VUCA時代のイノベーションの起こし方
~ウサギとカメ、どちらを選ぶか~

今まさにイノベーションの時代を迎えていると言えます。以前は、イノベーションは経営戦略の中の一要素と捉えられていましたが、昨今のVUCAと言われる環境ではイノベーションが経営戦略そのものだとも言われるようになってきております。では、このイノベーションを如何に起こせばいいでしょうか。
今回は、急進的イノベーション(ウサギ)と漸進的イノベーション(カメ)の起こし方をご紹介します。

今まさにイノベーションの時代

シュンペーターが『経済発展の理論』でイノベーションを唱えてから100年以上経ち、今まさにイノベーションの時代を迎えていると言えます。

シュンペーターは、経済変動を企業家の起こす不断のイノベーションから説明し、この中で新結合が現れる、即ち既存の知と知の新しい組み合わせで「新しい知」が生まれるとしています。

また、イノベーションは新たな価値の創出であり、5つのタイプに分類しています。

① 新しい財貨の生産
② 新しい生産方法
③ 新しい市場の開拓
④ 新しい供給源の獲得
⑤ 新しい組織の実現

このようにイノベーションは、新たな価値を創出することです。その価値が大きければ大きいほど、革新的イノベーションと言われています。今日では全ての企業において、サステナブルな企業価値向上を果たすためにイノベーションが求められていると言えます。

では、このイノベーションを如何に起こせばいいでしょうか。イノベーションの起こし方には、下記の2つがあります。

・急進的イノベーション(ウサギ)
・漸進的イノベーション(カメ)

急進的イノベーション(又はエクスポネンシャル・イノベーション)をいかに起こすか

ぶっ飛んだ目標を立てる

急進的イノベーション(又はエクスポネンシャル・イノベーション)は、短期間に大きな価値創造を行うことです。急進的イノベーションを起こすためには、今までとは全く違う前例のないぶっ飛んだ目標を立てることから始まります。いわゆる、アポロ計画の人類月面着陸からきた「ムーンショット(Moon Shot)型目標」の設定です。

こうしたぶっ飛んだ目標を立てろと言われてもピンとこない場合は、今やっていることを10倍又は1/10にしたらどうなるかを考えるのも一つです。そうすることにより、今までに思いつかなかった目標が見つかるはずです。

【図1】10倍又は1/10からの目標設定のアプローチ

リードタイム1/10にチャレンジしてみる

こうした高い目標設定で当社が特に推奨しているのが、「リードタイム(L/T)を1/10にする」ことです。これは、どんな会社、どんなビジネス、どんな業務であっても共通するテーマだからです。

【図2】リードタイム短縮の経営的効果

L/Tを1/10にするためには、徹底したお客様志向で、バリュー・チェーンそのものを抜本的に見直さなければいけません。これにより大きくビジネスモデルを変えたのがAmazonです。翌日配送やクイックデリバリーは、最早Amazonの代名詞になっているほどです。江戸時代の魚屋一心太助がお得意様の好み、習慣、出来事などを考えて最良の魚を仕入れ、お得意様の軒先まで持って行って買ってもらうのは、ある意味クイックデリバリー・ビジネスモデルの究極かもしれません。

日々の仕事の中でも考える

急進的イノベーションは、技術開発領域や事業開発領域だけに必要なことではなく、日々の仕事の中でも必要です。例えば、Googleでは、10xといって「現状の10倍の成果が出るように考える」ことが求められています。10倍で考えると、仕事がルーティンにはならず、飛び抜けた発想で考えなければいけません。そのために、まずは自分の前提や固定観念を破ることが求められるからです。

AI等のデジタルテクノロジーの進化で、今の仕事は半分以上なくなると言われています。その中でホワイトカラーが生き残るためには、イノベーションを起こすことが自らの使命であることを認識しなければいけません。例えば、経営企画部門では××年後に新規事業分野が10%→80%にするM&A戦略は何か、財務部門では ××年後に企業価値を10倍にするための財務戦略は何か、人事部門では××年後に労働生産性を10倍にするための働き方改革は何かを考えて、改革を推進していくことが必要と言えます。

イノベーションを阻害する「カベ」を打ち破る

イノベーションを起こすためには、様々な「カベ」を打ち破る必要がありますが、これは個人の力では難しい場合が多いと言えます。従って、経営者は自社のイノベーション力の無さを嘆く前に、社員のイノベーションを妨げている「カベ」が何かをいち早く見つけ出し、自らリーダーシップを持って「カベ」を取り除くことが必要ではないでしょうか。

