開発リードタイムの抜本的短縮を実現するための製品開発プロセス改革

シミュレーションの活用など、昨今は開発業務のデジタル化によって、開発リードタイム短縮や効率化に取り組んでいる企業は増えております。
一方で開発業務は、生産や調達、管理部門などの業務と比べて、非常にクリエイティブ性が求められます。また、営業・調達・生産などの関連部門との連携も多く、業務そのものとその流れが複雑であるため、当たり前のように手戻りが発生している企業も多く見られます。
この業務の状態では、いくらデジタル化をしてもリードタイム短縮・効率化の抜本的な効果は得られません。
今回は確実に効果を刈り取るための開発プロセス改革のポイントについてご説明します。

今の時代、製品開発に求められるのはスピード

VUCA※1な時代と言われる昨今、顧客のニーズはこれまでにないスピードで、かつ思いもしない方向に変化しています。
そのような時代の中で、これまで通り販売台数(ヒット率)や目標QCD達成率を最優先に、長い時間をかけて製品を開発しても、上市する際には顧客の興味はすでに変化しており、ヒットせずに終わってしまいます。今後は目標QCDの達成やヒット率といった確実性よりも、スピード、つまり顧客のニーズをぎりぎりまで引きつけて見極め、短期間・低固定費で「いかに競合より早く市場投入するか」が求められています。
そのためには、開発リードタイムを抜本的短縮し、開発効率を高めていく必要があります。
※1VUCA:Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったもので、先行きが見えず、将来予測が難しいことを表します。

【図1】これまでの新製品開発方針・概念を大きく変える必要がある

リードタイム短縮の実現には、まずは自社の実態を可視化する

リードタイム短縮においては、まずボトルネック※1とクリティカルパス※2の特定が必須となります。しかしながら、ほとんどの会社は自社の開発リードタイムの実態をつかめておりません。
ISO、品質保証体系図など、業務の内容を定義したものはあっても、これだけでは、どこにリードタイム短縮の余地があるのか分かりません。
このような課題を解決する方法として、PERT図があります。PERT図とは、プロジェクトマネジメントに用いられる統計ツールで、あるプロジェクトを完成させるために必要なタスクを分析するために使用します。自社の開発にかかわる全部門の業務とリードタイム、工程間の従属関係を図式化することで、タイムライン上のどこがボトルネック・クリティカルパスとなっているのかを視覚的に表現することができます。
まず自社のボトルネック・クリティカルパスを可視化し、他社ベンチマークのプロセスの違いを分析することで、どこを重点的に改善する必要があるかを顕在化することが可能となるのです。
※1ボトルネック:業務における円滑な進行・発展の妨げとなる工程を表します。この工程で業務の滞留時間が発生します。
※2クリティカルパス:業務を進める上で最も時間がかかる経路を表します。他工程の作業時間が短縮されたとしても、クリティカルパスが変化しないと業務全体に要する時間を短縮することができません。

【図2】PERT図を整理し、ボトルネック・クリティカルパスを可視化する

社内の基準や規定にまでメスを入れ、開発業務の根幹から見直す

明らかになったボトルネック・クリティカルパスを分析していくと、長年慣れ親しんだ社内の品質規定や品質基準に起因するものが多く見られます。
開発リードタイムを抜本的に短縮するためには、他社の取組事例などを収集しつつ、客観的な視点で、こうした社内の規定・基準に大きくメスを入れる必要があります。
もちろん、合理的な規定・基準であれば遵守しなければなりません。しかし、日本企業の多くは何十年も前に設定された規定・基準を今の時代に照らし合わせて改定することは少なく、見直す余地は多くあります。
また、規定・基準そのものは変更・廃止できなくても、開発初期の仕様検討段階から、当該製品の顧客要求・使用環境などを明確にし、規定の中に記載されている一つ一つの試験項目・条件・判定基準などを柔軟に変更する運用にすることで、リードタイム短縮を実現したケースもあります。
すなわち、開発プロセスとして長期間守り続けて社内文化・常識と化している見えないしがらみを、目的論に立って取り除くことができれば、品質を維持したまま、開発リードタイムは十分短縮できるのです。

【図3】規定・基準にまで大きくメスを入れ、リードタイムを短縮

手戻り削減のために、形ばかりの部門間連携を改める

リードタイム短縮のもう一つのポイントは手戻りの削減です。開発手戻りの多くは、部門間の際が原因で発生します。
製造業各社は、設計の上流段階で適宜、各部門と仕様・試験・評価項目・製造要求を合意するプロセスを設けています。
しかし、合意したにもかかわらず、設計の最終段階で試作した実機を見てから、各部門から、いろいろな指摘が入ることで、大きな手戻りが発生することは多くあります。これは現状の合意形成は曖昧な確認のまま、プロセスだけが流れていることの証左と言えます。
いくら、関係部門を巻き込んで進めたとしても、それでは真のコンカレント開発とは言えません。
この場合、開発手戻りを削減するためには、合意プロセスを変えるだけではなく、部門間の際の情報・合意する仕掛け(意思決定者・会議体)を含めて見直すことが重要です。具体的には文字のみの文書で内容を確認するだけでなく、各部門が一堂に会して同じバーチャルデータを共有しながら、その場で意思決定することで、手戻り工数が80%以上削減した事例もあります。

VUCAな時代に開発業務のデジタル化が叫ばれる中、思ったようにリードタイム短縮の効果を得られない会社は多くあります。そんな時こそ、品質保証の規定・基準や、部門間の合意形成プロセスを見直すことによる、製品開発プロセスの革新が重要です。

【図4】部門間の際の情報・合意する仕掛け(意思決定者・会議体)を見直す

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