2026/09/14
【第11回】転嫁から値決めへ
~値上げは価値の試金石~
値上げは経営力である
「値上げしたら売れなくなる」は本当か
「値上げをすれば顧客が離れる」。多くの企業がそう考える。しかし、本当に見るべきなのは、顧客が一人でも離れるかではない。値上げ後に利益が増えるかどうかである。価格を5%上げて販売数量が2%減っても、利益総額が増えるなら合理性がある。反対に、競合の値下げに追随して数量を増やしても、粗利益が減れば意味がない。重要なのは「売れたか」ではなく、価格と数量の組み合わせで利益が最大になる地点を見極めることである。
値上げで問われるのは「顧客価値」
ここで問われるのが、自社の商品・サービスがどれだけ顧客から必要とされているかである。ウォーレン・バフェットは、ビジネスを評価するうえで重要なのは「価格力」だと述べている。価格を上げても競合に顧客を奪われないなら、そのビジネスは強い。逆に、10%の値上げが「神頼み」なら、そのビジネスは弱い、という趣旨である。
つまり、値上げは、自社の商品・サービスが値上げしても選ばれる価値を持つかを問う局面でもある。本体製品なら、生産性、省人化、省エネルギー、品質向上。部品やサービスなら、安定供給、短納期、迅速な復旧、長期安定稼働。こうした価値が明確なら、価格を上げても顧客は残る。価格以外に選ばれる理由がなければ、値上げのたびに顧客流出を恐れることになる。
値上げを「転嫁」で終わらせない
インフレ局面に入り、原材料、物流、人件費の上昇を理由に価格改定する企業が増えた。しかし、「原価が上がったので値上げします」だけでは、デフレ時代のコスト起点の発想から抜け出せていない。
本来の値上げは、自社製品の価値を見直す機会である。顧客が何に価値を感じ、どこまで追加の対価を払うのかを見極める必要がある。コスト上昇分だけ価格を上げるのが「転嫁」、価値に見合う価格を取りにいくのが「値決め」なのである。
また、すべての顧客に同じ値上げをする必要もない。同じ設備でも、24時間フル稼働する工場と、月に数回しか使わない工場では、生み出す価値は異なる。見るべきは、顧客の「価値認識」と「支払余力」である。
値上げ交渉とは、新価格を通知する場ではない。自社が生み出す価値を改めて伝える場である。適正な利益がなければ、品質維持も安定供給も次の技術開発もできない。_値上げとは、顧客に負担をお願いすることではない。自社の価値を見極め、その対価を決めることだ。だからこそ、値上げは営業技術ではなく、経営力なのである。
次回は、この「値決め」を個人の経験や勘ではなく、企業の組織能力に変える方法について論じる。
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