間違ったマネジメントが事業をダメにする
~事業ライフステージとマネジメントの要諦~

1970年代頃からプロダクト・ライフサイクル戦略やプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントが戦略手法・マネジメント手法として活用されていますが、実際に事業のライフステージに応じてマネジメントを変えている企業はあまり多くないと言えます。逆に、有望事業を発育不全にしてしまったり、金のなる木の事業を短命にしてしまったりしていることも多く見受けられます。

今回はこうした事業ライフステージに応じて如何にマネジメントやガバナンスを適切に変えるかのポイントをご紹介します。

事業ライフステージに応じたマネジメントができていない

昨今ROIC経営をうたっている企業が多いですが、事業のライフステージにおけるROICでのマネジメントの違いを明確にしていない企業も多く見受けられます。ROICは事業ポートフォリオマネジメントのツールですから、事業のライフステージに応じたマネジメント方法を定義しないと、本来そのステージにおける事業の狙い・位置付けとマネジメントの狙いが食い違ってしまいます。例えば、成長期の事業に追加投資をためらい成長不全を招いたり、成熟期であるにも関わらずキャッシュフローがマイナスになるような過大投資をしてしまったりするケースも良く見受けられます。また、そもそも事業のステージに対する認識が間違っていることもあります。

従って、事業ポートフォリオマネジメントにより事業構造変革を推進していくためには、事業ライフステージにおいて如何に事業をマネジメントするかを定義する必要があると言えます。

事業ライフステージに応じたマネジメントとは

事業ステージは、一般に導入期 → 成長期 → 成熟期 → 衰退期と移り、これらのステージにおいて下記のようなマネジメントを行うことが基本となります。

【図1】事業ライフステージの各ステージに応じたマネジメントの概要

「導入期」では、市場創造・開拓が目的ですから、注目すべきは成長率です。当然この段階で利益が出ることは稀ですので、本社費等の固定費負担を軽くし、事業が主体的に機動的な運営ができるようなマネジメントが必要になります。

「成長期」では、市場においてのポジション確立が目的ですから、注目すべきはシェアです。また、成長のための投資がかさむため、適切な投資判断をしながら投資収益率の確保を図るマネジメントが必要になります。

「成熟期」では、その業界でのNo1を目指し最大のポテンシャルを刈り取ることが目的ですから、キャッシュや付加価値額の最大化を追求することになります。ここでは、成長期に投資していた分野について選択と集中の観点から、盆栽のように事業を剪定していくようなマネジメントが必要になります。

「衰退期」では、残存者利得の獲得が目的です。業界下位の企業ほど、この時期に採算性悪化が先にくることが多く、撤退するか、留まるかの意思決定が必要になります。また、No2以下の企業では、ニッチな市場でのトップを目指し、そのなかでの残存者利得の獲得を目指すのも選択肢の一つになります。

従って、経営においてROICを導入する場合も、個々の事業の事業ライフステージに応じてどうROICを使ってマネジメントしていくかを明確にして導入する必要があります。特に、事業ステージの異なる複数の事業ユニットを抱える企業においては、画一的なROIC導入は個々の事業ユニットのパフォーマンスを低下させかねないことに注意すべきです。

AutonomyとMicro-Management のどちらを選択すべきか

事業経営においては、AutonomyとMicro-Managementのどちらを選択すべきか、換言すれば、どこまで各事業に分権化・権限委譲を進めるかが議論になります。事業経営を考える上で、これはどのように考えていくべきでしょうか。

環境因子から見た意思決定

分権化や権限委譲の程度を決めるのは、その事業を取り巻く環境に依存します。即ち、環境が異なるから、そこにおける最適な意思決定モデルが異なり、そのために組織的な分権化や権限委譲が起こるということです。

環境を考える場合、意思決定に必要な環境因子を情報の複雑性と不確実性の面からみると下記のようになります。

【図2】情報の複雑性・不確実性による意思決定への影響

情報の複雑性から見ると、製品・顧客・エリア等が増大することにより、意思決定が増大し長くなる傾向があります。この場合、複雑性をもたらす要因(例えば製品・顧客・エリア等)に分けていくことにより、そのユニットの複雑性を減らし、意思決定を最適化します。製品・顧客・エリア等によって組織が分かれるのは、ここに起因します。

