ERP選定の要は、RFPよりF2S

基幹システム刷新にあたり、ERPを検討する企業は多いと思います。数多くの候補の中で自社に適合した製品やベンダーを選定するため、RFPを作る企業も多いでしょう。
一方、精緻なRFPを作って選定したにも関わらず、実際には自社に適合しなかったという話も耳にします。
このようなリスクを減らすために、企業が取り得る手段は何でしょうか?

一般的なERP検討の進め方

下記は、ERPを前提にした、一般的な基幹システム再構築の検討プロセスです。(これ以外にも細かい作業はありますが、主要な流れを記載しています。)
検討プロセスの前半である「現状分析・方針策定」のステップでは業務・システムの現状調査、業務要求/課題の分析などを行い、次期基幹システムの目指す目標、スコープや求めるべき機能要件・非機能要件などを検討します。
その後、あるべき業務の流れをモデリングした「ToBe業務プロセス」を定義しますが、この作業は行わずに、導入の段階で業務プロセスを定義する場合もあります。
次のステップは「ベンダー評価」ですが、この評価を精緻に行い、自社にとって最適なERPを選定するためにRFP(提案依頼書)が作成されます。RFPは予備調査によって選定された数社~10数社の候補に対して発行されます。ERPベンダーからの提案内容は事前に決められた評価基準によって評価され、その後のプレゼンテーションやデモなどを含めて最終的なERP・導入ベンダーが決定されるという流れが一般的でしょう。
ERPと導入ベンダーが決定したら、提案された導入作業やスケジュール、体制などを精査し、ベンダーとも協議のうえで導入計画を作成することになります。

【図1】一般的なERP検討のプロセス

RFPは本当に必要か

RFPは、現状の課題や次期基幹システムの位置づけを明確にし、システム刷新の意図を各社に伝えて適切な提案をしてもらうために作成します。RFPは導入ERP候補となる各社からの提案情報の品質を均一化するツールでもあり、各社の提案内容を客観的に評価するためのフレームワークになります。そういう意味ではRFPは非常に重要な役割を持っています。
一方で、RFPを作成するまでの工数や、多くの候補ベンダーからの提案内容を理解し比較検討を行う工数は膨大となり、非常にエネルギーの要る作業になります。また、ベンダーを決定した後は実際の導入作業となりますが、要件定義の段階でユーザー部門も交えてERPの持つ標準機能や標準プロセスを評価した結果、RFP作成段階やベンダー選定段階では想定していなかったギャップが発見され、アドオン工数が肥大化したり、最悪の場合にはプロジェクトが頓挫するケースもあります。つまり、一生懸命RFPを作っても、ERPやベンダーの見極めが正しくできるとは限らないということです。
もちろん、このような例において、RFPだけが根源的な失敗の理由ではありませんが、ERPの検討において、RFPの作成は本当に必要なのでしょうか?

【図2】ERPの評価・選定の難しさ

RFPよりもF2Sを重視

前段にも触れたように、RFPは各社からの提案内容を一定レベルに保ち、客観的に評価を行ううえで重要なドキュメントであり、不要とは言い切れません。ただ、ERPの検討においてより大事なのは、検討候補となるERPの思想を理解し、そのERPを使って業務が遂行できるかどうかの見極めを行うことです。
Fit to Standard(F2S)が一般用語となりつつある現在では、ERPの持つ業務プロセスに自社の業務を合わせるべきという考え方が浸透し、そのERPの持つ標準機能やプロセスを最大限活用することが成功要因の1つとなるからです。その見極め作業として、選定段階でF2S検証を行うことがあります。
F2S検証には検討企業側・ベンダー側双方で、それなりの時間とメンバーが必要になります。機能とプロセスに関する詳細な説明を受けながら、現行業務を一旦脇に置いて新ERPで業務が可能かどうかの議論をするため、1日2日ではできません。よって、このような作業を行う対象となる候補ベンダーは自ずと絞られ、少数の候補に対して深い議論を行うことになります。
この作業を行うことで、導入開始前に新ERPでの業務をイメージすることと、検討メンバーがFit to Standardの考え方に慣れることで、実際の導入作業へのスムーズな移行を期待することができます。

【図3】F2S検証のイメージ

F2Sを組み込んだERP検討の進め方

ERPの検討プロセスにF2S検証を組み込む場合、必要なのはF2S検証の前にある程度候補となるERPを絞り込んでおくことです。
F2S検証は検討企業側にもベンダー側にも工数がかかる作業になるため、多くの候補を検証することは現実的ではありません。できれば2~3社に絞り込んでおくことが理想的でしょう。
この絞り込みを行うために、RFIを作成し、製品概要・導入実績・特有要件への対応事例・導入体制・サポート内容・製品提供形態・価格などの情報をERP各社から収集します。書面だけで判断できない場合は個別の説明会等で確認することも必要でしょう。
その後、絞り込まれたERPについてF2S検証を行い、製品・ベンダーを決定しますが、この段階ではまだ導入に関するスケジュールや費用は見えていないため、決定したベンダーに対してRFPを発行し、詳細な導入計画の提案を依頼します。
こう見ると結局RFPを作成するように見えますが、従来のRFPが製品・ベンダーの選定を目的としているのに対し、ここでのRFPは導入に対する提案と見積もりの依頼がメインであり、且つF2Sにより適合性が評価された状態での見積もりが前提となるため、導入後の計画ブレのリスクを低減することができます。

【図4】F2Sを組み込んだERP検討の進め方

ここまで、ERP検討の進め方について考えてきました。当社では基幹システムの構想策定やERPの検討・選定に関する様々なコンサルティングを行っています。
もしご興味をお持ちいただけましたらお気軽にご相談ください。

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