製造業における「売って終わり」ビジネスからの脱却
~アフターサービス部門の変革~

◆この記事の要約

製造業の持続的成長には、「売って終わり」のビジネスモデルからの脱却が急務です。そのためには、「製品ライフサイクル全体」で利益を最大化する視点への転換が不可欠です。
そこで本記事では、その鍵となる「ライフサイクル利益」の管理手法と、顧客接点を持つアフターサービス部門を起点としたビジネスモデル変革の重要性について提起します。

  • 製品ライフサイクル利益 :製品の企画から終売までの生涯収益を管理する指標。年度会計の枠を超え、「モノ売り」からの脱却を促すKPIです。
  • パイロット算出と横展開 :まず特定製品でライフサイクル利益の算出を試行し、その手法をモデル化して全社に展開することで、現実的かつ効果的な導入を実現します。
  • アフターサービス起点の変革: 顧客接点を持つアフターサービス部門がハブとなり、開発部門での製品改善や営業部門のサービス向上を促進。全社的な業務改革をリードする役割を担います。
製造業において持続的な成長を実現するためには、「売って終わり」のビジネスモデルから脱却し、製品企画からアフターサービスに至るまでの製品ライフサイクル全体での売上・利益の最大化や、顧客満足度向上に向けた取り組みを行っていく必要があります。そのためには、アフターサービス部門を中心としたビジネスモデル変革が必要です。そこで本稿では、特に設備・機器等におけるアフターサービスに焦点をあてて、ライフサイクル利益の最大化に向けたポイントと、アフターサービス部門の重要性について提起いたします。

「売って終わり」のビジネスモデルからの脱却

日本の製造業における『低』利益率が叫ばれて久しい中、以前から製造業におけるサービス化が注目されていました。グローバルを相手に、厳しい競争に晒されている日本の製造業の収益拡大にむけ、高い収益性が期待できるアフターサービスは【図1】のように、製品を製造して販売する「モノ売り」一辺倒から抜け出す活路になっています。

「モノ売り」からの脱却に向けBtoC領域においては、サブスクリプションや従量課金制によるサービスが拡大してきている一方、BtoB領域では依然として製品の販売自体がゴールという意識が強く、設備・機器の保守・メンテナンスを戦略的な収益源として充分に活用できていないケースが多いように見受けられます。各部門が「売って終わり」の意識のもとで動いているため、例えば、開発・設計部門は製品の品質・性能の向上に全力を尽くす一方で、販売した製品に関しては顧客やアフターサービス部門の声をもとにした改善に充分なリソースが割かれていない傾向にあります。この背景には、マーケットイン思想よりもプロダクトアウト思想に囚われており、顧客の声を反映させた製品開発やサービス改善が後回しにされている現状があります。さらに、縦割りの組織文化が根強く、各部門間の連携が難しいため、顧客のニーズに対する柔軟な対応が阻害されていることも一因と考えられます。

今後、持続的に高い収益力を獲得していくためには、このような「売って終わり」のビジネスモデルから脱却し、アフターサービスを起点とした事業運営の仕組みを構築していくことが重要です。製品企画からアフターサービスに至るまでの製品ライフサイクル全体での売上・利益の最大化や、顧客満足度向上に向けた取り組みを行っていくことこそが、企業の持続的な成長を実現するカギとなります。

【図1】アフターサービスの重要性

製品のライフサイクルにわたる利益を最大化

モノ売り思想からの脱却にあたっては、製品のライフサイクル(生涯)にわたる累計の利益を最大化するという視点が必須です。

製品のライフサイクルとは、製品の企画・開発から製造・販売・アフターサービスを経て終売に至るまでの期間を指します。そのためライフサイクル利益は、製造のコストはもちろん、企画・開発のコストや、アフターサービス等によって得られる収入・コストも加味して利益を把握します。製品ライフサイクル利益をKPIとして設定し、製品販売の収益だけではなく、アフターサービス等を含む全体での収益の最大化に取り組むことで、必然的にモノ売り思想からの脱却が可能になります。

しかしながら、日本では会計期間を基軸とした年度の予算・実績管理の弊害もあり、なかなか製品ライフサイクル利益の視点での管理ができていませんでした。ライフサイクル全体の売上・利益最大化に向けては、以下の2つのステップで進めていくことが重要です。

