人的資本経営の道筋
~我が社の「人と組織で勝つ」~
人的資本投資の開示が限定的な真の理由
上記の報道では、人的資本投資の数値を用いた開示が限られた主因を、開示までの準備期間が短かったこととしており、「グループとしての意思統一が難しい」「システムやリポートラインの体制整備が追い付かない」等の企業の声を紹介していました。
この点に関して、我々は「ウチに必要な「人的資本投資」ってなんだ?」が十分に議論されていないことが、根本的な要因と考えています。換言すれば、有価証券報告書における法的開示を優先せざるを得ず、ヒトは消費ではなく投資の対象であることに関する議論が煮詰まり切らなかったケースが多いためとも言えます。そして、2024年3月期の非財務情報の開示に向けて比較的余裕がある今こそ、人的資本投資を巡る議論にじっくり向き合うべきタイミング、と我々は考えております。
そもそも、人的資本投資とは?
人的資本投資の議論が煮詰まっていない一因は、人的資本投資の明確な定義が世の中に存在しないことと考えられます。また、自社の理念や戦略を実現するためにヒトを育てて価値を高める投資が、多くの企業において意識や位置付けが曖昧だったことも一因でしょう。仮に意識や位置付けが明確であれば、今回の有価証券報告書で積極的に開示する企業はもっと多かったのではないでしょうか。
我々は、人的資本投資の対象は価値向上、価値維持、マネジメント基盤の3つがあると考えます。価値向上については、組織として出力を増大する投資(採用活動等)と、社員の出力を増大する投資(育成・エンゲージメント向上等)に分けられます。また、価値を維持する観点では、報酬・福利厚生や社員の健康・安全確保のための投資があるでしょう。そして、人的資本投資を有効なものとするには、人財マネジメントの基盤を整備・強化する投資も必要になります。人的資本経営を進めるためのデータ整備やITシステムに対する投資、人事部門の強化がその好例です。
そして、人的資本投資の対象や重点は、各社によって当然異なるものと考えます。各社の置かれた現状や経営戦略が異なる以上、何に重点的に投資すべきか(あるいはする必要がないのか)も異なってしかるべきだからです。横並びの人的資本投資では差別化が図れない、勝ち残りが覚束ないとも言えるでしょう。
【図1】人的資本投資額のマネジメント項目例
ウチに必要な「人的資本投資」のポイント
人的資本投資を定義してマネジメントすることは、中長期的に人的資本投資に対するリターンを向上させることと同義です。それは、仮に人的資本投資に該当する項目であっても、今後は継続性のみを理由に投資を続けることが難しくなり得ることでもあります。例えば、研修費用は人的資本投資の重要な項目と考えられます。しかし、従来同様の階層型研修で本当に十分なのか、よりリターンを高め差別化に資する方法や内容はないのか、が問われるでしょう。その投資の目的・位置付けが、戦略上明確であり、また、ステークホルダーの腹落ちを得られるかが問われるとも言えます。
以上の議論を踏まえて、「ウチに必要な「人的資本投資」ってなんだ?」を検討・実践する上で我々がポイントと考える5点を、以下にお示しします。
【図2】ウチに必要な「人的資本投資」ってなんだ?
人的資本投資の定義やマネジメントは、今後ますます重要性が高まる経営上のテーマであり、本格的議論はこれからのテーマでもあります。この記事に少しでもご関心をお持ちいただけましたら、ぜひ事例紹介や意見交換の機会をいただければと存じます。各社の人的資本経営を推し進めることに、少しでもお役に立てますと幸いです。
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この記事の執筆者
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小宮 泰一HR事業部
ディレクター -
細川 毅騎HR事業部
シニアコンサルタント -
市川 桜南事業戦略事業部
シニアコンサルタント
職種別ソリューション