AI時代の基幹システム刷新戦略(後編)
この記事の要約
AIが急速に進化を続けるいま、その優位性を活かした基幹システム刷新戦略が求められます。ERPに適合せず取り残されたままのレガシーシステムのモダナイゼーション、特化型AIエージェントによるリアルな業務量削減と生産性向上、数値データ・結果データ主体のデータ基盤から、知識やノウハウを活用するための非構造化データ基盤への発展、という3つの戦略について紹介します。なお、前編では1を解説しました。後編となる本記事では、2・3を取り上げます。
1.ERP一択に変わるレガシーシステムモダナイゼーションのアプローチ(AI駆動開発によるROI向上、ストラングラーフィグパターンとMDMによる新旧併存・段階移行)
2.基幹システムやERPの前後処理、隙間業務の特化型AIエージェントによる自動化・省人化
3.データ活用から知識活用への進展(ナレッジグラフによる非構造化データの活用)
AI時代の基幹システム刷新戦略(前編) では、ERP以外の選択肢となるレガシーシステムのモダナイゼーションのアプローチやAI駆動開発についてご紹介しました。
後編となる本記事では、刷新戦略のランドスケープ全体のリターンを高めるためのERPや、基幹システムの前後や隙間業務へのAIエージェントの適用による自動化、企業の知識やノウハウが詰まった非構造化データの活用アプローチについてご紹介します。
AI時代の基幹システム刷新戦略
本シリーズでは、AI時代の基幹システム刷新戦略として、次の3つの観点から考察しています。
1.ERP以外の選択肢はあるのか(前編)
2.AIをどのように使っていくのか(後編)
3.データ活用から知識活用へ(後編)
本記事では、「2.AIをどのように使っていくのか」と「3.データ活用から知識活用へ」について解説しています。
2.AIをどのように使っていくのか
少し話はそれますが、昨今、AIによる大規模な人員削減のニュースをたびたび目にします。特に海外の大規模コンサルティング会社やソフトウェア開発会社では、数千名規模での削減が公表されています。こうした労働集約的な企業では、従来、売上規模の拡大には人員数の拡大が必要でしたが、AIにより売上成長と人員増加をデカップリングさせる、成長のドライバーを人員ではなくアウトプットに変えるといった動きだと思います。
こうした現象は労働集約的な企業に限らず、それ以外の企業でも起きつつあるのではないでしょうか。例えば、メーカーなどの営業であれば、一人当たりの売上や担当顧客件数の目安があって、それらを前提に収支計画や、販売予算を組んでいたり、コールセンター業務でも、一人当たりの受電件数が人員計画の基準値に使われていたりしますが、AIはこの算式を根本的に覆しつつあります。単に人間の仕事を代替するというよりは、人間一人ひとりのスループット、処理能力、アウトプット量を、飛躍的に向上させるといった見方のほうが相応しいのではないかと思います。
基幹システム周辺でのAIエージェント活用
基幹システム刷新やERP導入をしても、結局人手が減っていない、定量的な成果がほとんど得られていない企業は多くあるようです。基幹システムやERP自体は人間の仕事を代替したり、減らしたりはしません。むしろシステム外のスプレッドシート等による前処理や後処理、隙間業務を残したり、新たに生み出したりします。
ERP等では、入力補助や自動化、操作ガイドといったAI活用パターンをよくみかけますが、システム外の前処理や後処理、隙間の人手業務や運用業務を、AIエージェントにより自動化し、業務オペレーション全体の軽量化、少人化を図るという活用パターンも必要なのではないでしょうか。おそらくそうした業務は比較的手順や判断が単純で、AIエージェント化しやすいのではないかと思います。
また、自動化の余地が大きい業務も多いようで、レイヤーズ・コンサルティングが開発した基幹システム周辺の経理関連業務では、AIエージェント化によって9割以上の工数削減を実現した事例もあります。
現時点においては、広範な業務をカバーする汎用的なAIエージェントではなく、アウトプットやロジックが明確で限定されたタスク単位で作るほうが実践的といえます。概念上は自律的な計画作成や評価といった能力がAIエージェントの特徴であり、ワークフローシステムやRPAとの違いともいわれますが、計画や評価の精度、信頼度をあげるためには相応の時間や労力がかかるので、複雑な計画や判断は、人間にエスカレーションさせてしまったほうが現実的だと思います。
細々とした業務の一つひとつについて、アドオンでも手作業でもなく、特化したAIエージェントによって自動化する、それによって基幹システム投資のROIを実現するというアプローチです。
【図1】基幹システム関連AI活用パターン
3.データ活用から知識活用へ
基幹システムやERPのデータを抽出、蓄積したデータ基盤は、すでに多くの企業で構築されています。データの質や量の面で不十分であったり、統計・分析ができる人材が足りていなかったりといった課題はありながらも、業務上の判断や意思決定に活用されてきています。
とはいえ、基幹システムやERPが蓄積しているデータは、過去の取引や業務活動の結果に関する数値データや、コード化、定型化された属性でしかありません。こうしたデータは統計的な処理を加えて傾向や特性を導き出すのには有効ですが、結果の背景にある業務上の事象や判断といったコンテクスト情報は含まれていません。