また、情報の不確実性からみると、意思決定は試行錯誤的になります。この場合、不確実性の最前線に意思決定を持っていくことにより、意思決定の俊敏性を高めることができます。不確実な環境で、末端に権限委譲がなされ、自律的組織になるのは、ここに起因します。

複雑性・不確実性と事業ライフステージ

複雑性と不確実性でマトリクスを作ると下記の様になります。右肩に上がるほど意思決定の適切性を確保するために、組織としては分権化・権限委譲を進める傾向があります。

【図3】情報の複雑性・不確実性による意思決定マトリクス

そもそも事業ライフステージでマネジメントが異なるのは、前提となる事業環境の環境因子が異なるからです。

「導入期」は、第Ⅰ象限に該当します。まだ、市場としての成立性が不明であり、手探り状態ですから、意思決定を最前線にもっていくことが必要になります。新規事業で出島組織を作り、そこに全権委任するのはこのためです。

「成長期」は、主に第Ⅱ象限に該当します。市場として拡大期にあり、製品・顧客・エリア等が多様化し、それに合わせた事業ユニットが必要となります。また、ここでは依然不確実性も高いので第Ⅰ象限と同様にそれぞれの組織に意思決定を委ね自律的に運営されます(全体としては自律分散型組織又はネットワーク型組織と言われます)。この時期に注意しなければいけないことは、何が共通的なことかということです。自律分散型の組織は、各ユニットが自己完結的であることから、規模の経済が効きにくいという性質を持ちます。従って、規模の経済が効く機能・経営資源を明確にして進めることが重要です。

「成熟期」は、主に第Ⅲ象限に該当します。ここでは、不確実性が減少するため、意思決定プロセスが安定します。従って、各事業ユニットに対する権限委譲の必要性が減ってきます。逆に言えば、複雑性を生み出す要因に対してのみ権限委譲すれば良いということです。

「衰退期」は、主に第Ⅲ象限から第Ⅳ象限に該当します。選択と集中を繰り返していくことにより、複雑性が減少していくので、権限委譲は最小化されます。

事業ライフステージ別マネジメントの難しさ

以上のように、一般には、「導入期」に近いほど権限委譲し、「成熟期」に近いほど権限委譲を小さくすることが必要になります。前述の通り、新規事業を行う組織を出島組織として本体から切り離して遠くに置くのは、権限委譲しイノベーションをより促進するためです。これは、多くの企業でも理解して頂けます。しかし、「成熟期」から「衰退期」に掛けて権限を事業から取り上げるべきですが、これが出来ている日本企業は多くありません。所謂企業の屋台骨、大黒柱の事業であるが故に大きな権限を持ち続けてしまうのです。「成熟期」、「衰退期」は、あまり大きな技術革新や市場開拓が起きない状況を考えれば、事業側の権限を小さくし、コーポレートからマイクロマネジメントを行い、出来るだけキャッシュを生むように仕向けるべきです。そうしなければ、過去の成長期の考え方・成功体験を引きずったまま(経路依存性の罠)、意思決定が行われてしまうリスクが高くなってしまいます。

日本企業の多くが高度成長期に事業部制を採用しましたが、これは事業が第Ⅱ象限にあったからだと思われます。バブル崩壊した1990年以降は、日本経済は停滞期(第Ⅲ象限、第Ⅳ象限)に移行し、多くの企業はリストラに取り組みました。しかし、同時に、事業部制からより権限委譲を進めたカンパニー制に移行した企業も多く、これでは本社主導の構造改革が中途半端に終わったのは必然と言えます。こうしたマネジメントの誤りは、電機業界に多くみられ、電機業界のグローバルでの地盤沈下の一因ともいえるのでないでしょうか。

以上のように事業ライフステージに応じたマネジメントは、古くから議論されていますが、成功体験を引きずり実践するのは難しいと言えます。こうした事業成長過程からくる経路依存性を断ち切り、大胆なマネジメントが実現できるよう皆様を支援して行きたいと思っております。

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