人的資本経営の第二波到来に備える【前編】

◆この記事の要約

人的資本経営の第二波が到来しています。2026年3月は、改訂版の人的資本可視化指針が公表されており、レイヤーズ・コンサルティングは以下4点がその主なポイントと考えます。
 
① 経営戦略と人材戦略の連動の考え方の明確化
② 人的資本投資の重要性の明確化
③ 国際基準と整合した開示の要請
④ ステークホルダーとしての労働市場の明確な位置付け
 
うち人的資本投資は、初版では特に言及がなかったものの、改訂版では強調されています。そこでレイヤーズは、各社の人的資本投資において「なぜ人的資本に投資するのか」「人的資本の何に投資するのか」「適正な人的資本投資とは何か」を、経営・事業戦略の実現に向けて実践・開示する必要があると考えます。また、「人的資本可視化指針(改訂版)が掲げる重点投資テーマ(スキル、処遇、健康・働きがい、女性活躍、ダイバーシティ)に加えて、中長期視点よりリーダーシップとテクノロジー・AIへの投資も不可欠と考えます。

有価証券報告書における人的資本開示の様式変更や、サステナビリティ開示の国際基準であるISSB S3の公表等、人的資本経営の第二波が到来しています。背景には、企業の競争力を左右する要素が、技術や資本を活かす「人」と「組織」の力へと大きくシフトしていることがあります。そこで本記事は、2026年3月に改訂・公表された「人的資本可視化指針」について、改訂のポイントと人的資本投資の重要性を、我々レイヤーズの事例を交えながらお伝えします。

改訂版人的資本可視化指針のポイント

2026年3月、内閣官房、金融庁および経済産業省は「人的資本可視化指針(改訂版)」を公表しました。改訂の背景には、人的資本投資の重要性が高まっていること、国内における有価証券報告書での人的資本開示の様式変更や、グローバルにおけるISSB S3基準の公表等、人的資本開示の高度化が求められていること等が挙げられています。人的資本可視化指針の改訂における主なポイントは、下記のとおりです。

① 経営戦略と人材戦略の連動の考え方の明確化:
「人的資本への依存・影響」と「人的資本関連のリスク・機会」のステップを介して、経営・人材戦略の連動を示すことが推奨されました。

② 人的資本投資の重要性の明確化:
人的資本投資額の対名目GDP比率が約0.22%と諸外国を大きく下回っている現状と、人的資本投資の重要性が強調されました。

③ 国際基準と整合した開示の要請:
ISSB等の国際的な開示基準との整合に向け、「ガバナンス」・「戦略」・「リスク管理」・「指標と目標」の4つの枠組みで開示することが求められました。

④ ステークホルダーとしての労働市場の明確な位置付け:
労働市場における競争環境の変化を背景に、労働市場に向けた人的資本開示の重要性が示されました。

本記事では、「②人的資本投資の重要性の明確化」に焦点をあて、その具体的な考え方と実務上のポイントを整理します。

【図1】経営戦略と人材戦略の連動の考え方の明確化

再考、我が社に必要な人的資本投資

「当社はこれまでも人に投資してきた」と考える日本の経営者は少なくないと推察いたしますが、レイヤーズは今後必要な人的資本投資とは、従来の延長線上や賃上げの流れに沿うだけでなく、不透明な時代の勝ち残りにより資するべきものと考えます。初版の人的資本可視化指針では、人的資本投資の重要性に明確には言及していませんでした。しかし、今回の改訂版の第1章で「人的資本投資とのその可視化の意義」に言及したことは、人的資本投資の重要性の高まりの表れと捉えられます。そして、今後の貴社の人的資本投資が、漠とした「人への投資」とは異なると社内外に明示する必要があります。

