変革できない企業は生き残れない
~ダイナミック・ケイパビリティとは(後編)~

今日の世界は、VUCAと呼ばれる不確実な時代です。
こうした世界で企業は変化し続けなければ生き残れません。変化し続けるということは、環境が目まぐるしく変化する中で、常にイノベーションを生み出し、そのイノベーションで変化を乗り切るということです。
 
今回は、VUCA時代において、イノベーションを生み出し、変化し続ける経営を実現するポイント(後編)をご紹介します。

ダイナミック・ケイパビリティとは

「ダイナミック・ケイパビリティ論」は、デイヴィッド・J・ティース教授によって提唱された経営理論です。企業のケイパビリティは、「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」と「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」の2つがあります。
前編では、2つのケイパビリティの違いを比較しながら、ダイナミック・ケイパビリティをご紹介しました。
 
ダイナミック・ケイパビリティは、環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力(企業変革力)のことであり、今日のように世界の不確実性が急激に高まっている時代において、有効な経営理論としています。
 
ティース教授は、「正しいことを行う」能力であるダイナミック・ケイパビリティには、3つの能力があるとしています。
 
感知(Sensing:センシング)
環境変化に伴う脅威や機会を感じとる能力
 
捕捉(Seizing:シージング)
機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力
 
変革(Transforming:トランスフォーミング)
競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変革する能力

【図1】ダイナミック・ケイパビリティの3つの能力の関係

つまり、ダイナミック・ケイパビリティは、外部環境と自らのGAPを検証し、GAPがあれば(感知)、そこに新しい機会を見出し(捕捉)、自らを変化(変革)させていく外向きの能力といえます。

日本企業がイノベーションを起こせない理由

慶応義塾大学商学部・商学研究科の菊澤 研宗教授は、日本企業が変革の必要性を感じながら、大胆なイノベーションに取り組めない理由として、オーディナリー・ケイパビリティ(コストを削減し、利益を最大化するように効率化する内向き能力)の成功体験により、内向きの傾向が強いことを指摘しています。
 
また、変革に伴う下記の3つのコストが余りに大きい場合、「今に問題があっても、現状を変えない方が、経済的合理性が高い」と判断し、保守的な経営や組織の硬直化を招くと指摘しています。
 
埋没コスト:これまでの投資が無駄になる
機会コスト:現状のままで得られる利益(逸失利益)
取引コスト:社内の調整にかかるコスト
 
ダイナミック・ケイパビリティは、これらのコスト以上にプラスを生み出すような変革、つまり既存の資産を再構成・再配置・再利用(オーケストレーション)する企業家的な能力といえます。

共特化とは何か

ティース教授は、ダイナミック・ケイパビリティによる既存の資源の再構成の原理として「共特化(co-specialisation)」の原理を主張しています。共特化の原理とは、2つ以上の相互補完的なものを組み合わせることによって、化学反応のように新たな価値を創造することです。
 
【共特化の例】

  • 自動車とガソリンスタンドの関係
  • 美術館と館内カフェの関係
  • コンピュータのオペレーティング・システムとアプリケーションの関係
  • クレジットカードとそれを利用できる店舗の関係

最近では、デジタルツイン(現実空間にある膨大な情報をデジタル化して、デジタル空間に再現する仕組み)に代表されるようにモノや情報、ソフト、サービスがデジタル化され、組み合わせることが容易になってきています。「プラットフォームビジネス」も共特化の原理を活用したビジネスモデルといえます。
従って、日本企業がイノベーションを起こすためには、この共特化原理を活用することが重要です。

ダイナミック・ケイパビリティは、どこに宿るのか

ダイナミック・ケイパビリティは、未完の経営理論です。従って、ダイナミック・ケイパビリティが誰に宿るのかは諸説があります。ここでは、2つの考え方を紹介します。
 
アイゼンハート型は、シンプル・ルールなど組織のルーティンに埋め込むことを強調するのに対し、ティース型は、組織のルーティン化に重きを置かず、少数の個人(経営者)に宿ると考えます。

【図2】ティース型とアイゼンハート型のダイナミック・ケイパビリティ

以上のように、今回は環境や状況が激しく変化する中で、企業がその変化に対応して自己を変革する能力(企業変革力)としてのダイナミック・ケイパビリティのポイント(後編)をご紹介いたしました。詳細については是非お問い合わせください。皆様とともに、今日のような不確実性が急激に高まっている時代における企業変革を進めて参りたいと思います。
※今回のダイナミック・ケイパビリティは、あくまで著者の解釈であることはご容赦ください。
 
参考文献
D・J・ティース「ダイナミック・ケイパビリティの企業理論」
経済産業省「2020年版ものづくり白書」
入山 章栄「世界標準の経営理論」

この記事に興味をもったらメールで送信して共有! ×

この記事の執筆者