2026/08/25
【第8回】インフレ局面でのプライシング改革
~「良いもの」の価値反映~
「日本の製造業のポテンシャルを解放せよ」というテーマを掲げ、日本の製造業を世界一に引き上げるためのポイントとして「設計」「原価」「プライシング」の3つについてのコラム連載を進めているが、今回からは「プライシング」にスポットライトを当てて論じていく。
安くつくるだけでは、もう勝てない
デフレ時代の成功体験
日本企業は長きにわたり、デフレ経済の中で競争してきた。需要が伸びにくく、価格を上げれば顧客が離れる。競合より少しでも安く、でも品質は落とさない。そのために、設計を見直し、歩留まりを改善し、調達先を集約し、生産性を高めてきた。「良いものを安く」という考え方は、日本の製造業が厳しい市場環境を生き抜くうえで、有効な勝利の方程式だった。しかし、その成功体験が企業の価格マインドに深く染み付いた。価格を上げることに罪悪感を持ち、競合より高いと不安になり、原価が上がっても自社で吸収しようとする。顧客に喜ばれることと、安く売ることを同一視してきたのである。
インフレ局面で露呈した矛盾
経営環境は大きく変わった。原材料、エネルギー、物流、人件費が上昇し、価格を据え置いたままでは利益を守れない。デフレ時代のように、現場改善だけですべてを吸収することは難しくなっている。工場が100円の原価低減を行っても、商談の最後に営業担当者が100円を値引けば、その努力は消える。部品やサービスでも、調達や物流を改善して原価を下げても、慣習的な値引きや価格据え置きが続けば、利益には結び付かない。営業利益を増やす手段には、数量拡大、原価低減、固定費削減、価格改善がある。その中でも、価格は利益への影響が特に大きい。それにもかかわらず、多くの日本企業では、価格が市場任せ、競合任せ、営業任せになってきた。
「安くて良い」から卒業できるか
重要なのは、原価低減をやめることではない。日本企業が培ってきたコスト競争力に、価値を価格へ転換する力を加えることである。本体製品であれば、性能、生産性、省人化、安全性、省エネルギー性などの顧客価値を価格へ反映する。部品やサービスであれば、安定供給、迅速な復旧、長期利用、設備停止の回避を価値として示す。インフレ局面は、単なる価格転嫁の時代ではない。日本企業が、長年のデフレで身に付けた価格観を変える機会である。原価は企業の努力を映す。一方、価格は、その努力を利益と成長投資に変えられるかを決める。これから問われるのは、安くつくれるかだけではない。自社の価値を正しく認識し、価値に見合う価格を自ら決められるかどうかである。
次回はインフレ期に求められる「価値に基づく値決め」の着眼点について論じていく。
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