設計頼みのコンカレント開発、やめにしませんか?

開発初期から設計情報を公開することで、製造部門(調達・生技・品証)の業務を同時並行で走らせつつ設計の問題点を早期に発見・修正するコンカレント開発は、90年代から必要性がうたわれており、既に導入されている企業も少なくはありません。
しかし実態は、製造部門はあくまでレビュアーの立場から意見するのみで対応は設計部門任せ、試作後に具体的な要望が提示されて構造を見直す、「設計頼みのコンカレント開発」が主流ではないでしょうか?
 
本稿では手戻りを起こさせない共創型コンカレント開発について紹介した上で、設計頼みのコンカレントから共創型コンカレントへの改革のポイントを3点ご紹介いたします。

共創型コンカレント開発とは

共創型コンカレント開発とは開発にまつわる課題を開発初期から設計部門だけでなく全部門で解決する開発手法です。
前述でもお伝えした通り、ほとんどの企業では、課題解決は設計部門任せにして製造部門は自部門の観点から一方的に要望を突き付けているケースが多く見られます。たしかに性能を満たす構造を描くのは設計部門ですが、より良い製品開発は全部門で作り上げていかなくてはなりません。
例えば生産技術は既存設備を使って、どうやって設計部門が考案した構造を実現できるかを検討すべきで、調達は原価目標を達成できるサプライヤーを探索すべきです。そして製造技術等、様々な制約から課題が生じた場合にはただ設計部門に要望を突き付けるだけではなく、全部門でどのように解決できるか検討すべきです。
また3DモデルやBOMといった設計情報を開発初期から他部門に公開することでより具体的な意見交換が可能となります。
開発初期から部門間で合意形成がなされることで試作後の手戻りを防ぎ開発期間の短縮に寄与できると考えられます。

【図1】共創型コンカレント開発イメージ

コンカレント開発改革のポイント ➀設計着手前に要求仕様を明文化・合意する

共創型コンカレントへ改革するための1つ目のポイントは設計着手前に要求仕様を明文化・合意することです。
ほとんどの企業では既に仕様の合意プロセスは整備されているものの、試作をして初めて部門間での認識の差異が発覚し、設計手戻りとなるケースが多く見られます。この原因として、

  • 部門間での要求仕様の決議が曖昧なまま合意形成がなされる
  • 他部門からの無茶な要望を対応できないままに設計が進む

等があげられます。
手戻りを防ぐためには実現性も加味して取り入れるべき仕様を明文化し、他部門と合意形成する仕掛けが必要となります。
例えば手戻りなく合意形成が図れるように要求仕様とその判断根拠を必ず明文化する、その際に記述が属人的かつ曖昧にならないようフォーマット・記載粒度を定義する、作成した要求仕様書は全部門で合意形成するといったものです。
このような仕掛けは手戻り防止に寄与するだけでなく、全部門で具体的な仕様を意見交換・合意形成している点から全部門で開発を作り込む意識を醸成することにも寄与します。

【図2】要求仕様を明文化・合意形成する仕掛け

コンカレント開発改革のポイント ➁他部門が評価すべきポイントを明確にする

2つ目のポイントは設計情報が公開された際に他部門が評価すべきポイントを明確にすることです。
目的なくただ設計情報を公開しただけでは、他部門から多種多様な指摘がなされ、設計に全てを織り込むことができず、結果的にコンカレント開発が形骸化する恐れがあります。
具体的な運用方法としてはまず構想設計初期に他部門と意見交換する中で当該開発におけるクリティカルな変化点を明確にし、各部門で変化点に対する評価ポイントをリスト化します。設計部門はその後の詳細設計で評価リストを基に設計を進めます。そして設計完了を待たずして設計情報を公開し、他部門は公開された設計情報を、評価リストを基に評価、設計部門へのフィードバックを行います。
評価すべきポイントを明確にすることで、設計部門が多種多様な指摘に埋もれることを防ぐだけでなく、他部門の見るべき視点が限定されるためコンカレント開発に参画するリソースを最小限に抑えることができます。

【図3】他部門の評価ポイントリスト化・運用イメージ

コンカレント開発改革のポイント ③他部門が3Dモデルを確認できる形式に変換する

3つ目のポイントは3Dモデルを他部門でも確認できる形式に変換することです。
前述のように評価ポイントを明確にしたとしても、誰でも構造を容易に把握できる3Dモデルを他部門が確認できなければ共創型コンカレントは成立しません。
CADシステムのライセンスを他部門に配布すれば、3Dモデルを閲覧できるものの、高額なライセンス料が発生するため得策ではありません。
代替策として3DPDFといった3D形状を埋め込んだPDFファイルが近年注目を集めています。
3DPDFは3Dモデルに付与したPMIの付帯情報も確認できるため、他部門は構造だけでなく寸法や加工条件等も参照することができます。
また通常のPDFと同様にコメントを付与することで、正式出図前に3DPDFを介して構造に対する指摘や修正内容を他部門とやりとりすることも可能です。
一方電気設計のように異なるCADと3Dデータで意見交換する場合はSTEPやIDFといった中間フォーマットに変換して情報連携するようなケースも見受けられます。

【図4】他部門が3Dモデルを確認できる形式に変換

まとめ

共創型コンカレント開発とは、開発にまつわる課題を全部門で解決する開発手法です。これを実現するには、全部門で目指すべき仕様を合意形成し、製品仕様から定義した評価ポイントに基づいて設計・評価をすすめることが必要です。また開発初期から他部門が評価できるよう、3Dモデルを誰でも見られる形式に変換することも必要となります。
他部門が製品開発に参加しやすい仕掛けを作ることで、全部門でより良い製品を作り込む意識を醸成でき、共創型コンカレントが促進されます。
開発初期から部門間で合意形成がとられることで試作後の手戻りを防ぎ開発期間の短縮に寄与できると考えられます。

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この記事の執筆者

  • 宮下 剛
    宮下 剛
    SCM事業部
    マネージャー
  • 佐藤 航
    佐藤 航
    SCM事業部
    マネージャー
  • 加藤 美里
    加藤 美里
    SCM事業部
    シニアコンサルタント

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