企業内に存在するデータの80~90%は、基幹システムには保持されていない非構造化データであるといわれています。営業報告、設計図面、消費者からのコールログ、現場や設備の写真画像といったマルチモーダルなデータにこそ、知識やノウハウが詰め込まれています。そして企業の競争力や差別化の源泉になっているのは、こうした知識やノウハウであるに違いありません。
AIによる自然言語処理や画像解析、クラウドコンピューティングや半導体技術の急速な進化により、いままでは技術的にもコストパフォーマンス的にも困難であった非構造化データの蓄積・活用が、すでに現実的なものとなっています。基幹システムやERPから抽出した結果に関する構造化データと、マルチモーダルなデータソースから抽出したコンテクストや知識、ノウハウに関する非構造化データの両方を活用していくことが、今後の基幹システム刷新戦略の要諦の一つになると考えます。
【図2】非構造化データの活用基盤構成イメージ
非構造化データの活用方法:ナレッジグラフ
例えば、ある建設現場で施工不良が発生したとします。施工状況は写真撮影され画像ファイルで保存されます。クレームや対応の経緯はコールセンターログとして記録され、不良の状況や原因、対処方法は報告書に、作業工程や担当者は工程表や作業計画書、施主との契約条件は契約書に記載されています。さらに対応にかかった費用はERP内の伝票となっているはずです。
もし、他の現場で不良が発生した際、原因の推定や対応コストの見積もりのため、過去の事案を検索したい場合、どうしたらよいでしょうか。それぞれの媒体、データソースを別々に検索し、組み合わせるというのでは膨大な労力がかかってしまいますし、人間の認知能力は膨大なデータを組み合わせて見ることには適していません。
こうした非構造化データを活用していくためのアプローチとして、近年注目されているのがナレッジグラフです。
このアプローチでは、非構造化データソースから、業務上の意味のあるエンティティを抽出し、一つひとつのエンティティ間の関係性を定義して、グラフDBに格納します。活用段階では、生成AIと組み合わせ、「コンクリート基礎でのひび割れが発生した場合の原因や対処方法、対応コストを教えてください。また、作業工程上の注意すべき点は何なのでしょうか。」といったようなプロンプトに対して、あたかもベテラン社員が答えるように回答を与えてくれます。
ナレッジグラフが従来の生成AIの拡張検索(RAG)と異なるのは、RAGが文章をチャンクに分解し、数値化(ベクトル化)して、ベクトル値の近さだけで検索するのに対して、ナレッジグラフでは、対象となるデータから意味のあるエンティティとその関係性を抽出しておき、その関係性、つながりに沿って検索することができるという点にあります。RAGでは、ハルシネーションや精度(人間との感覚的なずれだと思います)が問題となるケースが多かったのですが、ナレッジグラフでは、大きく改善される可能性があるといわれています。
【図3】ナレッジグラフのイメージ
ナレッジグラフの基本原則
ナレッジグラフの基本原則は、明確な目的の定義といわれています。ナレッジグラフでは汎用的でアドホックな検索はできません。過去の設計資産の活用とか不具合原因の探索といった特定のユースケースに特化されます。そしてユースケースや目的に応じて、入力対象となるデータソース、抽出すべきエンティティ、関係性の持ち方が変わります。
ナレッジグラフは、特定の業務に関する知識やノウハウを体系化したものです。決められたオントロジー(概念)の境界線を越えるようなプロンプトに対しては有効な回答は得られません。
例えば、施工不良に関するナレッジグラフでは、見込顧客のライフスタイルに応じた間取り提案はできません(ただし、施工不良の原因が間取りにあるようなケースは除きます)。
不良原因分析でも類似設計探索でも、ベテランの頭の中には重視するポイントと、それに関係した情報やロジックが詰まっています。そうした頭の中を、エンティティと関係性という形式で外在化し、検索可能にするというのがナレッジグラフのアプローチだと思います。
終わりに
本記事でご紹介したAI駆動開発やAIエージェント、ナレッジグラフといったアプローチは、突然発生したものではなく、呼び名は変わっていても、過去何年にもわたって研究されてきたテーマだと思います。実用には遠く及ばなかったものが、この数年のAIの技術進化によって現実味を帯びはじめ、実用化されはじめています。基幹システムの刷新はERPを入れたばかりだから、当分はそのままでよしという安心、安息感は持てない時代になっています。
レイヤーズ・コンサルティングでは、お客様の継続的なレベルアップを目指して、画一的ではない、お客様への最適な刷新戦略の策定、現実的で最適なソリューションの選定、地に足の着いた最新技術の導入といった支援をご提供しています。ERPを導入すべきか、モダナイゼーションすべきか、ERPでカバーできないレガシーシステムをどうしたらよいか、実効性のあるAI活用にはどうしたらよいかといった具体的な課題や今後のシステム戦略につきまして、数週間から数か月のご支援で、貴社にとっての最適解をご提示いたします。ご検討を始められる際には、ぜひご一考いただけましたら幸いです。
【出典・引用文献】
・独立行政法人 情報処理推進機構 「DX動向2025」
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この記事の執筆者
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