AIエージェントと描く、
経営管理と意思決定の新しいビジョン

◆この記事の要約

AI導入で成果が出ない企業が陥る課題と、経理部門の業務改革を成功させる方法
AI導入が進む中、経理・財務部門で期待する成果が得られていない企業が少なくありません。原因は、AIを単なる効率化ツールとして扱い、既存の業務構造を変えないまま部分的な自動化に留まっているためです。本記事では、AI活用によって経理部門の役割を再定義し、経営の質を高める業務改革を実現するための具体的なアプローチを解説します。

本記事のポイント

  • AI導入の本質:業務効率化ではなく「経営判断のための時間創出」が真の目的。AIが生み出す時間を戦略的思考に再配分することで組織価値を向上。
  • 組織構造の転換:人手による処理前提の多階層組織から、AI前提のフラットな組織へ。業務プロセス全体を「AIが存在する前提」で再設計し構造改革を実現。
  • 実践的導入手法:全社展開ではなく小規模なPoC(概念実証)から開始。入金消込や経費精算など効果が見えやすい領域で検証し、段階的に展開することが成功の鍵。
AI導入が進むなか、経理・財務部門で期待する成果が得られていない企業は少なくありません。レイヤーズ調査では、積極的な導入企業は全体の半数以下に留まり、多くが「効率化の先」に進めていないのが実情です。AIの真価は、単なる自動化ではなく、経理の役割を再定義し経営の質を高める業務改革にあります。
 
本記事では、AI活用を成功に導く組織転換の方法を解説します。

なぜAI導入は成果に結びつかないのか

AIの導入は着実に進んでいますが、「思ったほど成果が出ていない」と感じる企業は少なくありません。レイヤーズが2025年9月に国内上場企業の経理・財務部門を対象に実施したアンケートでは、「積極的に導入している」「やや前向きに導入している」と回答した割合は全体の48.9%でした。
一方で、「非常に課題がある」「課題がある」と答えた企業は49%にのぼり、導入が進むほどに新たな課題が顕在化していることがわかります。
その課題として多く挙げられたのは、「業務プロセスとの整合がとれていない」「活用領域が限定的」「人材が不足している」といった点です。つまり、AIを導入してもその力を十分に引き出せていない現状があります。AIが“ツール”として使われている一方で、業務や組織の前提そのものが変わっていない──それが多くの企業に共通する構造的な課題です。

AIの真価は、作業を速くすることではなく、人の時間を解放し、意思決定の質を高めることにあります。導入を「変革のきっかけ」として捉え、業務設計や組織構造をAI前提に見直す。そこにこそ、AI時代の経営管理改革のスタートラインがあります。

【図1】AI導入状況と課題意識(レイヤーズ調べ)

「業務効率化」から「組織の役割再定義」へ

AI導入が進むなか、多くの企業が「定型業務を自動化し、工数を減らす」ことを目的としてプロジェクトを始めています。しかし、AIを効率化の延長線で捉えているうちは、導入に成功しても一時的な効果に留まってしまいます。

経理部門の生産性を本質的に高めるには、AIを単なるツールではなく、業務構造そのものを見直す契機として捉える必要があります。
従来の経理業務は、事業部門から数字を集め、整合性を確認し、仕訳や報告書を作成する「スコアキーパー型」でした。これは企業規模の拡大や会計基準の複雑化に伴い、現場が増え続ける情報を手作業で埋めることで支えてきた歴史の結果でもあります。実際、経理担当者の業務時間の約60-70%が、データ収集・照合・入力といった反復作業に費やされているのが現実です。

AIは、まさにその“埋める作業”を補完できる存在です。機械学習による仕訳自動化では95%以上の精度を実現し、AI-OCRによる証憑処理では数秒でデータ化が完了、RPAによる定型レポート作成では従来数時間の作業が数分に短縮されます。人は分析や提言といった高付加価値業務に時間を使えるようになります。

しかし重要なのは、単に「人の作業をAIに置き換える」だけでは真の変革にならないということです。AIが生み出すのは「効率」ではなく「時間」であり、その時間をどこに再配分するかが問われます。
浮いた時間を別のチェック作業に充てるのではなく、「考える」「提案する」「判断する」時間に変えられるかどうか。そのためには、マネジメント層が“何をAIに任せ、何を人が担うか”を明確に再設計する必要があります。
AI導入の真の目的は、業務を減らすことではなく、経営の質を高める時間を取り戻し、経理部門を「過去の数字を整理する部門」から「未来の経営を支える部門」へと再定義することなのです。

