AI時代の基幹システム刷新戦略(前編)

この記事の要約

AIが急速に進化を続けるいま、その優位性を活かした基幹システム刷新戦略が求められます。ERPに適合せず取り残されたままのレガシーシステムのモダナイゼーション、特化型AIエージェントによるリアルな業務量削減と生産性向上、数値データ・結果データ主体のデータ基盤から、知識やノウハウを活用するための非構造化データ基盤への発展、という3つの戦略について紹介します。なお、前編では1、後編では2・3を解説します。

1. ERP一択に変わるレガシーシステムモダナイゼーションのアプローチ(AI駆動開発によるROI向上、ストラングラーフィグパターンとMDMによる新旧併存・段階移行)

2. 基幹システムやERPの前後処理、隙間業務の特化型AIエージェントによる自動化・省人化

3. データ活用から知識活用への進展(ナレッジグラフによる非構造化データの活用)

生成AIの急速な進化によって、基幹システム刷新戦略も大きく変わりつつあります。20年以上に渡り、標準化やFit to Standardを基本方針としたERP導入や、ERPデータの活用基盤構築等が定石でした。
しかし、ERPに適合せず、ROIも見出せないレガシーシステムが残っていたり、ERPの前後や隙間業務をスプレッドシート等で対応したりしていることも多いのではないかと思います。また、ERPから提供される財務や取引のデータには、競争力の源泉となる知識やノウハウはほぼ含まれていないため、意思決定や判断には結び付けづらいといった課題も残っています。
前編となる本記事では、AI時代の基幹システム刷新戦略として、ERP以外の選択肢、AI活用機会、知識活用の3点についてご紹介します。
(AI時代の基幹システム刷新戦略(後編)では、刷新戦略のランドスケープ全体のリターンを高めるための、ERPや基幹システムの前後や隙間業務へのAIエージェントの適用による自動化や、企業の知識やノウハウが詰まった非構造化データの活用アプローチについてご紹介します。)

基幹システム刷新の課題

2018年に経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」。現在になっても、未だに対応できていない企業が多く残っています。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が発行したDX動向2025によると、日本の調査対象企業1,516社のうちの約29%が、ほとんどまたは半分以上の領域においてレガシーシステムのまま、さらに34%は一部領域にレガシーシステムが残っているとされています。
また、基幹業務にERPを導入している企業も多数ありますが、経営改革やROIの観点からは期待した成果に到達できていないと考えている企業も多いようです。さまざまな調査結果がありますが、十分な成果を得られているとする企業の割合は概ね20~30%、多くても半数は超えない程度です。
基幹業務プロセスは、外部との取引慣行、業界慣習だけでなく、社内の設備や組織、ビジネスルールによって規定されているため、抜本的に変えることは難しく、ERPを入れたり作り直したりしても、差分の利益、すなわち業務コスト低減が生まれづらいともいえます。

AI時代の基幹システム刷新戦略

AIが急速に進化し続ける時代に、基幹システム刷新にあたり、どのような戦略が実現可能で、かつ最終目標となるROIを高めることができるのでしょうか。本シリーズでは、AI時代の基幹システム刷新戦略として、次の3つの観点から考察しています。

1. ERP以外の選択肢はあるのか(前編)
2. AIをどのように使っていくのか(後編)
3. データ活用から知識活用へ(後編)

本記事では、「1.ERP以外の選択肢はあるのか」について解説しています。

1. ERP以外の選択肢はあるのか

日本企業がERPを利用し始めてから、およそ四半世紀が経ちましたが、この間、基幹システムの選択肢は、ほぼERP一択となってきました。ERP標準機能に合わせることで合理化、効率化が進むというユーフォリアに対して、カスタム開発は生産性の低さやリスクコントロールの難しさから、事実上アンチパターンとされてきました。
とはいえ、ERP標準への適合性が高い業務、業態や、グローバルにビジネスを展開している企業にとってはまだしも、ERPには適合しない業務や業態を持つ企業、内需中心の企業にとっては、ERPをやみくもに導入することはアドオンも増え、高コストとなり、業務効率すらもかえって下げかねないという懸念もありました。残されたレガシーシステムの多くは、刷新の必要性があっても、簡単にERPというわけにはいかないものも多いでのはないかと推測されます。

レガシーシステムのモダナイゼーションを阻むハードル

ERPが適合しない、基幹業務プロセスがあまり変わらない企業にとっては、高いコストや業務負荷をかけてまでERPを入れるよりも、現在のシステムをモダナイズし、継続的に使っていくことができれば、投資負担とリスクの低減にもつながるはずです。とはいえ、この方法には高いハードルがありました。
まず、数十万、数百万ステップといった大量のコードを、一度にすべてを作り直すためには、膨大な分析と開発作業が必要、しかも密結合、モノリシックになっているため、機能分解や工程分解が困難というハードルです。
加えて、スパゲッティ状態のデータインタフェースを移行段階ごとに、新旧システム間でつなぎ直していくといった作業も必要となりますし、新旧システム間での顧客コードや商品コードといったマスターの持ち方や整合性も維持していかなくてはなりません。マスターも新しくしたいものの、レガシーシステムでの影響範囲がわからず、怖くて手を付けられないし、膨大な箇所を直さなくてはならない、といった問題にも直面します。
これまでハードルを乗り越えるための有効な手段がなく、仕方なくクラウドリホストだけでレガシーシステムを使い続けている企業も多いと思います。しかし、近年急速に進化しているAIは、レガシーシステムのモダナイゼーションのための有効な手段にもなり、刷新戦略としての現実性、実効性を明らかにしつつあるといえます。

