パブリッククラウドの採用でERPはどう変わる?(2)
当記事では、パブリッククラウドERPの選定や導入の際に念頭に置くべきポイントについてご紹介します。
検討・選定時のポイント
製品選定時には様々な側面から検討が行われると思いますが、特に重要なポイントをご紹介します。
標準化領域と差別化領域の見極め
まずERPで標準化できる業務領域と戦略的システム構築を行う領域を分けて考える必要があります。自社プロセスやサービスの独自性が強く、他社への差別化となる領域はパブリッククラウドERPに適合しないケースが多いため、別システム等で実現することを前提とするべきでしょう。また、業務シナリオと設定・データ等が一体になった導入テンプレートが用意されている場合は、事前にこれらの業務シナリオを確認し、適合性を検討すると良いでしょう。
業界特有要件への対応
業界特有の要件についてERPで対応すべきかどうか、方針を決める必要があります。その要件やルールが明確かつ固定的で、将来変更されるとしても対応期間にある程度余裕がある場合は、ERPでの対応を検討することができます。ただ、要件変更頻度が多くかつ迅速な対応が必要な場合は、ERPの外側で対応することも考えた方がいいでしょう。
拡張開発
PaaS環境の提供やローコードツール連携など、機能拡張方法とその可能範囲を理解する必要があります。また、他システム連携も重要なポイントです。パブリッククラウドは、外部とのデータ連携方法が限定されていることが多いため、必要な周辺システム連携が可能かどうか確認しておくべきでしょう。
非機能要件に対する適合性
システム運用を外部に任せることになるため、システムの可用性や性能、運用品質や安全性などを確認する必要があります。できればクラウドを利用する上でのサービスレベルチェックリストを用意し、回答を得るべきでしょう。機能やインフラのアップデートが定期的に行われるため、その頻度や、その後のユーザー企業側での確認方法なども事前にチェックする必要があります。
【図1】ERP製品検討・選定時の重要評価項目
導入作業でのポイント
導入作業についてもいくつか押さえておくべき点があります。
ユーザー中心の導入
パブリッククラウドERPは、機能開発に制約があります。ユーザー部門が多忙でほとんど導入作業に参加できず、最後に研修を受けるだけというケースも見受けられますが、業務部門ユーザーがERPを理解していれば、標準機能で対応できる要件範囲が広がり、稼働後の業務要件変更にも迅速に対応ができます。
CRPによる習熟度向上
導入作業は標準業務シナリオをベースに業務を再構築する“Fit to Standard”が基本となります。実機を使いプロセスを確認していくCRP(Conference Room Pilot)を通じてERPの業務適用を検討しますが、習熟度が低い状態では適合判断ができないため、CRPを繰り返して習熟度を上げたうえで適合性を検討することが大切です。
チェンジマネジメント体制
業務変革や新しいデータ活用実装を伴うERP導入では、並行してチェンジマネジメントを実施する必要があります。業務・組織・制度の面から社内変革の環境を整え、経営層および社員の意識を変えていく活動を行います。パブリッククラウドERPの導入は、変革意識を強く持つ必要があるため、経営トップを含めた体制を構成すべきでしょう。
システム更新を前提とした運用
パブリッククラウドERPでは、システム運用も含めたサービスが提供され、自動的なパッチ適用/機能拡張によりシステムメンテナンス負荷は下がります。その半面、システムが定期的に更新されるため、更新後のテストをどうするか方針を決めておく必要があります。テストツールの活用検討やマニュアル等の整備が重要です。
【図2】Fit to Standardの概念
導入後の活用について
本稼働後は、業務の生産性向上やデータ活用を推進していくことになります。パブリッククラウドERPの場合、本稼働後のシステム部門やプロジェクトメンバーの役割にも変化が出てきます。
システム部門
基幹システムのパッチ適用やアップグレードという運用負荷が軽減されます。また、オンプレミスの場合アップグレードの予算取りに非常に苦労するケースもありますが、パブリッククラウドERPではそれがないため、
- ERPの最新機能をチェックし、有益であれば業務側に提案する
- ERP以外の戦略的なシステム開発に注力する
- データ活用/分析の促進活動を強化する
など、システムをいかに経営に役立てるかということにフォーカスすることができます。
導入プロジェクトメンバー
データ入力、各種機能操作、データ分析、パラメーター設定など、プロジェクトメンバーは導入中に様々な経験をするため、その知見を活かして各部門でのシステム活用を推進する役割を担うことになります。新たな業務要件や、ERPに新機能が追加された際の業務適用検討においても、業務とERPに精通するプロジェクトメンバーが中心的な役割を果たすことになります。
パブリッククラウドは、従来のERPよりもよりユーザーに近いシステムだと言うこともできるでしょう。だからこそ、ERPを自分達の道具にするという意識を持って推進することが重要だと考えます。
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この記事の執筆者
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