2026/08/31
【第9回】「選ばれる価値」で利益を生む
~今こそ値付けから値決めへ~
「原価+マージン」のみで値段を決めるな
原価から積み上げる「値付け」の限界
長く続いたデフレ経済の中で、日本企業には「自分のコストに可能な範囲でマージンを乗せ、顧客が(相場が)受け入れやすい価格にする」という発想が定着した。価格を高くするより、現場努力で原価を下げ、競合より安く売る。この方法は価格競争の激しい時代には合理性があった。しかし原価から価格を積み上げるだけでは、製品が顧客に生み出す価値を捉えられない。商品に価格表を付け、見積価格を設定することは「値付け」である。一方、「値決め」とは、どの顧客に、どの価値を、どの収益モデルで提供し、どれだけの利益を得るかを定める経営判断だ。インフレ局面で原価上昇分を転嫁するだけでは、依然としてコスト起点の値付けにとどまる。今求められているのは、原価を起点に価格を決める発想そのものを見直すことである。
相場水準までは「標準価値」、相場を超えるのは「選ばれる価値」
価格には三つの基準がある。第一は原価であり、利益を確保するための下限を示す。第二は市場相場であり、一般的な製品として受け入れられる価格帯を示す。第三が顧客価値であり、その顧客が得る成果を踏まえた価格の上限である。原価から市場相場までを支えるのは、品質、基本性能、耐久性など、市場で当然に期待される「標準価値」である。ここで顧客は、価格に見合う合理的な満足を得る。一方、市場相場を超える価格を正当化するのは、「相場を超えて選ばれる価値」だ。生産性向上、省人化、品質安定、使いやすさ、迅速な納入、安心感など、一般的な期待を上回る価値である。この価値を発見し、言語化し、価格へ変換できる企業だけが、相場に引きずられずに利益を生み出せる。
フランス人は「高く売る理由」から考える
この「相場を超えて選ばれる価値」をつくることに長けているのが、フランスのブランド企業だ。日本人は原価に利益を乗せて価格を考えがちなだが、フランス人のブランド思想は、まず「どのような世界観なら高く選ばれるか」を描き、そこから商品、体験、希少性、物語を設計する。日本企業には「安い方が顧客に喜ばれる」「競合より高いと売れない」という不安が根強い。一方、フランス企業に象徴されるブランド思想では、高い価格そのものが品質や特別感を伝える要素となる。競合と同じだから安くするのではなく、競合とは違うから高く売るのである。製造業も単に機能を増やすだけでは足りない。その技術が顧客の仕事をどう変え、どのような安心や成果を生むのかを、一つの価値として編集する必要がある。原価は価格の下限を決める。しかし、利益の可能性を決めるのは、相場を超えて選ばれる価値なのである。
次回は「一物一価発想」の限界と対応策について論じていく。
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