤーズ・コンサルティングを設立。代表取締役COOとして現在に至る。製造・流通・サービス業等の上場企業を中心に、成長戦略策定、新規事業開発、新ビジネスモデル構築、マーケティング及び営業強化、業務・組織変革、財務会計・管理会計、ITマネジメント等のコンサルティングを多数行う。特に最近では、最新のデジタルテクノロジーを活用したビジネスモデル改革や超効率化経営といったデジタルトランスフォーメーションに関するコンサルティングに従事。

新浪氏 欧米に比べて日本のホワイトカラーの生産性の低さは極めて顕著です。とりわけ金融業界にはFintechの波が押し寄せており、この課題に対しイノベーティブな発想をしていかなければなりません。そして、この課題解決自体がSDGsのゴールとなります。

 実は人的問題がすごく難しいのです。これを解決することが収益面の改善につながりますし、個人の幸せにもつながります。生産性の高いテクノロジーを導入しつつ、人材を別の場所に移管することも併せて考える必要があります。そういった意味ではリカレント教育も重要でしょう。すごく悩ましいですが、イノベーションと両方をやることがSDGsにもつながります。人生80歳まで働く時代です。サントリーの場合は65歳まで雇用を延長しています。一方で、新しいことをやりたい人は、一度社外に出て、是非また戻ってきてもらえたらいいのです。人的問題は海外企業と大きく異なる点で、そこにフォーカスした新しい方法論はSDGsのターゲットの一つでもあります。

中防 人的問題を解決するには新規事業の創出も解決策の一つとなります。どのような領域に可能性があると考えますか。

新浪氏 社会課題がたくさんある日本では投資の可能性がすごくあります。月並みですがヘルスケアの領域。2040年から50年にかけて、医療よりも介護が問題になります。どうやってロボットを使うとか、仕組みそのものを掘り起こす余地はまだまだあります。地方への移住もしやすくなっていますし、農業にも可能性があります。

 私どもはサプリの分野や、飲料でも糖質や脂質に着目した特定保健用食品の分野のマーケットは伸ばしていきたいですね。低アルコール商品は非常に売れていますし、すごくビジネスチャンスを感じます。そこでチャンスをつかむと、アジアに可能性が広がります。特に東南アジアは若い地域ですが、高齢化のスピードは日本よりも速いので、日本で培ったアプリケーションをもっていくことも可能になります。

中防 SDGsは大きな意味で社会的課題ですので、そこが宝の山なのは間違いありませんよね。

新浪氏 ただ、自分たちでやるかどうかは別の話です。日本経済が良くなったのは、若い人たちが企業を辞めて新しいことを始めるチャンスがすごく増えてきたことにも起因しています。自分たちでやるのか、そのような会社に投資するのか。後者の方が面白く、場合によっては買収させていただくチャンスも出てきました。

ミレニアル世代の取り込みを
重要なダイバーシティの価値観

中防 弊社でもご多分に漏れず、辞めてしまう若手社員がいます。その一番の動機は社会的課題解決の役に立ちたいという想いで、自分の価値観を実現する器が別にあるのであれば、そちらに移るということです。とりわけミレニアル世代をどう生かすかが課題の一つになっています。

新浪氏 優秀な人材を抱えて、力を発揮してもらうためには、企業を超えた発想が必要だと思います。だから、他企業に移ってたくましく育った人材に戻ってきてもらえるような企業になりたいと考えています。大いに外でやってもらい、ネットワークの中でマッチする事業であれば、買わせていただきます。買収した際に彼らを受け入れられるダイバーシティの価値観を持つ会社に変われなければ、グローバルでも成功できないと感じています。

中防 最後にトップ経営者としてSDGsに対し、日本の経営はどう向き合うべきか一言お願いします。

新浪氏 もうすでに向き合っておられると思いますが、SDGsは極端に言えば、ジャーゴン(*)みたいだなと思います。だからSDGsと言わずとも、自分たちのここだけは絶対深掘りするという分野を絞り込んで深掘りしていけば、うまくいくはずです。よくよく、どこを伸ばせばいいのかというところを熟慮し、そして早くやってよかったと思える分野を作ってください。
(* ジャーゴン:部外者には理解できない専門用語)

SDGsは遠い存在だと感じるかもしれませんが、絞った分野を社員で共有していって、「Early Win」「Quickly Win」を作っていただけたらと思います。

(前編)「SDGsにどう向き合い、企業価値向上に繋げるのか」

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