古くて新しいテーマ「ヒトの生産性」と人的資本経営

日本の労働生産性がOECD他国を下回り頭打ちであることは、広く知られるところです。他方、企業視点では、生産現場における労働生産性改善への継続的取組みや、DXを通じて生産性向上を目指す傾向が強まっています。ただし、企業や人事の全体目標としてヒトの生産性を定量的にマネジメントする場合は少なかったのが現実です。
我々は、人的資本経営への取組みは、古くて新しいテーマ「ヒトに関わる生産性」を捉え直し、経営・人事の中心に据える好機になると考えています。

ヒトに関する生産性指標の議論

生産性を表す指標としては、国家単位の労働生産性もあれば、企業の観点ではROEやROIC等の財務数値を用いた資本生産性、また、一人当たり売上高/利益で示される労働生産性が用いられています。これに対し、人的資本経営のグローバルスタンダードになりつつあるISO 30414は人的資本ROI(HC-ROI)の考え方を示し、その数値のマネジメント・開示を推奨しています。人的資本経営ではヒトが費用でなく投資対象となる文脈において、投資に対するリターンを中長期的に高めることが望ましいとする考え方と言えるでしょう。

なお、何を「人的資本投資」と位置付けてHC-ROIの分母とするかについては、各社で定義する必要があります。財務会計の勘定科目のようにきっちり固まった定義がない分、各社に最適な人的資本投資を議論・定義する余地があるとも言えます。「人的資本投資」のあり方については、2023年6月28日付当社メールマガジンも合わせてご覧ください(ウチに必要な「人的資本投資」ってなんだ?)。

【図1】日本の労働生産性の推移

ヒトの生産性は経営と人事を結節する

当社は、人的資本経営において生産性指標を活用する上で、その位置付け・意味合いを予め明確にすることが望ましいと考えており、そのポイントは下記4点と捉えています。

第一に、経営戦略と人財戦略を連動化一体化する上で、両社の結節点かつ人事のKGI(Key Goal Indicator)と位置付けることが望ましいでしょう。ISO 30414における生産性のメトリック(基準)である一人当たりEBIT・売上高・利益とHC-ROIのいずれも、分母に人事関連の数値(従業員数や人的資本投資額)、分子には財務数値である利益や売上高を用います。すなわち、生産性指標は、一般に経営目標とされる利益=財務数値に、人事がマネジメントすべき数値を結節することが可能な数少ない指標なのです。

第二のポイントとして、既述の通り生産性指標の算出方法は定まっているようで定まっておらず、分子と分母に用いる数値とその考え方を早期に議論することが必要です。ISO 30414を基に考えると、例えば一人当たり利益・売上高を算出する際の分母はFTE(Full Time Equivalent)と定義されています。従業員の人数でなく正味の労働力に対するリターンを見る考え方ですが、外部人材の扱いとその理由、実際のマネジメント状況等は各業界・各社で異なります。同様に、人的資本投資の考え方が各社で異なることも既述の通りです。そして、これらを定義するための社内の議論は、単なる数値の定義・根拠の議論を超えて、経営陣のヒトに対する捉え方や認識の違いを表出させて目線を合わせる好機と言えるでしょう。

ヒトの生産性を読み解くスタンスとは

第三のポイントとして、経営・事業+人事の視点から課題仮説を持って生産性指標を読み解く必要があります。数値の高低や上下動だけで結論を得るのでは、生産性指標を見る意義が薄れてしまいます(当社2023年7月19日付メールマガジンも合わせてご覧ください:人的資本経営を「マクナマラの誤謬」に貶めることなかれ)。例えば、一人当たり利益に着目した場合、従業員エンゲージメントを高めたりムダ・過剰な業務を省くことで、分母のFTEは増やさずに正味のマンパワーを引上げ、分子である利益を拡大する余地が拡がるのではないでしょうか。

そして、第四のポイントは、生産性指標を読み解く上では、単年度の変動だけでなく中長期のトレンドラインも捉えるべきことです(ROEやROICでも同様でしょう)。「投資」とはそもそも中長期でリターンを追求すべきもので、特に、ヒトへの投資は即効性が得難いものだからです。かつ、利益は事業環境によって大きく変動することも考慮する必要があります。中長期の視点で見る例として、例えば、前回サイクルと今回サイクルのピークを比較して、ヒトの生産性がどの程度上下動したかをまず確認する。その上で、変動に影響した大きな要因は何か、それはなぜ生じたかを、定量情報を切り口に定性情報も交えて真因を深く掘下げて行くスタンスです。

【図2】人的資本ROI(HC-ROI)の定義

おわりに

冒頭に述べたDX等のトレンドに加えて、日本政府が奨める「人への投資」により賃上げが求められる中、ヒトの生産性向上を追求する必要性は今後ますます強まると考えられます。当社は、数値ありき、開示ありきではなく、ヒトの生産性を起点としたナラティブ(ステークホルダーと双方向の対話)として明確にして各社の成長に資する「真の人的資本経営」を、数多くご支援しております。こちらのメルマガにご関心をお寄せいただけましたら、ぜひ意見交換の機会を頂戴できますと幸いです。

なお、来たる2023年8月31日(木)には、当社セミナー「『日本の未来』を見据えた企業の目指す姿~未来予測による新規事業開発と『ヒト』で勝つ組織づくり~」を開催予定です(お申し込みはこちらまで)。本メルマガに近接した内容もございますので、合わせてご視聴いただけますようお願いいたします。

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