パブリッククラウドの採用でERPはどう変わる?(1)

従来、ERPによる基幹業務システムの刷新は多大な時間とコストをかけて行われていましたが、最近では大手企業でも採用例が増えているパブリッククラウドERPにより流れが大きく変わりつつあります。
ここでは、パブリッククラウドERPの利点およびその導入のポイントについて、2回に分けて考えていきます。

クラウドERPの選択肢

昨今では、クラウドERPという言葉はごく一般的になり、ERPをクラウド上で稼働させることは当たり前になっています。しかし、巷にあるクラウドERPの内容は実際には千差万別で、クラウド上のサーバーを利用し、そこにERPをインストールしただけのもの、運用を含めたサービスとしてERPが提供されているがアップグレードはサービスに含まれていないもの、ERPベンダーにより定期的なアップグレードを含めたサービスが提供されるものなど、様々な形態のものがあります。
本来のクラウドERPは、ユーザー企業が所有するデータ以外のソフトウェアおよびサーバープラットフォーム、システム運用やアップグレード、保守サポートの全てを利用可能なサービスとして提供するものです。サブスクリプション費用を支払うことで、企業はこれらの環境がそろったERPを利用することができます。

クラウドERPは、「パブリッククラウド(SaaS)型」と「プライベートクラウド(IaaS)型」に大きく分けることができます。パブリッククラウドは複数の企業が同じクラウド環境に同居する“マルチテナント型”、プライベートクラウドは個々の企業ごとにクラウド環境が提供される“シングルテナント型”と言い換えることもできます。

【図1】クラウドERPの特徴

急速に採用が進むパブリッククラウドERP

製品ベンダーによって多少の違いはありますが、パブリッククラウドERPは次のような利点を持つものと言っていいでしょう。

  • ERPを中心に、補完製品も含めて必要なアプリケーション環境がクラウド上に事前構築されており、契約後使用可能になるまでの時間が短く、すぐに機能を確認できる
     
  • 拡張性のあるクラウドプラットフォームが採用されており、データボリュームやシステム負荷に応じてリソースが自動拡張される
     
  • 定期的なパッチ適用、機能アップグレードがクラウドサービスに組み込まれ、自社サーバー上に構築されたERPのような大規模アップグレードは不要となる
     
  • インターネットに接続できればアクセスでき、専用線やVPNを必要としない(セキュリティを担保する仕組みは確保)
     
  • 新機能が継続的に提供される。新技術への対応もロードマップに組み込まれ、ソリューションとして提供される

クラウドERPの初期の段階ではプライベートクラウドが主流でしたが、昨今はその流れがパブリッククラウドにシフトしています。
パブリッククラウドERPは、小規模な企業での採用が進んでいるだけでなく、最近では数百億以上の企業規模での採用事例も増えてきました。今後ERPのコモディティ化は益々進む可能性が高く、パブリッククラウドは多くの企業にとって有効な選択肢となり得ます。

【図2】パブリッククラウドERPの市場成長予測

ERPにより期待される企業の課題解決

では、このような特性を持つパブリッククラウドERPは、本来企業がERPに期待するような課題の解決を担えるソリューションになり得るでしょうか。
企業がERPの採用を決定し導入する場合、大きくは以下のような目的が考えられます。

1.業務の標準化/効率化

ERPをベースとして部門横断的に業務プロセスを再構築し、部門別に重複した情報を保持することを避け、業務間の情報伝達をできるだけ自動化/リアルタイム化することにより、会社全体で効率的かつスピーディな業務を実現します。

2.経営情報の早期把握

基幹業務に関するデータが一元管理され、業務に関わるモノの流れとカネの流れが同時かつリアルタイムに更新されることで、販売・生産・在庫・財務などの状況を正確にタイムラグなく把握することが可能になります。

3.企業戦略への貢献

グローバル展開を想定した経営管理のツールとして位置づけ、将来のビジネス成長/変化や情報技術革新に対応できる経営基盤を整備し、企業戦略を情報システムの面から支援します。

パブリッククラウドERPが果たす役割

このようなERP導入目的に対して、パブリッククラウドERPは十分にその期待に応え得るソリューションでしょうか。

①業務の標準化/効率化

一般的に、ERPの機能自体はパブリッククラウドとそれ以外とでほぼ変わりません。標準的な業務プロセスを有し、業務間を流れる情報はリアルタイムに伝達されます。さらに、ERP単体機能だけでなく、需要予測や生産計画、ワークフローなども統合されたパブリッククラウドERPもあり、業務の標準化/最適化に貢献できるソリューションと言えるでしょう。

②経営情報の早期把握

資産・財務・人材と言った経営資源の動きをリアルタイムに把握するというコンセプトは、パブリッククラウドERPでも変わりません。これらのデータは一元管理され、必要な時にその時点の最新の経営情報を得ることができます。また、データの可視化を支援するBIツールが組み込まれている場合は、経営者にも分かりやすく俯瞰的に情報提供することができるでしょう。

③企業戦略への貢献

インターネットによるアクセス性とクラウドプラットフォームによるシステムリソースの拡張性を備えたパブリッククラウドERPは、グローバル対応やビジネスの成長/変化に対しても大きなメリットがあると言えるでしょう。また、機能が定期的に追加され技術革新にも追随していけるという点においては、自社サーバー型やプライベートクラウド型ERPと比較しても高い優位性を持っています。

【図3】パブリッククラウドERPが果たす役割

ここまで、パブリッククラウドERPの利点について考えてきました。次回は、パブリッククラウドERPの製品選定や導入について留意すべき点や、これまでのERP導入との違いについてご紹介します。

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