基幹システムの投資効果が「業務効率化」だけではダメな理由

「業務効率化」は、基幹システム再構築の投資効果としては、最もわかりやすく、説明しやすいものだと言えます。しかし、常套句のように「業務効率化」でよいのでしょうか。
「業務効率化」を目的としたものの、結果はあいまいで、本当に成果をもたらしたのか疑問に感じている経営者、プロジェクトオーナーも多数いらっしゃるのではないでしょうか。
当記事では、少し違った視点から投資効果について論じてみたいと思います。

「業務効率化」はシステム投資効果の常套句

企業IT動向調査報告書2022(一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会)によると、IT投資で解決したい中長期的な経営課題として、「業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)」を第1位から第3位までにあげた企業は、42%となっており、「迅速な業績把握、情報把握(リアルタイム経営)」の36%を大きく上回る結果となっています。
言わば、最もポピュラーな経営課題、システム投資効果が、業務プロセスの効率化ということになります。確かに10名でやっている業務を8名や5名でやれるようにするというのは、大変わかりやすく、誰が聞いても納得感があります。しかし本当にコスト削減を実現するためには、残った業務を片寄せしたうえ、空いた人員を異動するなり、他業務をやらせるなり、場合によっては解雇するといった人事対応が必要となります。
さらに基幹システムのような大規模なシステム投資を回収できるだけの削減余地があるのかどうかも問題となります。
例えば基幹業務を100名でやっている企業があるとします。30%の業務削減を目指すとした場合、30名分の人件費が期待効果となります。仮に1人あたり人件費を年1千万円とすると3億円です。割引率を5%と仮定すると、10年間で回収可能な投資規模は23億円程度となります。

【図1】「業務効率化」の壁

大きなRを狙うには

メーカーや流通業の場合、基幹システムは主としてサプライチェーンを支えるシステムかと思います。サプライチェーンには原材料・部品や仕掛品、製品・商品といった現物資産や、売掛金のような金融資産、また現物資産をストックしておくための倉庫のような設備資産が含まれており、多額の資本が投下されています。
多少大雑把な計算ですが、例えば、原材料在庫が1ヶ月分、仕掛品と製品在庫が2ヶ月分、売掛金回収が2ヶ月、買掛支払が1ヶ月だとします。月次の年間売上高が600億円で売上原価率が60%だとすると、160億円程度の運転資本が、現在のサプライチェーンに投下されていることになります。
基幹システムを再構築するにあたって、取引先との情報共有を進めて販売計画の精度を上げたり、取引先との間の受発注のタイムラグをなくしたり、生産計画、生産指示の流し方を変えて製造リードタイムを短くしたり、出荷情報を早めに提供したり、誤出荷や誤請求をなくして売掛金回収を早めたりできれば、数十億円規模の運転資本を減らすことが狙えるようになります。業務効率化よりも、ゼロがひとつかふたつ多い投資効果になるのではないでしょうか。

【図2】サプライチェーン・システム改革による「運転資本効率化・キャッシュフロー創出」の例

Iを小さくするには

当社のコンサルティング事例では、基幹システムのライフサイクルコストを大幅に削減して、ROIを高めたケースがあります。当初、データ活用や業務効率化を目的として基幹システムの再構築を検討していましたが、再構築しても業務要件がほとんど変わらないため、再構築ではなく、パブリッククラウドサービスへのリフトを行い、新しい業務の部分から徐々に作り直していくことにしました。それにより10年先までの維持・運用に掛かるコストを40%以上下げ、かつデータ活用のための基盤づくりや新規事業対応等の新規投資を30%以上増やすこともできました。トータルで見ると投資は20%削減しながら、リターンは新規投資した分だけ増えるという計算になります。IT投資の再配分によって、全体としてのROIを高めることができたという事例になります。

【図3】システムライフサイクルコストを大幅削減してトータルROIを高めた事例

基幹システムのROIについて考える

基幹システムは、インフラであり、ROIにはこだわらず整備する、といった考え方もあるかもしれません。しかし、ROIについて考えることをやめてしまうと、業務革新や技術革新も停まってしまいがちになります。業務を変えないまま、あるいは新しい技術を傍観したまま、基幹システムを作ったとしても、過去のシステムの焼き直しにしかなりません。
先ほどの例では、65億円相当の運転資本の効率化・キャッシュフロー創出を狙ってサプライチェーン改革を目指すのか、年3億円相当の業務コスト削減を目指して、基幹システムを作り直すのか、ビジネス環境の変化や自社の戦略を踏まえ、十分な議論をしたうえで、どちらかを選ぶということかと思います。
当社では、ソリューション選定だけではなく、基幹システムのROIについても、オーナー企業の立場に立って一緒に考えるシステム構想づくりのコンサルティングをご提供しています。

【図4】狙いとするシステム投資効果の選択

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