【Step.1 パイロット算出】
ライフサイクル利益最大化に向けては、まず各製品のライフサイクル利益を算出したうえで、算出結果をもとに課題を抽出し、施策検討・実行までを進める必要があります。しかしながら、そもそものライフサイクル利益算出の段階でつまずく企業も少なくありません。ライフサイクル利益算出にあたっては、使用する元データや算出方法を検討し、製品別・費目別のデータを各部門から収集・加工する必要があります。特に、製品別のデータは各部門での管理になっていることが多く、部門ごとに管理しているシステムも異なっていることから、データ収集の工数負荷が大きく、最後まで進められないことが多々あります。

そのため、まずは特定の製品においてパイロット的に算出し、必要データの収集方法や算出方法をモデル化することが重要です。パイロット製品の抽出に際しては、下記の2つの観点のもと、目的に沿ったパイロット製品を選定します 。

① 早期にライフサイクル損益の把握が必要な製品
(例:利益率が低く撤退を考えている製品、企画時の利益モデルと実態が大きく乖離している製品)
② データ収集しやすい製品

ライフサイクル利益算出にあたっては、部門間の垣根を越えてデータ取得・データの整合性確認等の連携をすることが極めて重要であり、トップダウンの指示のもと、各部門が協力できる体制を整えることが求められます。

【Step.2 全製品に横展開】
特定の製品でパイロット算出し、算出モデル構築をしたうえで、製品群全体・事業全体に横展開することで、短期的かつ効果的にライフサイクル利益の算出を進めることが可能です。しかしながら、製品別ライフサイクル利益の算出では、データの収集・加工・集計の手間が発生し、現場に負荷がかかります。そのため、横展開の際には算出の簡易ツールを構築する等、工数削減に向けた取り組みが重要です。

算出したライフサイクル利益は、最大化に向けた課題の抽出や施策の検討・実行につなげなければ意味がありません。そのため、事業全体のKGI(Key Goal Indicator)としてライフサイクル利益の目標を設定し、予実管理を行うことが不可欠です。また、KGIの実現に向け、ライフサイクル利益の管理責任を明確にしておくことも重要です。プロダクトマネージャーは、一般的には各製品の企画・販売・改善等を統括する役割を担いますが、その業務の1つとして製品の生涯にわたるライフサイクル全体での利益責任も求められています。プロダクトマネージャーが、各機能部門の垣根を超えて、ライフサイクル利益の目標達成に向けた施策検討・実行の指示出し・進捗管理を行う必要があります。そうすることで、各部門が自らの役割を理解し、ライフサイクル利益最大化に向けた業務の変革を推進することができます。

さらに、算出業務を通常の業務フローに組み込むことで、ライフサイクル利益を定期的に算出する仕組みを整え、データの精度を向上させていくことが重要です。これにより、ライフサイクル利益の分析がより高度化し、迅速かつ効果的な意思決定につながります。

【図2】ライフサイクル利益最大化に向けた取り組み

アフターサービスを起点としたビジネスモデルの構築

ライフサイクル利益の最大化と顧客満足度の向上に向けて業務を変革するためには、アフターサービス部門が果たす役割が極めて重要です。アフターサービス部門は顧客との直接的な接点を持つため、顧客のニーズやフィードバックを迅速に把握することができ、製品改善やサービス向上へ効果的に活かすことができます。

具体的には、
① 製品企画部門に対しては、顧客からの要望に基づいた機能や仕様情報を提供し、新製品のコンセプト提案が可能です。
② 製品設計部門に対しては、不具合発生原因や対策方法に関する知見をもとに、不具合に強い設計やメンテナンスのしやすさを考慮した設計の提案を行うことができます。
③ 製造・調達部門に対しては、製造方法や調達部材の見直し提案を行うことで、コスト削減や品質向上を図ることができます。
④ 営業部門に対しては、アフターサービス部門が把握している製品の使用状況を踏まえ、共同でのリプレイス提案や新たな販売戦略を策定することも可能です。

このようにアフターサービス部門が得る情報を当該製品に関連する機能部門が用いることで、各部門の競争力を強化することが可能です。アフターサービス部門を起点とした業務プロセスに変革することが、ライフサイクルでの利益を最大化するための一歩といえます。

【図3】アフターサービスを起点としたビジネスモデルの構築

まとめ

製品の生涯にわたる利益を最大化するためには、「売って終わり」ではなく「売ってからも稼ぐこと」が求められます。製品販売での収益とアフターサービスでの収益を両輪で最大化していく必要があります。
そのためには、開発・営業・製造・調達等の部門と、販売以降のフェーズを主に担うアフターサービス部門が連携して取り組むことが重要であり、特にアフターサービス部門こそが各部門をリードしていかなければなりません。アフターサービス部門において、サプライチェーン全体にわたる情報の一元管理や、アフターサービス起点とした業務プロセス改革等を実行に移していくことが求められます。

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この記事の執筆者

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