それにはまず、「なぜ、人的資本投資を強化する必要があるのか?」の明示が必要です。その起点となるのは、改訂版人的資本可視化指針のポイント①です。すなわち、中期経営計画や長期ビジョンの達成に向けて、経営戦略と人材戦略の戦略連動性を起点に説明すべきものと考えます。次いで、「何に投資をするのか?」の明示が求められますが、何をもって人的資本投資と位置付けるかは、必ずしもグローバルで定説がないのが現状です。よって、目標達成に向け必要な投資とは何かを検討・定義することから必要です。そのうえで、中長期的スタンスから投資の進捗やリターンの意識・検証と、人的資本投資が将来のリターンにつながるナラティブ(双方向で腹落ちする対話)による裏付けが望まれます。また、「人的資本投資の適正化」すなわち、メリハリを付けて投資に対するリターンを中長期的に高める視点も必要でしょう。「人的資本投資」の御旗のもと、単に金額を増やせばよいものではありません。そのためレイヤーズでは、人的資本経営強化の一環として、成果を上げた社員や難易度が高い業務に挑む社員により報いつつ、報酬額総額の増加を抑える評価・報酬制度の構築をご支援しております。

リーダーシップは重要な投資対象

戦略的投資が必要なテーマとして、改訂版人的資本可視化指針が掲げるのはスキル、処遇、健康増進・働きがい、女性活躍、ダイバーシティの5つですが、レイヤーズはこれらに加えて、重要性が高い投資テーマがあると考えます。それは、以下に概説する「リーダーシップ」と「テクノロジー・AI」とです。

【図2】人的資本投資の戦略的テーマとは

「リーダーシップ」への投資は、足下の事業の成長や環境変化に対応するだけでなく、中長期的な勝ち残りに向けて企業文化を構築・成熟するためでもあります。リーダーの選定・育成は、組織の信頼関係や心理的安全性の構築を通じて、メンバーのワーク・エンゲージメントを高め、ひいては能力や情熱を解放するうえで重要です。他方、サクセッサーの人財要件(能力・スキル・資質等)が必ずしも明確でない、またその育成においてはスキルが重視されがちと認識しております。今後、人財要件を固めてサクセッションプランを継続的に運用する過程では、能力・スキル偏重になるのでなく、組織文化への影響が大きいサクセッサーの資質や多様性等にも目を向けることが必要でしょう。それには、サクセッサーの目利き・発掘や採用/代謝等にも、しっかり投資することが必要とレイヤーズは考えます。

「テクノロジー・AI」投資も立派な人的資本投資

リーダーシップに加えてテクノロジー・AIも、中長期的に競争力格差を拡げる基盤作りへの重要な人的資本投資であるとレイヤーズは考えています。特に、テクノロジーを活用した業務効率化は最早「待ったなし」の状況であり、人事領域もその例外ではありません。最近では、AIエージェントの急速な普及により、劇的な業務効率化が実現可能となっています。レイヤーズのPoCの実践例では、AIエージェントの活用により、最大95%の本社間接業務の削減に成功しています。

先行企業は、こうしたテクノロジー活用による業務効率化から歩を進めています。効率化により創出した人事部門のパワーを、ピープルマネジメントやHRBP等の本来的な人事機能強化に充てる実践ないし具体的検討を進めています。また、タレントマネジメント強化や人材ポートフォリオ策定に着手する企業が増える中で、経営・事業が求める社員情報の整備にヒトとカネを投じるケースも着実に増えております。

おわりに

「投資」であるからには、人的資本投資は経営目標ならびに経営・事業戦略の実現性を高めるものであるべきです。人的資本経営の第二波到来を契機に、「我が社の企業価値向上に必要な人的資本投資」を本気で検討し、実践することをお奨めします。また、その実現性を高めるうえで、投資主体である企業とその受け手である株式市場や労働市場(社員・求職者)が共に腹落ちする対話(ナラティブ)が成り立つことも必要です。

我々レイヤーズは、人的資本投資を重視した人的資本経営強化のご支援実績を豊富に有します。
例えば、人的資本投資額をKGIと位置付けた人材戦略の構築、そもそも我が社に必要な人的資本投資の定義、それらの社内外向け開示等、幅広くご支援しております。また、人的資本経営の土台となる人材関連データの整備、分析・検証、精度・プロセス改善等もご支援しております。「本気の」人的資本投資の強化にご関心をお持ちいただけましたら、レイヤーズ・コンサルティングまでお気軽にご連絡ください。

【引用文献】
・【図1】、【図2】:内閣官房、金融庁、経済産業省「人的資本可視化指針(改訂版)」

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