漸進的イノベーションを如何に起こすか

オペレーション・エクセレンスを徹底的に行う

漸進的イノベーションは、日々のカイゼンの中で起こります。オペレーションを徹底的に磨き上げるオペレーション・エクセレンスによって起こるともいえます。

味の素では、「味の素グループのデジタル変革」の中で、「オペレーション・エクセレンスは、競争優位を生み出すために、個人とチームが共成長しながら、顧客起点の問題解決と価値創出のために全てのオペレーションを徹底的に磨きあげるという考え方・手法に基づく継続的な変革活動」とし、全てのDXステージにおいてオペレーションを磨き上げ、レベルを継続的に高めていくことを宣言しています。

モチベーションが上がる仕事に創り変える

こうしたカイゼンや磨き上げが継続的に行われるためには、何をすればいいでしょうか。先ずは、社員のモチベーションを向上させることが不可欠になります。社員のモチベーションが無ければ、仕事に対する創意工夫など生まれず、カイゼン活動も継続していきません。

しかし、世界でも下位にいる日本のモチベーションをどうすれば向上させることができるでしょうか。それは、仕事そのものをモチベーションの湧くものに創り変えることです。当社の経験では、ホワイトカラーの「思考分析の時間」は10-20%程度であり、半分以上を「作業や資料作成の時間」に費やしています。

【図3】ホワイトカラーの仕事の中身の典型的パターン

これでは生産性は一向に向上しません。こうした時間を、「付加価値を生む時間」に変えていくのです。即ち、IT等を使って作業等を徹底的に無くし、会社の未来を創っていく付加価値のある仕事にシフトしていくことです。

モチベーションと仕事の相乗効果で組織を変革する

社員の「モチベーション」と「付加価値のある仕事」は非常に相関性が高く、「付加価値のある仕事」を行うほど「モチベーション」が高くなります。即ち、良い製品を作ってお客様に喜んで欲しい、良いサービスを行ってお客様に感動を与えたい、といったことに直接結びつく仕事は何かを明らかにし、そこに集中すればするほど「モチベーション」が高まり、それ以外の仕事に対しても、どうすれば良いかを自分事で考えるようになります。

従って、社員を付加価値のある仕事に集中させることは、生産性の向上のみならず、「モチベーション」の向上につながり、更なる生産性向上が期待できます。そして、それが究極に高まった時に、常に漸進的イノベーションが起こせる組織に変革できたといえます。

【図4】モチベーションと生産性の面からの2つの天使のサイクル

この漸進的イノベーションを実現している企業がキーエンスと言われています。キーエンスでは、徹底した顧客志向で顧客課題の発見力・解決力を組織的に磨き上げ、結果として営業利益率55%、平均年間給与1,751万円を誇っています。スタープレーヤーに頼るのではなく、一人ひとりがオペレーション・エクセレンスを磨き上げて行動した結果と言えます。

漸進的イノベーションは、組織全体として絶え間ない工夫やカイゼンの積み重ねが必要とされるため、一朝一夕にはできません。しかし、どんな会社であっても取組むことができるイノベーションの起こし方とも言えます。

【事例】明日の仕事プロジェクト

ある会社では、仕事をもっと付加価値のあるものに創り変えようとする取組みが始まりました。まず初めに今の仕事は『今日の仕事』として「すぐにやめたほうがいい業務」と「今実行できている業務」に分けました。次に「本来やらなければいけないが実行できていない業務」は『明日の仕事』として定義しました。

そして、『今日の仕事』は徹底的に廃止・効率化し、創出された時間を『明日の仕事』に2/3、『好きな仕事』に1/3を振り向けることにしました。『好きな仕事』は、他の部署の仕事でも自分の自己研鑽でも社員の好きなように使ってよい時間です。

『明日の仕事』や『好きな仕事』の時間を作るために、積極的に創意工夫を積み重ね、時には古い慣習の変更を経営層に提言しました。その結果、『今日の仕事』の4割程度を削減できました。また、管理部門の社員が『好きな仕事』の時間で考えた商品アイディアがヒットするなど、部門を超えた知の交流や知のファイティングが活発化し、全社的なモチベーション向上や営業利益率向上につながっています。

巷では「日本企業に足りないものはイノベーションだ」と言うことがよく聞かれます。長年それが出来なかったことには様々な原因があると思います。しかし、兎も角にもイノベーションを起こさなければ始まらない、失われた30年は取り戻せないということは紛れもない事実です。

急進的イノベーション(ウサギ)と漸進的イノベーション(カメ)、皆様はどちらでイノベーションを起こしていくことを選択しますか?もちろん両方を追うこともできます。是非皆様と一緒にイノベーションを起こし、日本企業のビジネス・トランスフォーメーションに貢献して行きたいと思っております。

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