【図2】経理・財務のAI変革:従来業務から戦略的パートナーへ

「人手による処理を前提とした組織」から「AI前提の組織」への構造転換

従来の経理組織は、「人手による処理」を前提に設計されてきました。多階層の組織構造のもと、各部門が個別に情報を管理し、数々のトレードオフを人間が調整しながら意思決定を行う。データ収集・照合・承認といった作業を、現場の人手で埋めることで業務を成立させてきたのです。
しかし、AIを活用する前提で組織を再設計すると、構造は大きく変わります。AIが定型処理を担うことで、組織はフラット化し、部門間の壁は統合され、複数の要素を同時に考慮した意思決定が可能になります。

この転換において重要なのは、業務フロー全体を見直すことです。データの収集から加工、承認、報告に至るプロセスを「AIが存在する前提」で設計し直します。従来の「全件を人がチェックする」モデルから、「AIが処理し、人は例外と判断に集中する」モデルへ転換しなければいけません。

さらに、生成AIがパートナー/エージェントとして個人や企業を支援し、ルーチン作業を吸収しながら思考や生産を支えます。AI同士が対話・交渉することで、社内外のステークホルダー間での自動最適化が実現する世界観です。
具体的には、データの収集・加工・承認・報告といった一連のプロセスにおいて、どこまでをAIに任せ、人はどの段階で介在すべきかを明確にします。AIが自動処理した結果を、人が事後的に監督・承認する体制へ移行することで、従来の「全件チェック」から「例外対応中心」の業務モデルへと転換できます。さらに、AIが異常値や傾向を検知した際のアラート設計、経営層への報告フォーマットの標準化、部門間のデータ連携ルールの見直しなど、組織横断での再設計が求められます。

AI活用とは、単なる技術導入ではなく、業務の起点から終点までを見渡した構造改革です。この再設計なくして、AIの真価は引き出せません。

【図3】AI前提での経理組織再設計イメージ

まずはPoCで小さな成功体験から始める

AIによる業務改革は、全社展開を最初から狙うほど動かなくなります。技術的な課題、組織的な抵抗、運用面の混乱が重なり、結果として頓挫するリスクが高まるからです。
だからこそ、効果が見えやすい領域に絞ったPoC(概念実証)で“学びながら変える”アプローチが重要です。PoCは単なる技術実験ではありません。AIの得手不得手を把握し、業務設計と役割分担を再定義する検証プロセスなのです。

対象業務の選定では、入金消込、経費精算チェック、月次レポート自動生成など、データとルールが明確で、かつ現場の負荷が高い業務が適しています。評価軸も従来の時間・精度に加え、「経営判断のための時間創出」「例外処理の発生率」「再作業の削減率」「従業員満足度の向上」を設定することが肝要です。

成功の鍵は、現場任せにしないガバナンス体制です。経営層が目的・範囲・移行基準を明示し、ITと経理が週次で進捗を共有する会議体を設けます。データ品質(欠損・重複・名寄せ)、権限管理、監査証跡といった運用面のリスクも事前に洗い出し、対策を講じておきます。また、法務・監査・情報セキュリティ部門との事前すり合わせも欠かせません。

対象範囲は小さく設定し(6~8週間・1業務・限定ユーザー10名程度)、開始前にKPIの基準値を測定しておくことで、効果を定量的に把握できます。チェンジマネジメントとして、現場への目的説明と相談窓口の設置も重要です。得られた知見はプレイブック化し、次のPoCや全社展開の設計図として活用します。こうして“短期の成果”を積み上げながら“長期の変革”へ接続することが、AI導入成功の現実解なのです。

【図4】AI導入の進め方イメージ

AIで始まる経理の構造改革

AI導入が進む一方で「成果につながらない」という声が多いのは、技術そのものではなく、業務設計や組織構造が“人手前提”のまま残っていることが最大の理由です。AIは作業を自動化するための道具ではなく、意思決定の質を高め、人が本来行うべき分析・提言に時間を振り向けるための存在です。そのためには、業務プロセス・組織の役割・判断の基準を、AIが存在する前提で再定義する必要があります。

経理業務の多くは依然としてデータ収集・照合作業に時間を費やしていますが、AIはこの“埋める作業”を高精度で代替できます。重要なのは浮いた時間の使い方であり、「どこまでAIに任せ、人はどこで価値を出すか」をマネジメントが明確にすることです。組織はフラット化し、例外処理や判断中心のモデルに転換することで、経理部門は「過去の数字を整理する部門」から「未来をつくる部門」へと進化します。

その第一歩となるのが、小さなPoCによる“学びながら変える”アプローチです。限定領域で効果とリスクを検証し、役割分担の再設計やガバナンス体制を整えながら成功体験を積み上げることで、初めて全社的な構造改革が可能になります。AI導入の本質は、業務を減らすことではなく、経営の質を高める時間を取り戻すことにあります。

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この記事の執筆者

  • 谷川 深雪
    谷川 深雪
    経営管理事業部
    マネージャー

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