【図1】レガシーシステムのモダナイゼーションを阻むハードルと今後のアプローチ

モダナイゼーションのためのアプローチ

AI駆動開発

システム開発におけるAI利用は、既知のとおり、単なるコード生成、変換から、開発プロセス全体を自動化、効率化するAI駆動開発へと進化しています。システム開発において、コーディングが占めるウェイトは20~30%であって、必ずしも大きくありませんし、技術的な難易度も相対的に低い工程です。労力やスキルを求められ、かつモダナイゼーションの成否を左右するのは、現行コードやドキュメントの解析、ビジネスルールや鍵となる仕様の抽出、新アーキテクチャーにあわせた再設計、新旧システムを跨いだテストケースの作成と実行といった工程です。大手ベンダーからはAI駆動開発のプラットフォームが提供されており、米国企業を中心に、開発生産性を大幅に向上させた事例も公開され始めています。日本企業においても、時間差はあるでしょうが、導入されていくと予想されます。
AI駆動開発によって、ERP一択ではなく、カスタム開発によるモダナイゼーションというアプローチも、現実的なものになりつつあるといえます。

ストラングラーフィグパターン

ストラングラーフィグパターンというのは、マーティン・ファウラーという世界的に著名なソフトウェアエンジニアが2004年から提唱しているアプローチです。イチジク(フィグ)が、「宿主の木を外側から包み込むように成長し、最終的にその木を枯らして(ストラングラー:絞め殺し)自立する」という生態になぞらえて、「古いシステムの周囲に新しいシステムを少しずつ構築し、最終的に古いシステムを完全に置き換える」という比喩として名付けられました。元々はリファクタリングの手法とされていましたが、近年ではモダナイゼーションにおいて、段階的に新システムへの移行を進めていくためのアプローチとして注目されています。
このアプローチでは、まずファサードと呼ばれるプロキシ層を、API Gateway等を用いて構築します。
ファサードは、ユーザーやシステムからのリクエストを新旧システム、新旧機能にルーティングに振り分けします。レガシーシステムが古くてAPI連携ができない場合には、ESB(エンタープライズサービスバス)でラッピングするなどして、プロトコル変換やコード変換を行います。
新旧システムが併存できる環境を構築したうえで、ある程度時間をかけて新システムを開発し、旧システムから徐々に移行をしていきます。このアプローチの鍵となるのは、一気にすべての解析、移行を目指さずに、切り出しやすいターゲットを決めて、そこから解析、移行をし、繰り返すという局所的でディスカバリーな進め方をすることにあります。密結合、モノリシックなシステムの切れ目を見つけて切り出す範囲を決めるのはもちろん難しさもありますが、イベントの流れやデータの依存関係、データフロー、利用状況等を分析したうえ、AIも使いながら関連するコードのみから解析していくといった作業になるかと思います。

MDM(マスターデータマネジメント)

新旧システムを併存させる場合には、マスターファイルが重複することになります。新旧マスター間で正副を決め、片方向の同期化をイベント駆動やAPI連携で取っていく方法もありますが、MDM基盤を構築して、主要なマスターは基盤上のものを正とするアプローチもあります。すでにMDMを導入している企業も多いと思いますが、日常運用に限らず、システムを入れ替えたり、新規開発する際にも役立っていたりすると思います。
新旧マスターでのコード体系やコード構造、ビジネスルールの違いは、変換機能をアプリケーションシステム内ではなく、MDM周辺に構築するのではないかと思います。
MDMにおいても、AI活用が進んでいます。レガシーマスターの解析や、名寄せやクレンジング、欠損や重複、異常の検知等にも有効とされています。

【図2】ストラングラーフィグパターンによる移行イメージ

終わりに

ここまで、ERP以外の選択肢となりうるモダナイゼーションのアプローチやAI駆動開発についてご紹介してきました。本来の目的が不明瞭となり、ERP導入自体が目的化してしまったり、表面上の標準化やFit to Standardを掲げたままだったりするプロジェクトも散見されます。
レイヤーズ・コンサルティングでは、ERP等のシステムベンダーと中立の立場で、お客様にとって最適なシステムとなるよう、基幹システム刷新の戦略や計画づくりをご支援しています。取り残されたレガシーシステムをどうしていくべきか、ご検討を始められる際には、ぜひご一考いただければ幸いです。

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